やぁ
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2015年 05月 10日 Sun
投下したやつと同じです

tinker_20140811214721a43.jpg

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背を向けるのも向き合うのも自由だけど、絶対に逃げられないもの、なーんだ?

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世界最大の豪華客船、そして船上都市という二つの言葉が連想させるのはオアシズを置いて他にはない。
客船を改造して作られた街の発電装置は自然の力だけで街一つに十分な電力を供給できるよう設計されており、船で文字通り一生を過ごすことが可能だ。
惜しむらくは世界最大級の船だけあって、寄港できるだけの環境が整っている限られた街にしか停泊できない事だけ。
それ以外の全ての事は船で事足りる上に、街に寄るたびに新たな商品を仕入れ、常に流動的な環境が船内の景気を停滞させることなく循環させていた。

言い換えれば、立ち寄らずともある程度の事は船の中で完結できるという事であり、万が一大地が裂けようともこの船だけは神話に出てくる箱舟のように悠々と終末世界を旅できるというわけだ。
だが、現在オアシズが停泊している港を保有するティンカーベルに乗客達が降り立つことは制限されていた。
制限に伴って商品の搬入出も禁止され、事態が落ち着くまでの間、船から降りることも船に乗り込むことも出来ない。
接岸していながらも島に降りることが出来ないがオアシズはもともと独立した街であり、陸地から離れていても生活するという意味では何一つ問題はない。

不燃ごみなどの廃棄物に関してはコンテナに積めたものを特定の廃棄場に運び出すことが許されている以外、何一つとして船に入ることも出ることも認められなかった。
それでもオアシズ側は不平一つ漏らすことなく、警察の要請通りに規定を守り続けている。
オアシズとしても犯罪者を船内に招き入れるのには反対というスタンスを貫いているため、船と外界を繋ぐ存在に対して警戒することに対しては大いに賛成していた。
船と港を繋ぐ唯一の道はオアシズの船倉と通じるものだけであり、そこは入り口が封鎖されている上に完全武装した男たちによって厳重な警備下に置かれている。

支給されたライフルはダットサイトとフラッシュライト、そしてアングルドフォアグリップを装着したコルトM4カービンライフルで、背負うのは傑作強化外骨格“ソルダット”と重装備だ。
埠頭には三人一組の警備員が随時巡回を行い、不審者や不審物に細心の注意を払っていた。
彼らはジュスティアから派遣された兵士ではなく、オアシズが契約している警備員であり、その忠誠心と練度は軍人と比肩し得るだけのものを持っている。
軍帽の下から覗く双眸は闇を鋭く睨みつけ、安全装置の解除されたライフルのトリガーガードに指がかけられ、いつでも発砲出来る状態を整えている。

オアシズの厄日と呼ばれる連続殺人事件と海賊の襲撃以降、住人の命を守るという行為の重さに比べて銃爪を引く行為の軽さを実感した彼らの動きに躊躇はなくなった。
万が一不審者が現れた際には実力を持って対処することを誓い、銃把を握る手にも力がこもる。
離れた場所、グルーバー島の中央でグレート・ベルが“鐘の音街”の名に恥じぬ巨大な鐘の音を響かせた。
その美しい音色は数世紀以上も変わることなく島にあり続け、今なおその役割を果たし続けている。

警備員の一人が腕時計に目をやる。
夜光液で浮かび上がる文字盤が示す時刻は夜の五時五十五分。
六時五分前に鐘が鳴る習慣があるとは知らなかったが、そもそも島にある全ての風習を部外者が理解するなど不可能なのだ。
時計から目を上げ、警備員たちは歩哨の任務を再開した。

赤に染まった水平線の果ても、もう間もなく夜の帳に覆い隠されようとしている。
本格的な夜の到来に伴い、風が冷気を帯び始め、波の音と相まって夏の暑さを忘れさせてくれた。
避暑地としても知られているティンカーベルならではの気温変化だが、冬は川の水も凍るほどの寒さになる。
だからこそ発展したのが、アルコール度数の高い酒だ。

特にウィスキーの生産が盛んなのが、グルーバー島の西に位置するバンブー島である。
泥炭をふんだんに使って燻し香を身に纏った琥珀色の液体は、他に比類のない深みのある香りと味、そして中毒性を有している。
ティンカーベルの地で始まったとされるこのウィスキーは、スコッチ・ウィスキーと名付けられ、世界で愛飲されている。
しかしその輸出すらも禁止された今、何日間港が封鎖されるにしても、一日の遅れで生じる損害は相当な物だろう。

積み込みに勤しむ商業船などで賑わいを見せるはずの埠頭も、最低限の明かりだけで照らされて寂しげな印象を与える。
警備員が主に注視しなければならないのは海面だった。
埠頭に通じる橋を渡る者がいれば、島側の出入り口を封鎖している軍関係者たちから連絡があるはずだからだ。
橋の可能性をなくせば残りは海だけ。

潜水装備を身につけた賊が現れる可能性を視野に入れ、二人はライトを地面ではなく海面の上を磨くようにして念入りに照らし、微細な変化に目を光らせている。
強化外骨格の中には潜水能力に長けた物が存在するが、使用するのが人間である以上は空気を外部に排出する必要がある。
つまり、不自然な泡があればそれは注意するに足るものという事。
仮に無呼吸で動いたとしても、多少なりとも透明度のある海中を動かなければならない以上、その姿を見つけ出すことは可能だ。

水平線に見えていた陽が沈み、オレンジとも紅蓮とも言える美麗な空が濃密な紺色に押しつぶされ、瞼をゆっくりと閉じるようにして夜へとその姿を変えた。
一日に一度しか見ることの出来ないその光景を、不思議なことに三人が三人とも眺めてしまっていた。
あまりにも美しい光景に目を奪われるのは人間として正しい反応だったが、彼らは決して警戒の糸を緩めたわけではない。
現に彼らは、無線機から聞こえてきた声に対して即時対応できたからだ。

『……こえるか? 聞こえるかオーナイン?』

聞き慣れたジュスティア軍人の声が無線機の向こうから呼びかけてきている。
いつもの雑談というわけではなさそうだ。
無線を通じてのやり取りしか行っていないが、すでに互いの好みや声を覚えるまでには仲が親密になっている。
何気ない故郷の話や酒の話。

事件が終わり次第、会って酒を飲みかわそうという約束まで取り交わしている仲となった。
共通認識が異なる街の人間を結び付け、思わぬ交友を広める機会になったのは皮肉というべきか幸運というべきか。
しかし規定のために名前を話すことは許されておらず、両者ともにその一線を越えないようにして話をしていた。

( 0"ゞ0)「こちらオーナイン。 何か起きたのか?」

『タクシーが来て、今検問で止められている。
オアシズへの乗船を求めている客がいるそうだ』

犯人の逃亡を防ぐため、橋に通じる道は厳重に封鎖され、特に船に近づくための道は徹底して守られている。
その検問の一つに引っかかったのは、今日はこれが初めての事だ。
むしろこの状況下で動くような馬鹿がいるとは思わなかった。

( 0"ゞ0)「そちらで対応を」

当然の返答だ。
正直なところ、この事件に関してオアシズ側が持つ責任というのは乗客の安全を守る事であり、島の安全回復を手助けする義理はない。
失態を犯したのはジュスティアであり、オアシズではないのだ。
第一、島全体を封じたのはジュスティア側であり、怪しげな車両・人物の判断は彼らに一任されている。

オアシズの警備員が行うことはと言えば、ジュスティア側が許した人間が本当に安全なのかを確かめることと船の安全を維持することであり、遠く離れた検問所に指示をすることでもない。
仕事が分業されている以上、余計な介入は無用。
特に、大きな事件に関わり合いになるのは御免こうむる。
例え仲がよかろうとも、その一線を越えてしまえば双方の仕事に支障がでる。

互いにやるべきことをやる。
それが仕事だ。

『自称新聞記者の男で、市長と話がしたいと言っている。
緊急の用件だそうだが、どうする?』

( 0"ゞ0)「追い返してくれ。 ゴシップ記事を書かれたら俺が市長に殺される」

今朝行われたライダル・ヅーの会見によれば、モーニング・スター新聞は昨晩の火事について独自の調査を行い、記事に書き起こし、事件解決の妨害をしたらしい。
そのような前歴のある新聞社を、みすみす船内に招き入れる訳にはいかない。
市長も同様の意見であろうことは、火を見るよりも明らかだ。
沈静化の方向で進んでいる船内を再びかき回されようものなら、オアシズは再び大きな損害を受けることになる。

自分たちの行った愚かな報道を顧みずに来たのであれば、彼らの厚顔無恥な振る舞いに対して暴力で応じる他ない。

『了解』

そして、無線機から音が途絶えた。
再び訪れた静寂の時間。
興味本位で記者が近付いてくるかもしれないことが分かった警備員たちは、一層気持ちを引き締めて警戒にあたることにしたのであった。

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                    Ammo→Re!!のようです

            Ammo for Tinker!!編   第八章 【brave-勇気-】

                                          August 10th PM06:24
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海から吹き付ける風は冷たく、肌寒くすらあった。
黄色い塗装のタクシーからは排気ガスが程よい熱を悪臭と共に吐き出され、車の傍は風さえなければ程よい温度を保っていた。
期待していた言葉が得られれば風の冷たさなど喜びで忘れる事が出来たのであろうが、男が期待していた返答は得られなかった。
風は、容赦なくその強さを増し始める。

絶望的な経験はこの三日の内に何度も経験してきたが、これほどまでに心折れるとはアサピー・ポストマンは思いもしなかった。
せっかく状況を好転させ得る情報を持っているというのに、相手方はそれを求めていない。
当然の展開と言えばその通りであるが、自分の持つ情報が見向きもされないというのはあまりにも悲しい話だ。
そして今、アサピーはもう一つの危機と直面していた。

命からがら急いでタクシーに飛び乗ってオアシズを目指したのはいいが、肝心の金がなかったのだ。
気付いたのは乗車して目的地を告げ、メーターが三十ドルを示した時だった。
着の身着のまま病院から連れ出されたため、金になりそうな物は何一つ身につけていない。
金銭がないままにタクシーを転がしてしまった以上、金は払わなければならない。

しかし無い袖は振れない。
逆立ちしたところで一セントも転がっては来ない。
このままでは運転手に警察に突き出されて投獄されるのは必至。
ただでさえ方々から狙われている上に、警察はアサピーを目の敵にしている。

その理由を作ったのがアサピー自身であることが、更に最悪だった。
エラルテ記念病院で起こった火災事故を“事件”として記事にして、警察全体に良くも悪くも多大なる影響を及ぼした。
己の行動によって多くの警察官が迷惑をこうむり、捜査に支障が出ることは記事を形にする前に分かっていたが、止められない思いというのも世の中にはある。
何よりもアサピーが信じているのが、真実を表にするという行為の持つ絶対的な正義だ。

秘密裏に処理されてしまう事件の影というのは、公に出来ない後ろめたさがあるものである。
問題なのはそれが隠され続け、特定の人間だけが墓場に持っていくという特権を有していることだ。
情報は公平であり、その公平さの中で初めて善悪が決定する。
単純な殺人一つを見ても、それが自らの尊厳を守るための行為なのか、それとも快楽を目的としたものなのかは情報無くして判別できない。

民衆は真実を欲しているのだ。
欲しているのだから、与えるのだ。
それこそが記者。
それこそが、アサピーの心掛ける記者の絶対的な信念である。

信念を貫き通すためには必要な物がある。
この世界を動かし、変え得るものと同様に“力”だ。
マスメディアはその力を腕力、武力以外で持つ言わば第三の力を掲げる存在。
その一員であるアサピーがこの状況を打破するには、その力を使う他ない。

使える力は情報の収集とその発信である。
これまでに手に入れた情報を利用して、何かしらの突破点を見つけなければアサピーは無賃乗車の罪で投獄される。
そんな愚かな話があろうか。
ティンカーベルを大きく揺るがす事件の片鱗を握りながらも、くだらない罪で投獄されるという事が愚か以外の何に思えよう。

島の状態を考えれば、オアシズは絶対的な安全圏。
そこに逃げ込み、手に入れた情報をトラギコに共有するための手段を模索すれば大きな進展が期待できる。
だというのに、オアシズ側はアサピーを受け入れてくれない。
果たして本当に、今目の前にある検問所の人間はアサピーが話した通りの言葉を伝えてくれたのだろうかと心配になる。

オアシズの停泊する埠頭に通じる橋は言わば最後の砦であり、そこを守るための検問所は海沿いの道を完全に封鎖する形で配置されている。
車両を使って強硬突破を試みようなら即座に破壊するだけの装備があり、武器がある事をアサピーはタクシーから確認した。
いくら運転手を脅してもオアシズへ到着する間もなく爆殺されるに違いない。
急造されたにも関わらず検問所は厳重な状態にあり、二人一組で砂浜を警戒している様子が伺える。

確実なことは言えないが、おそらくは橋の上にも数か所の検問所があるのだろう。
複数個所に分担して道を封鎖することで、取り逃がしや取りこぼしを防ぐ効果が期待できる。
それでも防げるのは物理的な問題であり、情報はそう簡単にはいかない。
人から人へと伝えられる情報以外にも、紙やラジオを通じて伝えられる情報を完全に封じるのは不可能だ。

その自由さこそが情報の強みであり、そして弱みでもある。
実際に必要とする人間に伝わらなければそもそもの効果がない上に、そこに悪意が紛れ込めば情報は本来の方向性を失い、暴走してしまう。
生き物のように繊細で、大砲のように強力なもの、それが情報だ。
特に人伝いの情報伝達は誤解が生じたり、連絡内容に徐々に間違いが紛れ込んだりするのが常である。

そういった情報の特性を理解した上でそれを取り扱うのがプロだ。
仕事をする人間の全てがプロであれば誰も困らないが、世の中そうもいかない。
無能な人間もいれば、化け物じみた能力を持つ人間もいる。
今回の場合、アサピーの状況を端的に伝えたりすれば当然伝わらないし、そのように扱われれば断られるのが道理。

せめてこちらの服装からただならぬ状況を察してほしいし、病院から連れ出された経緯を軍人が共有していればまだ身動きが取れる。
しかしながら、詰所から帰ってきた男の反応を見る限りでは情報共有はなされておらず、丁寧に説明したとは思えなかった。
情報はこうも簡単に死ぬのだ。
改めて話をするように頼み込むアサピーに対して警備の男はライフルから手を放すこともなく、短い言葉で彼に再び退去を命じた。

|゚レ_゚*州「悪いが、例外は認められない。 話をしただけでもありがたいと思え」

(;-@∀@)「ああそりゃあどうもありがとうございます。
      でもですね、軍人さん。 どうしても話をせにゃならんかもしれんので。
      アサピー・ポストマンって聞いたことないですかね?」

食い下がることは記者として必要な資質の一つである。
駄目だと言われて引き下がるようでは、記者失格だ。
例え相手が柔軟性の欠片も持ち合わせていない人間だとしても、だ。

|゚レ_゚*州「話は以上だ」

(;-@∀@)「以上だ、って…… この事件に関する重要な情報があるんですってば!!
      ここに来たのだって、あなた達の仲間が襲われて大変なことになったからで。
      だもんで、とにかく僕の話を!!」

|゚レ_゚*州「ならここで話せ」

堅物。
これがジュスティア軍人の理想的な対応であり、一般的な対応であった。
マニュアルに対して絶対服従、規律遵守の性格は警備員としてはこの上なく必要な能力である。
逆に、個人の裁量で動かれては警備の意味がなくなる。

最高の警備員に人間性は不要と著書内で記したのは、ジュスティア警察の最高責任者、ツー・カレンスキーだ。
軍の元帥であるタカラ・クロガネ・トミーも兵たちに同様の躾を施しているらしく、軸のぶれなさが如何にもという具合である。
反抗するアサピーの様子を見て、新たに二人の兵士が現れた。
威圧的な視線を向けられるが、それでも諦められない。

諦めればこれまでの努力が無駄になる上に命の危険に晒され、無賃乗車の罪で逮捕されてしまう。
突破口を得るまでは梃子でも動くまいと決め込んだアサピーは、これで生じた犠牲や被害に対しての責任について問うことにした。
正に、その時である。

(::゚J゚::)「……まて、お前がアサピーか? モーニング・スター新聞の?」

地獄に仏とは、まさにこの事。
首を縦に激しく振って男の言葉を肯定する。
アサピーの名を知る話の分かりそうな男が現れ、事態が好転するかに思われた。
だが。

(::゚J゚::)「お前が今日の朝刊を書いた糞記者だな!!」

(::0::0::)「何?!」

|゚レ_゚*州「……ほほう」

事態が思わぬ方向に動き始めた。
それまでの空気とは打って変わり、兵士たちが向ける視線の中に嗜虐的な物や怒りの色が伺える。
興味を持たれたのは大いに嬉しいことだが、この展開は好ましくない。
空気の変異に対してアサピーは身の危険を感じ、一歩下がって背中をタクシーの扉に預けた。

極力名前と会社名を出さずにおいたのは、こうなることが怖かったからだ。
警察に恨まれていれば当然、軍人にも恨まれているしジュスティア関係者の全員に嫌悪されているはずだ。

|゚レ_゚*州「予定変更だ。 ちょっとこっちに来い」

(;-@∀@)「あ、いや、やっぱり遠慮しときます」

(::0::0::)「まぁまぁ。 タクシー代は払っておいてやるから」

(;-@∀@)「あ、こりゃどうも」

首根っこを掴まれたアサピーはテントの幕内に連れていかれ、状況の進展に内心で喜んだ。
その喜びが恐怖に切り替わるのに時間はそうかからなかったのは、無言で椅子に座らされ、両手両足を結束バンドで拘束されたからである。
明らかに歓迎ムードではないのは分かっていたが、ここまで乱暴に扱われるとは思いもしなかった。
せいぜい唾や罵声ぐらいで済むと思っていたが、それどころでは済まないのは間違いない。

(;-@∀@)「これは、流石にやりすぎじゃないっすかね?」

ハードSMで互いに楽しもうというわけではなさそうだ。

(::0::0::)「やりすぎかどうかは、結果次第だろうな。
     俺たちは記事を書けないが、これからやる事がどういう効果を生むのかは分かっているつもりだ」

(;-@∀@)「あ、怒ってます?」

(::0::0::)「まさか。 とりあえず俺たちは不審者を捕まえて、尋問をするんだ。
     仕事だよ、仕事。 お前が何者なのか、口を割ってもらうまで尋問する」

彼らがここに連れてきた意味が分かった。
不審者への尋問という形で、今朝の記事を生み出したアサピーに対して復讐しようというのだ。
あくまでも職務上の行為故に咎められることもなければ、彼らの行為に間違いはない。
罵倒するよりも遥かにストレス発散になる。

(;-@∀@)「ぼくは怪我人ですよ!! 怪我人に対して非道なことをして、恥ずかしくないん――」

それ以上の言葉を紡ぐ前に、アサピーの口に絞り雑巾が突っ込まれた。
泥と腐った水の味がした。

(::0::0::)「まずは口の利き方を直させなければなあ」

|゚レ_゚*州「任せな、教育は得意なんだ」

男は指の骨を鳴らしながら近づき、左手の拳を握り固める。
その事前動作が示すのはただ一つ。

(;-@ロ@)「もぼぼー!!」

振り下ろされた拳が、アサピーの太腿を直撃した。
激痛のあまり飛び上がりそうになるが、椅子から離れることが出来ない。

|゚レ_゚*州「俺たちに舐めた口を利いたら、次は殴るぞ。
     今のは撫でただけだ。 そうだろ?」

(;-@ロ@)"

首肯する他ない。
拳を使わずに口頭で済ませられないのかと言いたかったが、どうにか耐える。
しかし。
男が全くおかしなことを話し始めた時、アサピーは自分の考えが甘いことに気付く。

(::0::0::)「さて、質問を始めるか」

当たり前の話ではあるが、口の中に雑巾が入ったままでは二択の質問以外に対して答えることは不可能だ。
初めから何も聞く気はないのだ。
これは痛めつけるための儀式、そして遊びの一環。

|゚レ_゚*州「クラーク、道具は?」

( ''づ)「ほらよ」

新たな男が持ってきたのは、黒い布とバケツに入った水。
何に使われる道具であるかは、一目瞭然だった。

=(;-@ロ@)=

迫る男の手から逃げるようにして体を激しく揺らして抵抗するも椅子を倒されて無駄に終わり、布を被せられて視界を奪われる。
恐らくは水を使った最も手軽な拷問方法、それがウォーターボーディングだ。
布を伝って水を鼻や口から流し込むことで、人体に溺れていると錯覚させることで苦痛を与える拷問であり、軍や警察の情報収集でよく使われている。

(::::::::::)「んー!!」

講義も虚しく、アサピーの顔に海水がかけられた。
一度にかけるのではなく、鼻の穴に流れ込む量が多くなるように少しずつ必要な場所に流してくる。
口は閉じればどうにかなるが、鼻の場合はどうにもならない。
意図的に封じる訳にもいかず、口の中の雑巾のせいで呼吸は鼻に頼らざるを得ない。

結果、尋常ではない量の海水が鼻を通じて体内に――と錯覚させている――流れ込み、アサピーはもがき苦しむ。
水を吐き出すことも叶わず、最小の水で溺れさせられる。
程よく苦しんだところで布が取られ、口からも雑巾が抜き取られた。
海水を吐き出し、せき込む。

(;-@д@)「ごっほ、げはぁっ!!」

(::0::0::)「ああ、悪い。 雑巾を取るのを忘れてたよ」

人生に最悪の一日があるのだとしたら、アサピーにとってそれは間違いなく今日だ。
再度布をかけられ、水を注がれ、たっぷりと苦しんでから解放される。

(;-@д@)「は、はなしを……」

|゚レ_゚*州「しつこい奴だな」

(;-@д@)「お願いですから、話を…… ぎゃっ!!」

ブーツの爪先が、アサピーの太腿を直撃した。
恨まれるのは記者としてよくある話ではあるが、拷問されるという話は聞いた試しがない。

(::0::0::)「まだ素直になり足りないらしい。
     もう一度だ」

そして、濡れた布がアサピーの視界を覆い尽くした。

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August 10th                              .,.,,....::;:;;.,:;:;;.,::;;:;;;;;;;;;;;;; PM07:11      
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初めて新聞というものに興味を持ったのは、六歳の時だった。
その時期、アサピーの友人たちが話題にしていたのは漫画本やコメディアンの話で、誰もニュースには興味を持っていなかった。
勿論、アサピーも最初は漫画やラジオドラマの話が面白く感じていたのだが、八月六日のモーニング・スター新聞の朝刊が全てを変えた。
世界最大の鉄道都市“エライジャクレイグ”が手掛ける線路工事の地域が拡張され、数十年以内に世界最高峰のクラフト山にまでそのレールを広げるという計画が書かれていたのである。

鮮明に記憶しているのは、カラーで描かれた線路図とそれがもたらす世界への影響だ。
要点を捉えた記事は彼の想像力を大いに掻き立て、エライジャクレイグが新たに開発した列車の内装は彼に夢を与えた。
そこで列車に興味を持てばまた異なった未来が待ち受けていたのだが、アサピーがその心を奪われたのは写真だった。
一枚の写真、そして複数の文章が与える力に魅了され、いつしか自分も新聞記者として活躍して世界中の様子を伝えたいと思うになったのだ。

関わった――というよりも、一人で作り上げた――学級新聞が校内で表彰され、景品として渡されたポラロイドカメラは文字通り壊れて動かなくなるまで使い続けた。
思えば安物のカメラであったが、この上のない宝物としてアサピーはそれを使った。
最初に撮影したのは家事をする母親だった。
それが遺影になった日、十三歳になったアサピーは真実の普及に対して妄執的な考えを持つようになる。

精神的に不安定な女が運転する乗用車が歩道に突っ込み、歩行者七人が次々と撥ね殺された。
悲惨な交通事故として処理された突然の死に対して、アサピーが求めたのは真実だった。
事故が起こったアサピーの生まれ故郷である“潮風の街”、カティサークは幸いにしてジュスティアと契約して警察と司法が行き届いていたため、犯人はすぐに逮捕された。
問題となったのは、犯人の責任問題や事件が起こった背景にあったが、街の長の意向で犯人の名前や出自、事件の詳細などは一切公表されなかった。

裁判が行われたが傍聴席は解放されず、一般への公開もなかったことが事故の背後に何かがある事を匂わせていた。
秘匿された真実は逮捕から二日後に下された懲役七年という罰で隠され、遺族以外の記憶から風化するかに思われた。
事故の真実を教えてくれたのは、新聞だった。
複数の新聞社がこの事故の背後関係などを調べ、一年後、モーニング・スター新聞社のライバルであるオトコウメ・ニュースペーパーが一面を使って報道したのである。

そして公になったのはカティサークの長と犯人との間で金銭的な取引があり、意図的に情報が隠され、刑罰が軽くなったという真実だった。
司法はあくまでも警察と契約を交わしている人間の意見を反映するための機関で、いわば警察のおまけだ。
どれだけ非道な真似をしたところで、契約者がそれを非道と認めず、重い罰を望まなければそれまで。
事故が事件へと変わった瞬間、アサピーは救われた思いがした。

知りたかったのは理不尽の理由。
犯人の死に方よりも、理由に関係する情報の方がアサピーを救ってくれた。
真実とはあるべき人の手元に帰すべき物で、選ばれた人間だけが眺めていていいものではないと感じたのはこの日からの事。
以降は写真を取り、雑誌に投稿し、出来る限りメディアに関わりを持ち続けようとした。

アルバイトで貯めた金でカメラを買い、写真を撮り、新聞社や雑誌社に送る日々が続いた。
苦しい生活が続く中でもアサピーが耐えられたのは、夢があったからだ。
いつの日か隠された真実を写真に収め、世界に向けてそれを公表すると云う夢。
息苦しさを覚え、アサピーの意識がそこで覚醒した。

(;-@д@)「げほっ、ごはっ!!」

飲み込んでしまった海水を吐き出す。
雑巾の風味が程よく合わさり、嘔吐感を誘発する。
しかし全ては錯覚による影響だ。
実際に溺れたわけではないので、水はあまり飲んでいない。

錯覚により体が反応しているだけで死ぬわけではないのだ。

从´_ゝ从「ほら、起きたか?」

(::0::0::)「あと少しで死ぬところだったが、気分は?」

時間は分からないが、どうやら気絶していたようだ。
死にかけたというのに、全く悪びれる様子のないジュスティア軍人たち。
男達がいくらアサピーに対して恨みを持っているにしても、いささかやりすぎだ。
が、間違ってもそれをここで糾弾しようものなら間違いなく殺される。

糾弾するとしたら、生きて帰ってからだ。

从´_ゝ从「覚えておけよ、新聞屋。
      お前らが捜査を邪魔するたびに、俺たちの仲間はこんな気分になるんだ。
      一歩間違えれば死にかねない仕事をしているんだよ、俺たちは」

ようやく終わりが見えてきたのを察したアサピーは、彼らが反省を求めていることを理解した。
記事が生むのは良い影響だけではないのは重々承知しているが、悪影響をこうむる人間の種類を深く考えたことはなかった。
最初の頃は良心の呵責があったが、それは意味のない葛藤だと断じて忘れることにした。
無意識下で意識しないようにしてきたのは、記者として生きるためだ。

知らないわけではない。
ただ、考えないように生きてきただけである。
記者は読者が求める真実を見つけ出し、掘り出し、作り出し、そして生み出す。
そのためには誰かが傷つくことを考えてはいられない。

分かっていることだ。
拷問されて思い出すようなことではない。
それでも、今一度考えるいい機会になった。
そう思わなければ、この受難はあまりにも耐えがたい。

新聞記者を辞める日が来たら、この事を自叙伝として出版してもいいぐらいだ。

(::0::0::)「これに懲りたら、もう二度とあんなことをするなよ」

腕の結束バンドをナイフで切り、男がそんなことを言う。
無論、話を聞くつもりはない。
せめてもの反抗として、アサピーは返事をしなかった。

(::゚J゚::)「……おい、何をしているんだ?」

足を固定している結束バンドにナイフの刃が食い込みかけた時、テントの幕を開けて入ってきたのはアサピーの正体を告発した男だ。
声色に滲み出るのは批難の色。
既視感のある嫌な予感に、アサピーは身を震わせた。

从´_ゝ从「あぁ、痛めつけたからもう帰す。
      怪我をしているようだしな」

(::゚J゚::)「何を甘いことを。 こいつを帰したら、また同じことをするぞ」

从´_ゝ从「その時はまた捕まえるだけだ」

先ほどまで痛めつけていた男の声に、もう憎しみのそれは窺えない。
生粋のジュスティア人らしい対応であり、頼もしくすら思える。
今現れた男はアサピーを敵として認識しており、紛れもない憎しみの感情を持っている。

(::゚J゚::)「こいつは今ここで殺しておこう」

(::0::0::)「おいおい、正気か? 何でそんなに殺すことにこだわるんだ?」

(::゚J゚::)「当たり前だろ」

さも当然のように言い放ったその言葉からは、一片の揺るぎも感じ取れない。
害虫を見つけたら殺す、そんな風にしか聞こえなかった。
アドレナリンによって紛らわされていた恐怖が、今になってアサピーの体に寒気を思い出させた。
痛めつけるのではなく殺されるという行為に幾度となく晒されてきた彼は、殺意と呼ばれるものに敏感に反応することが出来るようになった。

(::゚J゚::)「そいつは、ここで君たちに殺される予定なんだ。
     ただでさえ予定が狂っているんだ、ここらで修正しないとね」

徐々に変わりゆく男の様子。
この雰囲気、アサピーは知っている。

从´_ゝ从「何を――」

(::゚J゚::)「お休み」

男が放った台詞と同時に、男二人が昏倒するようにして倒れる。
二本のワイヤーが男たちに繋がっていることから、テーザーガンを使ったのだと推測できた。
本来であればすぐにでも逃げ出したいのだが、足と椅子がまだつながったままのために起き上がる事すら叶わない。

(::゚J゚::)「さて、そういうわけで死んでもらおうか」

その外見、口調や声色こそ違うが、放つ雰囲気は既知の物。
モーニング・スター新聞社を襲い、同僚を殺し、アサピーを殺さんとした男のそれと酷似している。

(;-@∀@)「ひょっとして、ショボン・パドローネ?」

(::゚J゚::)「……ほぉ、よく分かったね。
     流石に成長するか。
     ま、意味ないんだけどね」

あっけのない肯定の後、ショボンはアサピーの腹部を蹴り上げた。
呼吸が止まり、悲鳴を上げることも出来ない。
仮に悲鳴を上げたところで、この場所に連れてくる姿を見られている以上、助けは期待できない。
ジュスティア警察や軍隊を敵に回しているアサピーを助ける酔狂な人間など、少なくともこの検問所にはいないだろう。

完璧な変装をしたショボンは慣れた手つきで痛みに喘ぐアサピーを再び椅子に固定し直し、雑巾を口に突っ込んだ。
そして布を被せ、水をかけ始める。
拷問は適度に苦痛を与え続ける物だが、ショボンの場合は殺すために行う。
そのため、海水は途切れることなくアサピーの鼻に注がれ、体力と冷静さを奪い続ける。

何度も咳き込んで口から吐き出そうとするも雑巾が邪魔をして、上手くいかない。
尋問中の事故死を装うのならば、この殺し方しかない。
すでに幾度も痛めつけられていたせいで意識を逆転のための思考に割くだけの余裕はもはや残っておらず、殺されるのを待つ他ない。
あと一歩。

本当に、あと少しという所でオアシズに辿り着けるというのに。
アサピーに出来るのは空気を求め、塩水を吐き、楽になる事を求めて抗うだけ。

「……ん?」

ショボン――声色は別人――の声が、何かに気付いた風に漏れ出た。
その間にも海水をアサピーに垂らすのを止めることはなく、本当にショボンが声を出したのを聞いたのかどうかも怪しい。

「今度は番犬の登場か」

そしてその言葉を最後に、アサピーはその日三度目となる気絶を体験することになった。

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<_プー゚)フ

相性を考えれば、ダニー・エクストプラズマンにとってショボン・パドローネという男との戦闘で負けはないはずだ。
この禿頭の男はあれやこれの下地を作ってから戦いに挑むタイプで、突発的な戦闘を好まない性格をしている。
逆を言えば、ショボンはこうした突発的に発生した状況下での戦闘を苦手としているという事だ。
多少の危険が伴ったが、アサピー・ポストマンを泳がせておいて正解だった。

これがライダル・ヅーの仕掛けた第二手目。
何度も命を狙われるだけの価値を持つ男を餌にして、最重要目標を釣り出すという作戦は見事に形を成した。
新聞社で対峙したショーン・コネリの報告を聞く限り、ショボンの持つ強化外骨格はBクラスのコンセプト・シリーズ“ダイ・ハード”。
近接戦で高い能力を持つダイ・ハードが相手ならば、エクストの“ダニー・ザ・ドッグ”の方が優位にある。

高周波発生装置を搭載しているとはいっても、それは脛にある楯と各関節に仕込まれたナイフだけの話。
同じく一つの能力に特化して設計されたダニー・ザ・ドッグは全身が高周波兵器だ。
短期決戦を狙えば、負けることも仕留め損なう事もあり得ない。
しかもショボンは、強化外骨格を手元に置いていないというハンデがある。

今ならば難なく殺せる。
が、この男は恐ろしくしたたかな性格の男だ。
こちらが棺桶を身に纏う隙にアサピーを殺し、この現場を離脱するだろう。
エクストにとってアサピーの命は第三番目の優先順位にあり、いざとなれば切り捨てても構わない存在だ。

重罪犯の確保、もしくは殺害に次いで優先されるのが犯人の逃亡の阻止である。
棺桶が使えないのは、第三位までの優先事項を一気に破りかねないからであり、アサピーの命を心配しているわけではない。
かと言って、事前に装着した状態で移動しようものならば跫音で気付かれ、同じ結果になる。
銃か、それとも近接戦闘か。

最も好ましいのは近接戦闘だが、ショボンはそれを絶対に避けてくる。
戦いに応じれば御の字で、逃げられる可能性の方がはるかに高い。

(::゚J゚::)「で、どうする? 捕まえるか? それとも殺す?」

<_プー゚)フ

見え透いた挑発だ。
声帯を損傷しているエクストが言葉を発するためには、人口声帯を取り出して使う必要がある。
それは致命的ともいえる隙を産む。
言葉に言葉で応じる必要はない。

予期できる動きを計算に入れ、チャンスを窺う。

(::゚J゚::)「無視かい? 騎士らしくもない」

言葉を黙殺し、逆にその隙を狙ってエクストは攻撃の手段を選択してから実行に移す。
この間、コンマ七秒。
背負っていた強化外骨格を降ろし、駆け、握り固めた左の拳をショボンの腹部に放つ。
呼吸を止めて隙を作り出すための定石に対して、ショボンは予期していたような動きでそれを掌で受け止める。

(::゚J゚::)「ったく、これだ――」

予想通り。
接近できればそれでいい。
この拳はショボンを戦いの舞台に連れ出すための拳。
これでようやく幕が上がるというものだ。

超至近距離から放つ後ろ回し蹴りが、動物的な反応速度で後退したショボンの頬を掠める。
変装用のマスクが吹き飛び、テントの壁に叩き付けられる。

(´・ω・`)「――あっぶないな」

当たれば顎の骨を砕き、首の骨を折る一撃。
頬に掠りでもすれば脳震盪を誘発させられたのだが、文字通り皮一枚のところで回避された。
これほどの威力を持つ蹴りを涼しい顔で受け流せる人間は稀有で、改めてショボンの実力を認識する。
続けて放つ足払いを難なく回避したショボンは、腰に手を伸ばした。

武器の使用を予期し、その種類を想定する。
対刃物、対拳銃の訓練と実戦は十二分に経験している。
対爆破物の実践はまだ十数回程度。
少し心もとないが、仮に爆発物を使用されても自らの命を守るだけの対応は出来るはずだ。

何を取り出すのかと身構えたエクストに投げつけられたのは、円柱の物体。

<_プー゚)フ「っ!!」

――フラッシュグレネード。
次に起こるのは閃光と耳を聾する破裂音。
どちらも一時的に人体からその機能を奪い取る効果があり、エクストは腕を眼前で十字に組んで視覚の防御を行った。
そして生じる落雷にも匹敵する閃光と爆音がテントを満たす。

視覚は守られ、聴覚は奪われた。
暗闇の中で人間が真っ先に頼るのは視覚ではなく聴覚だ。
何が起きているのかも分からない中、手さぐりで動くのはあまりにも危険。
動かないのはもっと危険である。

素早く腕を解いて、エクストはショボンの行方を目で追いつつ、アサピーを庇える位置に立つ。
直後、エクストの正面にショボンの姿が現れる。
回復していない視力を使って、エクストは右足を軸にした回し蹴りで相手を牽制。
これ以上の接近を許さず、また、武器による殺傷を回避する一撃だ。

接近戦を好むはずのないショボンが接近したという事は、拳銃ではなくナイフしかないと考えられる。
事実、回し蹴りを放った左足の太腿に熱を感じる。
切られた。
傷の深さは大したことはなさそうだが、警戒しておく必要がある。

浅くとも何度も切られれば血が失われ、やがては死に至る。
次第に回復してきた視力が、ショボンの姿をはっきりと捉えた。
彼の背にダニー・ザ・ドッグが背負われていることを除けば、何一つ問題はなかった。

(´^ω^`)「あっはっは、これはもらっておくよ。
      こっちの作戦の邪魔をした代金だと思っておくんだね」

<_プー゚)フ「……!!」

狡いショボンの得意とするのが、目を逸らすことの出来ない事態を用意して本命から目を逸らさせるという行いだ。
この短時間の間によくもそれだけ考えられるものだと褒める反面、それを許してしまった自分がふがいない。
だがしかし、棺桶には起動コードがいる。
ダニー・ザ・ドッグのコードはエクストの首にあるセンサーに指をかざさなければならず、あのままでは使用は出来ない。

それに、コンテナに入った強化外骨格はかなりの重量になるため、走ることは困難になる。
つまり罠。
こちらを憤らせ、怒らせ、判断力を削いで勝機を見出すための罠なのだ。
素早くショボンの目論見を見破ったエクストは、構わず近接戦闘を再開することにした。

ナイフを持っていようが、当たらなければいいだけの話。
少しゆるく握った拳の中指を立て、地面を強く蹴って地を這うように低く疾駆する。
僅かに驚きの表情を浮かべつつもショボンは逆手に構えたナイフを振り、エクストの前髪を数本切り落とす。
遅い。

拳を繰り出すと見せかけて放つのは、重量によって跳躍がままならない無防備な足を狙った脚払い。
当たる寸前、ショボンはナイフを振り切った反動を利用して背負ったコンテナでそれを防ぐ。
ブーツの固い爪先と金属がぶつかり、鈍い音を鳴らす。

(´・ω・`)「危ない危ない」

そのままコンテナを肩から降ろして、ショボンは逃走を図る。
背を見せてテントから出て行ったその瞬間を、エクストは待っていた。
姿勢を整え、コンテナを背負い、親指を喉のセンサーに当てて横に引く。
すぐさま体全体がコンテナに包まれ、強化外骨格が体を覆う。

似`゚益゚似

嗅覚センサーを最大値にまで引き上げ、ショボンの匂いを識別させる。
カメラが映し出す視覚情報に映像として同期された匂いの色が、彼の逃走経路を浮かび上がらせる。
整備士以外にはあまり知られていないが、ダニー・ザ・ドッグには他の強化外骨格よりも遥かに優れた嗅覚センサーが搭載されており、それを映像化することが可能なのだ。
周囲にある多くの匂いが種類に応じて彩られ、視認可能な情報としてカメラに表示される。

その中から必要な匂いだけが残り、ショボンの軌跡を教えてくれる。
風で匂いが霧散する前に追いつくべく、エクストはテントを飛び出した。
夜間でも真昼のように明るく鮮明な映像を映し出すことの出来る両眼のカメラが、そこに転がる静かな死を見つけ出した。
警備をしていた男たちが倒れ伏し、口から血の泡を吹いて呼吸することなく虚ろな目を夜空に向けている。

僅かだがショボンの香りがそこに残されている。
体温の低下が見られることから死後間もないというわけではなく、アサピーが拷問を受けている間に殺されたようだ。
ショボンの匂いは高く積まれた土嚢の裏に続いていたが、追う必要はなくなった。

(::[-=-])『ったく、今日はとことん犬野郎に邪魔される一日だ!!』

土色のデザートカラーをした強化外骨格、ダイ・ハードが猛烈な勢いで飛び蹴りを放ってきたのである。
ショボンは逃げようとしたのではなく、棺桶を身につけるために時間を稼いだのだ。
その行為が如何に愚かなことか、エクストは教えてやろうと決めた。
脛を守っていた楯が足首の位置に移動して固定され、巨大なナイフとしてダニー・ザ・ドッグの装甲を抉ろうとする、その刹那。

エクストは全身の高周波装置を起動させ、破壊兵器へとその身を転じさせた。
迎え撃ったその手段は正攻法だった。
しかしながら相手は狡猾なるショボン。
無策に突撃をするような手合いではなく、必ず何かを仕掛けてから動く男だ。

否が応でも応じざるを得ない手を選ぶのは、戦闘でも同じ。
一手目の次が本命。
高周波装置を備えた武器同士がぶつかり合い、不協和音を奏でる。
単純に考えて出力される範囲はダニー・ザ・ドッグの方が上であるため、防衛で後れを取ることはない。

互いに破壊の音色を奏でる高周波兵器は、装甲の上を滑るようにして火花を残して別れる。
飛び散った花火の後に残ったのはリンゴを思わせる手榴弾。
これが第二手にしてショボンの本命と見定めたエクストは、それを気にすることもなく追撃を選んだ。
爆風だろうが火炎だろうが、高周波振動を続けるダニー・ザ・ドッグの装甲に傷をつけることは敵わない。

オレンジ色の爆炎と飛び散った鉄片がカメラを覆い尽くすも構うことなく前進し、匂いを頼りに拳足を振るう。
確かな感触を正拳突きに捉え、爆煙が晴れる。
背後からバッテリーを狙っていたショボンが、肘に仕込まれた高周波ナイフで拳を止めていた。
どれだけ強力な強化外骨格でも、電力を絶たれれば機能を停止する。

性能差を埋めるとしたら、そこを狙うしかない。

(::[-=-])『ちっ!!』

似`゚益゚似『ぬんっ!!』

同時に互いを押しのけ、エクストが後ろ蹴りを見舞う。
巨大な二枚の楯がそれを防ぐと同時に、ショボンは跳躍して後退する。

(::[-=-])『どうだろう、見逃してくれないかな?』

似`゚益゚似『死ね、悪党』

(::[-=-])『おお怖い』

とび後ろ回し蹴りに対してショボンは僅かに状態を逸らして回避し、殺した兵士から奪い取ったのであろうカービンライフルを至近距離から撃った。
銃弾は振動する装甲によって砕け散り、鉄粉となって風にさらわれる。
銃身を蹴り払って破壊。
一つの高周波兵器と化したエクストを前には、銃もナイフも爆薬も意味をなさない。

バッテリーの残量が残り五分の稼働時間を示す。
この調子で全身を振動させていれば五分後には動けなくなり、強制的に排出される。
そうなってしまえば有利な立場になるのはショボンだ。
時間稼ぎという目標、それが生み出す効果と戦力差の逆転。

ダニー・ザ・ドッグが持つこの力を知る以上、ショボンはそれが電力を大量に使うことを知っているはずだ。
だからこそ、手榴弾や高周波ナイフ、銃弾を使ってこちらを乗せてきた。
二つの罠を用意したうえでの目的に気付いた時には、もう、エクストは引き返すことが出来ない事を悟った。
ここで殺すか、殺されるか。

引くという選択肢はなく、それがあったとしても選ぶような人間ではない。
円卓十二騎士の一人として、エクストはここで勝負を決する覚悟があった。
勝負は五分以内。
その間に終わらせる。

ここで小悪党は死ぬのだ。

(::[-=-])『だけどね、犬と遊んでいる時間も無いんでね。
      僕は失礼するよ。 この場所に仕掛けた爆弾が爆発する前にね』

似`゚益゚似『っ、貴様!!』

(::[-=-])『ここが吹き飛べば、どれだけの被害になるだろうね』

隠し通すことの出来ない大きな失態を繰り返すことが何を産むか、エクストはよく知っている。
日に数度もそれが起こればジュスティアの信頼は地に落ち、ティンカーベルとの関係は終わりを告げるだろう。
ショボンを目の前で逃して爆発を防ぐか、爆破されることを覚悟でショボンを捕まえるか。
彼に託された選択肢は天秤に乗せるにはあまりにも脆く、重要すぎた。

逡巡というにはあまりにも長い時間を費やすエクストを前に、ショボンは飛ぶようにしてその場を走り去った。
事態を受け入れ、エクストはすぐさま爆弾の仕掛けられた場所を探すことにした。
センサーをフル稼働させ、爆発物を探る。
念入りに排水溝や茂みの中を探すが、何一つ痕跡が見つからない。

捜索開始から三分後、エクストはショボンに騙されたことに気付くのであった。

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        ''""~ ''     ,,     .. ,ヽ|___|/ ..|August 10th PM07:27
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目が覚めた時、アサピーはまず自分が天国や地獄と呼ばれる場所にいるのか、それとも日に二度目となるエラルテ記念病院に運ばれたのかを考えた。
後者であれば再び命の危機にさらされ、今度こそ自由を奪われるだろう。
ともあれ、それは生きている証なのだから文句ばかりも言えない。
ところが前者の場合は話が別である。

カメラがあればそれに収めるか、それとも自由気ままに天国探検をするか、地獄から脱出を試みるか。
そうなれば子供のころに夢見た冒険者になれる。
一度死んでしまえば何をしても怖くない。
意識がある以上は死後の世界にはいないのだと思えるが、案外死の世界でも思考が出来るのかもしれない。

痛みという概念もあれば、現実世界との区別は曖昧となる。
どちらも現実であり、それまでアサピーが生きていた世界とは別かどうかという断定は他者に委ねる他ない。
柔らかな布団に寝かされていることと、近くから潮騒の音が聞こえることから、少なくとも死んだわけではなさそうだ。

(;-@∀@)「い、生きてる……生きてるぞ……」

部屋は見事な調度品と家具で彩られていたが、窓が一つも見当たらない。
衣服はみすぼらしい病院の患者着ではなく、洗剤の香りが漂う清潔感のあるパジャマだ。
肌触りがよく、布の質が極めて良い。
腹部の手術跡に当てられたガーゼと包帯は真新しくなっていて、誰かがここに運んだだけでなく世話をしてくれたのだと分かる。

ジュスティアの関係者でない事だけは断言できる。
拷問で殺されかけたことは、必ずや記事にして世間に公表しなければならない。
サイドテーブルの上に水差しが置かれていることに気付き、自らのために水を注いで三杯飲んだ。
出入り口と思わしき扉が開き、現れた人物がこの場所がどこであるのかを教えてくれた。

¥・∀・¥「初めまして、ですね。 私、オアシズの市長リッチー・マニーと申します」

(;-@∀@)「マジかよ、こいつはおったまげ……」

つまりアサピーは、幸運にも目的地であるオアシズへと乗船することに成功したのだ。
いかなる手段を使って船内に運び込まれたのか、それが気になるところだが今はそれどころではない。
真実を世に知らしめるため、是が非でも彼の協力がいる。
むしろ、このオアシズ上で最も権力を持つ男が協力してくれれば鬼に金棒だ。

¥・∀・¥「なにやら、お話があるとかで。
      私でよろしければお話をお伺いしますが」

興奮を押さえつつ、マニーは確実に用件を伝え、目的を果たすべく乾いた唇を舐めた。
三度それを繰り返し、ようやく言葉を口にする。

(-@∀@)「あの島で起きている事を、世間に知らせたいのです。
      そのためにはオアシズの協力が必要不可欠でして」

¥・∀・¥「ほほう、その事態とは?」

より効果的に。
より扇情的に。
心を揺さぶるためにわざと言葉をため、それから発する。

(;-@∀@)「極悪な脱獄犯が――」

¥・∀・¥「“ザ・サード”と“バンダースナッチ”ですか? それで?」

出鼻を挫かれたことに、アサピーは動揺を隠せなかった。
衝撃的とも言える話を知っているのは、どうしたわけか。

(;-@∀@)「ど、どうしてそれを」

¥・∀・¥「あぁ、話の腰を折ってしまいましたね。
      それで、続きは?」

続きを促され、アサピーは気を取り直して続ける。

(-@∀@)「エラルテ記念病院で火事が起こり、今日また襲撃がありました。
      前者の犯人はまだ捜査中ですが、後者、僕を襲撃してきたのはザ・サードでした」

¥・∀・¥「情報が不正確ですね。 貴方が襲われる前に、すでにライダル・ヅー様が襲われています。
      その犯人もまた、ザ・サードです。
      アサピー様、申し訳ないが前置きはさておいて本題に入ってはもらえませんか?
      時は金なり、です。 今はとにかく時間が惜しい」

どうにも雲行きが怪しい。
流石に最初からこちらに好意的だと考えていたのは甘かったようだ。
気を取り直して咳払いをし、アサピーは核心部分を話すことにした。

(-@∀@)「僕が手に入れた情報を整理すると、何者かによって狙撃が三度行われました。
      僕を二度撃ち、エラルテ記念病院でカール・クリンプトンを撃った人物は同一だと思われます。
      証言と実体験を基にお話ししますが、発砲音は聞こえていませんでした。
      ですが、発砲炎を見てその狙撃地点が分かり、発砲音が聞こえなかった理由も分かりました」

これが、アサピーの手に入れた事件解決への大きな足掛かり。
これ以上の情報は、おそらくはマニーには意味がないだろう。

¥・∀・¥「……狙撃については聞いていましたが、場所は?」

(-@∀@)「グレート・ベルです。 狙撃手は、グレート・ベルの鐘の音に合わせて狙撃をしていたのです」

全ての狙撃の際には、必ず鐘の音が鳴り響いていた。
二度はその音の意味があったから分からなかったが、三度目。
つまり、病院から連れ出されている最中に鳴った鐘だけは別。
特に意味もなく、時刻を告げる物でもなかった。

鐘の音の大きさと鳴らされる意味をよく知っているからこそ、アサピーは気付くことが出来た。
では、実際にそのようなことが可能なのだろうか。
問題はそこにあった。
他の音で銃声を誤魔化すことが、果たして可能かどうか。

それを聞くためにも、トラギコとの接触が必要だった。

(-@∀@)「しかし僕は銃器については素人ですので、そのようなことが可能かどうか。
      その裏付けをするために、トラギコ・マウンテンライト刑事とコンタクトを取りたいのです。
      そのために、ここに来ました」

あまり驚いた様子を見せず、笑顔をそのままにマニーは得心した風に頷いた。

¥・∀・¥「なるほど。 やはりそうでしたか。
      申し訳ありませんが、今はあまり手を貸すことが出来ません。
      勘違いをしないでほしいのは、手を貸したくないわけではないのです。
      今、貴方を匿うと多方面に不利益が生じます。

      何故なら、貴方は重要な役割を持った生餌なのです」

(;-@∀@)「生餌?」

¥・∀・¥「貴方は今、ショボン・パドローネらに執拗なまでに狙われていますよね?
      ジュスティアはそこに目をつけ、貴方を餌にして彼らを釣り上げようとしているのですよ。
      現に、二回の成功例まで作ったのですから、今後も同じでしょうね。
      つまり、生餌を庇えば当然被害が生じますし、せっかくの好機をも失うことになります。

      だからこそ、貸せる力は限られます」

一度目は、病院から移動する際。
そして二度目は拷問中に。
どちらもジュスティア警察か軍の人間が傍にいて即応できていたのは、そういうわけだったのだ。

¥・∀・¥「貴方が伝えたいことは分かりました。
      次に、私からの質問です。 貴方は、何を見たのですか?
      危険を冒してまでも彼らが追う、その情報。
      それが何なのかが分かれば出し抜くことが可能です」

(;-@∀@)「何度も考えたのですが、これと言って……
      でも、カメラが盗まれてしまったので正直なところあったとしても記憶には……」

マニーは首を横に振った。

¥・∀・¥「カメラが盗まれてからも、貴方は狙われていました。
      つまり、フィルムではないのです。 貴方が無意識の内に目撃した何かが、彼らにとって不都合なのです。
      思い出してください」

(;-@∀@)「と言っても、本当に覚えがないんですよ」

¥・∀・¥「ファインダー越しに何かを見てしまったとか」

トラギコと出会ってからアサピーが調べてきたのは、事件に関係しそうな情報の収集だ。
その過程で何かを見つけてしまった、と考えて記憶を探る。
朝市の写真にはショボンとデミタス・エドワードグリーンが写っていたが、それはもはや意味を持たないだろう。
情報が古く、そして広く知れ渡ってしまっている。

逆に、そう言った鮮烈な情報以外にこそ答えがあるような気がした。
狙われる直前に行ったことと言えば、爆破現場の写真を撮ったり、情報を聞いたりしただけだ。
その時に撮影した写真が、問題なのかもしれない。
それが考えうる限り最も自然なことだった。

(;-@∀@)「あの、爆破事件についての詳細とかはご存知ですか?」

¥・∀・¥「私の耳に入っている限りでは、これと言った証拠も残っていないために捜査が難航しているとのことです」

奇妙だ。
アサピーはあの現場で見つけた物があった。
恐らくは警察が見つけて捜査に役立てるだろうと思った、ある物が。

(-@∀@)「スーツケースも見つかっていないんですか?」

¥・∀・¥「さぁ、流石に何が証拠物品として回収されたのかまでは私でも分かりかねます。
      それこそ、警察に確認しない限り不可能ですよ」

現場に駆け付けたアサピーが見つけたのは、熱と爆発の威力で変形したスーツケースだった。
それは黒く焼け焦げたのか、それとも元から黒かったのかは分からないが、蓋が半分吹き飛んでいたのを除けばかなり原型を留めていたのは確かだ。
気になる点があるとしたら、それぐらいだろう。
今は思いつくことが少ない。

やはり一度、トラギコを介してジュスティア警察に話を聞かなければ何も分からない。
パズルのピースが欠けた状態でそれを組み合わせることは出来ず、答えに辿り着くことは永遠に不可能である。
狙われる直接の原因は不明だとしても、現場で撮影と取材をしたことが大きく関係していることは確かだ。
撮影したのは証拠品や負傷者の状況で、爆破直後の画像としてはかなりの鮮度を持っていた。

そして最初に襲われたのは、手に入れた情報を持ち帰って整理しようとした時だ。

¥・∀・¥「何はともあれ、貴方を襲ったのは情報に価値を見出す人間の集まりです。
      新聞記者と少し思考回路が似ている点があるので、貴方の方がよく分かっていると思います。
      ねぇ?」

そう。
警察と新聞記者が情報に対して持っている考え方は、大きく異なる。
正確な情報と判断してから公表するのではなく、かもしれない、という可能性の段階で公表する違いだ。
当然前者が警察であり、後者は新聞社全般が持っている考え方である。

ショボンはアサピーが何かを知っているかもしれない、同僚に何かを話したかもしれないという可能性で殺すことを選んだ。
不確かだろうが、知られていたとしたら死んでもらった方が好都合。
全ては自分たちにとって好都合だから、という考えに他ならない。
実に自分勝手で、そして賢い選択だ。

アサピーら新聞社が不確かでも情報を人々の下に手渡すのは、万が一その情報が正しければ新聞社は正義となり、間違っていたとしても不利益にはつながらないからだ。
いわば保険のような意味合いが強い。
それでも、その情報で救われる人がいるのも事実だ。
例えば脱線事故が起こった際に、死傷者の正確な数よりも死傷者がいたのかどうか、という情報の方が喜ばれる。

正確な数字はさておいて、自分の身内や知り合いがそれに巻き込まれたかどうか、の方が大切なのだ。

(;-@∀@)「要するに、僕が殺された方が彼らにとっては都合がいい、と。
      とんだファック野郎どもだ……」

¥・∀・¥「まぁそれは致し方ないことかと。 しかし、貴方が何かしらの可能性を持っているのもまた事実。
      ですが我々としては、別にティンカーベルがどうなろうと構わないのです。
      他の街の話ですからね。 ただ、ここにいつまでも留まるわけにもいきません」

(;-@∀@)「では、僕に協力をしてくれるので?」

期待を込めて尋ねたアサピーに対して、マニーは質問で返した。

¥・∀・¥「一つ訊きますが、この事件を記事にするのはいつですか?」

(-@∀@)「明日にでも……いや、今日にでも!」

力強く断言する。
情報は鮮度こそが重要だ。
すぐにでも号外を発行させれば、たちまちアサピーは英雄の階段を駆け上がることになる。

¥・∀・¥「なら、私は貴方に協力できません」

(-@∀@)「え?」

全く予想していなかった答えに、アサピーは言葉を失いかけた。

¥・∀・¥「切り取られた真実を記事にして、それが世にもたらす不利益を考えていないからです。
      あなた方がいう所の真実、つまり情報とは断片的な物。
      ナイフの危険性だけを取り上げ、その使い方と利便性を知らせないのと同じですよ。
      不完全な情報を与えて神を気取る人に協力はするつもりがありません」

世界最大の豪華客船の市長の口から出てきたのは、幾度となく聞いてきた言葉だった。
情報がもたらす弊害。
それを知らないマスコミ関係者は一人もいない。
故に、アサピーは決まりきった言葉で返すことにする。

(;-@∀@)「ですが、人々には情報を知る権利があります。
      我々はその手助けをしているだけで――」

言葉を遮るようにして、だが威圧的ではない声色でマニーはその決まりきった言葉を一蹴した。

¥・∀・¥「知る権利ではなく、知りたい人間が知り、そうでない人間は知らないままでいる権利ですよ。
      無理やり押し付ける事を手助けとは言いません。
      餌を待つ豚ならいざ知らず、人間ならば自力で調べるという事が出来ます。
      どうしても情報を与えたいのなら、求める人間にだけ与えるべきではありませんか?

      両親が死んだことさえ理解できない子供に伝えるのが、果たして正義なのでしょうか?
      両親の死体を前にした子供に対してその心境を訊き、それを記事にするのが果たして子供のためになるのでしょうか?
      知ることが必ずしも人にとって幸せとは限らないのですよ」

静かに、そして一言ずつ確かに言い聞かせるようにしてマニーはその口から力のある言葉を連ねた。
反論の余地は、なかった。
新聞記者として、そしてそれを志してからの人生でこれほどまでに短い言葉で黙らされたのは初めてだ。
恫喝に対しての耐性はあったが、こちらが掲げる権利の間違いを指摘する権利に対しては何一つとして言葉は用意されていない。

(;-@∀@)「……む、ぐぅ」

¥・∀・¥「……私がオアシズの市長になった際、貴方の会社が書いた記事を今でも覚えていますよ。
      前市長の息子が市長に就任、親族経営がもたらす負の連鎖、外界を知らない無知な市長、と散々に書かれました。
      市長を継ぐにあたり父が私に課したいくつもの課題を取り上げることもなければ、謝罪することもありませんでした。
      断片的な情報を世に送り出して、あとは知らぬふり。 幸いにして父はそれを予期して私にそれを乗り越えるだけの知識を与えてくれていました。

      時間が経てばそのような振る舞いを忘れ、取材を申し込んでくるようになりましたけどね。
      それが彼らの流儀で、それが彼らの力の使い方なのでしょう。
      ですがアサピーさん、貴方はまだあの業界に染まり切っていない。
      そうお見受けしたからこそ、こうしてお話をしているのです」

(;-@∀@)「僕に、何をしろと?」

ここで頷かなかったのは、アサピーの中にある僅かな矜持の賜物だった。
彼がこれまでの人生で培ってきた価値観はまだ消えていない。

¥・∀・¥「全ての情報が出そろい、事態が収束するまで情報を公にしないでいただきたい。
      それだけです」

(;-@∀@)「何故です? 情報が広まればそれだけでショボンたちの行動が制限されるのでは?」

¥・∀・¥「それが有効な時期は過ぎ、事態はあまりにも複雑になりすぎました。
      加えて、様々な方面で方向性がばらばらの酷い修復――tinker――を試みた結果、どうしようもなくなりました。
      ならばせめて、事態が収束した時に一矢報いるために力を振るった方が賢い。
      解決は別の人に任せるのがよろしいかと」

(;-@∀@)「大人しくここで待て、と?」

¥・∀・¥「私の要望を受け入れるか否か、それによりますね」

これがマニーの本題だと分かったところで、アサピーに有利な点はない。
最早カードは使い尽くし、切り札もない。
それに提案自体は悪い内容ではない。
問題は、アサピーのこれまでに作り上げてきた価値観や倫理観と呼ばれるものを変えるかどうか、という点にある。

真実を多くの人に知ってもらいたい。
それを求める人間にこそ、それを知らせなければならない。
その使命感で一心不乱に働き続けてきた。
生き方を変えるのと同じく、マニーの要求を呑むのは容易な話ではない。

だが。
この葛藤こそが、アサピーの心の中に知らずの内に芽生えていた良心の呵責の証明であり、揺るがぬはずと豪語していた信念の弱さでもあった。
本当に己の行動に疑念一つなく、曇り一つなく、後悔もせずに生きていたのだとしたら、この瞬間にすぐに拒否すればいいだけだ。
それが出来ないという事は、考える余地があるという事に他ならない。

(;-@∀@)「ですが……しかし……」

¥・∀・¥「もう一度言いますが、時は金なり、です。
      金は時には成り得ませんが、時は金を越え得る力を持っています。
      ご決断を」

手に汗が滲む。
歴史を変えるスクープを手放し、信念を変える覚悟を決めなければならない。
アサピーはマニーの提案を受け入れる方に気持ちが傾いていた。
足りないのは覚悟。

自分自身の全てを変えるという覚悟が、アサピーには欠けていた。
これまでに行ってきたのは他者の変化。
生半可な未経験者、すなわち自慰行為に長けているだけで本番を知らない哀れな童貞と言ってもいい。
知ったつもりになっていただけで、いざ自分自身が変化させられようとするとそれを受け入れられない弱さが露呈する。

何度も何度も思案する。
正しいのはどちらなのか。
変えるべきか、変えずに抗うべきか。
世間に知らしめるべきか、思いとどまるか。

(;-@∀@)「せめてトラギコさんにだけは……伝えたいのですが……」

絞り出すようにして口にしたのは、せめてもの妥協点。
今の彼に出来る精いっぱいの決断だった。
自分自身の力で世間に出しても効果が半端なのであれば、その情報を用いて世界を変えてくれる人間に託すのが一番だ。
少なくとも切り取って報道する同業者ではなく、全ての情報を正しく見つめ、そして運用してくれる人間と言えば彼の知る限りトラギコ一人しかいない。

重要性を知っているからこそ正しく動かせる、そう感じたのである。
出会ってからまだわずかな日数と時間しか経っていないが、彼がこれまでに手掛けてきた事件の解決率やそのスタンスを鑑みての結論。
短時間で下せる結論は、これが限界だ。

¥・∀・¥「……いい選択です。 ですが一つ残念なお知らせがあります」

(;-@∀@)「どのような?」

挑発的な笑みと呼ぶにはあまりにも優しく、同情的というには厳しい表情がマニーの口元に浮かぶ。
短い間で見た最初の変化だった。

¥・∀・¥「トラギコ様の消息が途絶えました。
      私に出来るのはその情報をジュスティアに流すことではなく、アサピー様が動きやすくするためのお手伝い。
      つまり、必要な道具などの手配だけです。
      ……ここから先は、アサピー様の行動一つで事態が大きく変わります。

      それを踏まえた上で、改めてアサピー様の意志を確認させていただきたい」

刑事をやっているだけでなく、事件に積極的に首を突っ込んでいくトラギコならいつかはそうなると分かっていた。
彼ほどの男が無傷でいられるはずもなく、また、足を動かすことを躊躇する人間でないことは一目で分かる。
むしろ何かに巻き込まれていない方が不自然だ。
そんな彼の生き方に共感を覚え、憧れを抱いたのは事実。

今は、ただ。
トラギコに会い、彼に真実を託すだけ。
彼ならば、アサピー以上に情報を正しく使ってくれるはずだ。
故に、答えは一つ。

(-@∀@)「無論、探しに行きます」

真実が真実でなくなること、それがアサピーには耐えられない。

¥・∀・¥「では、防弾着と武器を用意いたします。
      他に必要な物はありますか?」

(-@∀@)「あとは、フィルムカメラを一つ」

銃を使わずとも世界は変えられる。
ナイフを持たずとも人は脅せる。
それがカメラだ。
デジタルカメラよりもフィルムカメラを選んだのは、フィルムさえ奪われなければ決して写真を消されないからだ。

¥・∀・¥「かしこまりました。 武器は拳銃を手配しておきます。
      用意するまでの間、温かい食事をお持ちいたしますので、しばしお待ちください。
      私がこうして匿えるのにも限界がありますので、一時間後には出発していただきます」

いかなる手段でここに運び込まれ、そして隠されているのは訊けなさそうだと判断したアサピーは素直にうなずいた。
部屋から出て行ったマニーの背を見送り、アサピーは布団から出てクローゼットに向かった。
アイロンのかかったシャツとジーンズを借り、身なりを整える。
皮のジャケットを羽織り、そのサイズを確かめる。

若干大きめだが、防弾着を下に着こむことを考えれば丁度いい。
手に入れた全ての情報を伝える相手はトラギコだが、今度は彼の情報を集めなければならない。
彼に追いつくのは至難の業だろうが、それでもやらなければならない。
まずは目撃情報だ。

恐ろしいほど目立つ外見をしており、使っていたのは新聞社の原動機付自転車だ。
足取りを追うのは不可能ではない。
むしろ、これが本業だ。
真実を探して組み立て、形と成せばトラギコの居場所にたどり着ける。

用意された食事を平らげ、ホルスターに入った拳銃を腰に下げた。
銃を使うつもりはなかった。
だが、トラギコに渡せば情報同様に上手に使いこなしてくれるはずだ。
代わりに首から提げたのはケースに収められた上等なカメラだ。

ニッコール社製のカメラで、小型だが頑丈な作りをしたモデルだった。
間違いなくマニーなりの配慮だ。
これから先に待ち受ける困難を考えれば、防弾使用のカメラでもなければ心もとない。
それでも、何も無いよりかはいい。

予備のフィルムは五つあり、それら全てはカメラケースに収納されていた。
ケース自体も丈夫な素材で作られており、軽くて使い勝手がいい。
上手くすれば刃物程度は防げるのかもしれない。
間もなく、アサピーは廃棄物の詰まったコンテナと共にティンカーベルの収集所に送り届けられた。

無事に収集所にコンテナが到着したという知らせを聞いたマニーは、己の役割が一つ終わった事に胸をなでおろした。
市長室の机上に置かれた無線機を使い、マニーはそのことを協力者に告げた。

¥・∀・¥「……ご相談いただいた通り、彼を送り届けました。
      えぇ、お話の通りになりました。 ……いえ、お礼など。
      我々としてもこの事件が終わることを願っておりますので、この程度の強力であれば……
      はい、それでは引き続きのご健闘をお祈りいたします」

斯くして、第三手目が動き出した。
そして。
この手を考え出したライダル・ヅーですら知らぬことであったが、オアシズに集まった情報はリアルタイムで別の人物の元へと送り届けられていた。
先ほどまで使っていた無線とは異なる無線機、そして周波数に対して呼びかけるマニーの声はとても穏やかだ。

まるで、親に褒めたがっている子供のように、だがその身を案じる親友のように優しい。

¥・∀・¥「ジュスティア側の動き、狙撃地点共に予想通りです。
      新聞記者の男がトラギコ様に接触を試みようと……えぇ、そうです。
      ……はい、分かりました。
      また何かあればいつでもご連絡ください。 こちらも、新しい情報が入り次第お伝えいたします。

      ではご武運を、デレシア様」

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           Ammo→Re!!のようです Ammo for Tinker!!編 第八章 了

                                         August 10th PM08:44
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