やぁ
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2014年 03月 09日 Sun
reasoning パッケージ

reasoning.png


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‥…━━ August 5th AM11:35 ━━…‥
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荒れ狂う海。
嵐にかき回され、海底深くに沈殿していた泥が舞い上がり、晴天時には黒に近い群青色をしていた海は、今や墨汁の色になっていた。
一度落ちれば決して助からないことが、一目で理解できる色合い。
その海に浮き沈みする一人の少年がいた。

彼には犬の耳があり、尻尾があった。
彼の名は、ブーンと言う。
ファーストネームでも、ファミリーネームでもない、ただのブーン。
恩人に貰った名前を、彼はとても大切に思っていた。

(;∪´ω`)「げっ、げほ……」

鼻から入った海水を吐き出し、一度息を吸っては、直ぐに海中に姿を消してしまう。
彼の視線の遥か先には巨大な船があった。
世界最大の豪華客船にして船上都市であるオアシズ。
そこから放り出された彼は、波に頭を掴んで海に引きずり込まれても尚諦めず、ひたすらに同じ行動を繰り返していた。

即ち、生きるための行動だ。
大粒の雨で霞む視界の先に見える小さくか細くなりつつある明かりを頼りに、彼は船を目指していた。
海面がどれだけ荒れていても、海中ではそれほど大きな揺れはない。
海岸近くや浅瀬でもない限り、海面よりも海中の方が安全だ。

そのことにブーンが気付いたのは、感動するほどの高波に飲まれた時だ。
暗い海中では体が左右に揺さぶられる程度の影響しかなく、波に殴られるよりも遥かに楽だったのである。
ヒート・オロラ・レッドウィングに泳ぎを教わり、デレシアに水を習ったおかげでこの状況でも苦も無く泳ぐことが出来た。
濁った海中で目を開けることは流石に難しく、天候の影響もあり海中から目標を目視することは不可能だった。

そこで酸素を取り入れることと目標の方角を確認するために、海面に顔を出していたのだ。
しかし、船はみるみる遠ざかるばかりで、到達は絶望的だった。
だが。
だがそれでも彼は泳いだ。

無理を承知でブーンは泳ぎ、抗っていた。
心が折れそうになる度に、これまでに出会った人の声が聞こえてきた。
女性も、男性も、本人の口から聞いたことのない言葉を喋るのだ。
代わる代わる、ブーンの耳元で、脳の奥で、何度も同じような言葉が木霊する。

――諦めるな、と。

その言葉が幻聴であることは分かっている。
そんなことは、知っている。
諦めたらそこで何もかもが終わることも承知している。
だからブーンは抗っているのだ。

水は怖くなかった。
溺れて死ぬことは嫌ではなかった。
怖いのは諦める事だった。
嫌なのは諦めて死ぬことだった。

(;∪´ω`)「ぷはっ……!!」

不意に、何かの気配を感じた。
何か、静かな気配が近づいてきている。
それは、前方の海中から感じ取れた。
一定の距離を保ち、こちらの動向を観察しているような、その気配。

海中から、何かがこちらを見ている。
恐ろしいという思いもあったが、それで怖気づくわけにもいかなかった。
息を吸い込んで海中に潜り、腕を動かし、足を動かして泳ぐ。
が、突如として体が一気に力を失った。

四肢の付け根から力が染み出したかのように抜け落ち、言うことを聞かない。
全力で泳ぎ続けたことによる影響と体が冷えていることが原因だと、その時になって気が付いた。
浮上するだけの体力もなく、成す術もない。
軽いパニックに陥り、ブーンは残り少ない酸素を全て吐き出してしまう。

最後の力を振り絞って吐き出した言葉は泡となって、海に溶けて消えた。

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‥…━━ August 6th AM01:07 ━━…‥
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厳戒態勢のオアシズ内は寝静まり、極めて小さな音量で流されるクラシック音楽が優雅さを演出している。
普段なら夜通し営業している居酒屋も、この時ばかりはシャッターを下ろさざるを得ない。
特に警備が厳重になっているのは、第三ブロックだった。
他のブロックの警備を行っていた人間を密かに移動させ、そこにいるとされている犯人の捜索を行っているためだ。

トイレ、排気口、人が隠れられる空間を虱潰しに探し、警備員同士の検査も同時に行われていた。
犯人の最有力候補であるノレベルト・シューは変装の達人にして、元探偵。
一連の犯行と逃亡手段が全て誰かに化けて行われていることから、まずは身内を疑うことになった。
変装を見抜くためにカードと顔の確認が行われ、第三ブロックで捜査に当たる全員が間違いなく本人であることが証明されている。

五分前、第三ブロックにオアシズ市長リッチー・マニーが足を踏み入れていた。
だが、彼は決して人目に付かないように気を付けていた。
第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマに協力してもらい、返却予定の衣装ダンスの中に隠れて移動していた。
無事に目的の部屋まで運ばせ、そこでノリハと別れた。

部屋の主が荷物の封を切り、マニーに声をかけてきた。
それを合図に荷物から出て、その人物の顔を見るや否や、マニーは頭を垂れ、敬意を表した。
三十年以上の時を経ても、増すのは老いではなく美ばかり。
豪奢な金髪を持つ旅人、デレシアはそんな彼を静かに見つめている。

¥・∀・¥「お久しぶりです、デレシアさん」

ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりね、マニー」

彼女が放つ慈母の様な雰囲気に、思わず屈してしまいそうになる。
だが今の彼には立場がある。
今の彼には目的がある。
マニーは再会の感動に浸るのを堪え、訪問の意図を明らかにした。

¥・∀・¥「現在、犯人はこのブロックに閉じ込めているそうです。
      ですが、一体誰が犯人なのか、皆目見当も付かなくて……」

ζ(゚、゚*ζ「私の方で見当は付いているけど、確たる証拠がまだないのよ。
      それに、目的が分かっていない以上、迂闊な手出しは身を亡ぼすわ。
      先手を打たなければこの相手、潰せないわよ」

流石はデレシアだ。
限られた情報をこの短時間で分析し、もう犯人の目星をつけている。
彼女の助けになるようにと持ってきた資料を、マニーは衣装ダンスから取り出す。
厚さにして一インチ。

彼女の存在を聞いてから急いで纏めたものだ。
全ての細かな情報も洩れなく書き記し、事件解決の手がかりになればと思って作ったのである。
クリップで挟んであるのは、現場や証拠品、全関係者の写真だ。

¥・∀・¥「こちら側で手に入れている情報を書類に纏めてきました。
      何かの役に立ててください」

ζ(゚ー゚*ζ「……私に、事件をどうにかしてほしいの?」

マニーは頷いた。
その通りだった。
正直、探偵達は信用できない。
警備員も、警察も、だ。

糞の山の中から銃弾一発を見つけただけで喜ぶ輩が、この事件の全体像を見ることなど出来るはずがない。
そして、信頼できるのは船長のラヘッジ・ストームブリンガーだけだ。
しかし彼には事件を解決に導く技量はない。
だがデレシアなら。

デレシアなら、その両方をどうにか出来るだけの力がある。

¥・∀・¥「この船の探偵も警備員も、このままでは事件を解決出来るとは思えません。
      ジュスティアの警察も呼びましたが、彼らにもどうにもできないでしょう……
      この船の乗客を守るためなら、私は土下座でもなんでもします。
      デレシアさん、どうかご協力をお願いいたします」

マニーは深々と頭を下げた。
正直に言うと、万策尽きたのだ。
犯人が投じた事件で生じた波紋はあまりにも大きく、それは船と云う小さな街を滅茶苦茶にした。
最早、誰かに頼るしかなかった。

デレシアは沈黙したが、彼女の息遣いに続いて紙を捲る音が静かに聞こえる。
一分もしない内に、その音が止んだ。

ζ(゚、゚*ζ「……なら、まずやることがあるわ」

デレシアの声が、頭上から響いた。
顔を上げて、彼女の表情を窺う。

¥・∀・¥「とは?」

ζ(゚ー゚*ζ「警察が到着してから、ハザードレベル5を限定的に解除する準備よ」

耳を疑った。
折角全乗客の安全を確保したと思ったら、それを解除しろと言う。
デレシアの真意を聞こうと身を乗り出したところで、デレシアが人差し指を立ててそれを彼女の唇に当てた。
慌てて、開きかけた口を閉じる。

黙れ、と云う意味だ。

ζ(゚ー゚*ζ「限定的、と言ったでしょう?
      解除するのはこのブロックだけの話」

¥;・∀・¥「ですが、どうしてこのブロックだけを解除するのですか?
      それと教えていただきたいのですが、探偵長“ホビット”は、犯人は第三ブロックにいる、と言っていました。
      しかし、犯人は第二ブロックにいたことが確認されているのですから……」

その点は、マニーが不思議に思っていたところだ。
探偵長の“ホビット”は、犯人が第三ブロックにいる、と言っていた。
第二ブロックにいた犯人がどうして第三ブロックで、と疑問に感じていたのだ。
今は彼の指示で第三ブロックには探偵と警備員が集まっているが、マニーは未だにその意味が分からないでいる。

彼からは何の説明もなかったが、デレシアはマニーの顔を見て理解してくれたのか、手短に説明してくれた。

ζ(゚ー゚*ζ「殺しをしくじったからよ。
      今回のような犯人は、一度しくじったら絶対に同じ手は使わないわ。
      遠隔地から殺人を画策するよりも、確実に対象を殺すために、このブロックに潜りこむはずよ。
      本来殺そうとした対象は私達だったから、もうここに潜りこんでいると考えるべきでしょう?」

デレシアが注目しているのは犯人の性質だった。
確かに、ここに至るまで犯人は何一つ決定的な証拠を残すことなく来ている。
その犯人がしくじったとなれば、事は重大だ。
犯人が初めて犯した失態なのだ。

緻密に計算されたであろう計画の唯一の綻び。
その修復のために犯人が動くのは、想像するに難くない。
そうなると、あるものが必須となる。
犯人が殺す予定だったのはデレシア達だった、と言い切れる材料だ。

それがなければ、デレシアの言葉はただの都合のいい解釈でしかない。

¥;・∀・¥「デレシアさん達が標的だった、と断言できる理由と云うのは?」

ζ(゚ー゚*ζ「毒殺の前に、私達、犯人に会っているのよ。
      犯人がわざわざ、自分の犯行を見た人間を野放しにすると思う?
      ましてや怪我まで負わされたんじゃ、ねぇ?」

マニーは背筋に氷を突っ込まれた気分がした。
これまでに手にした初めての情報だった。
犯人と遭遇した初めての人物。
それは、目撃情報と言っていい物だ。

¥;・∀・¥「い、一体、何時に?」

ζ(゚ー゚*ζ「警備員詰所の襲撃の際よ。
      次はあそこに来るだろうと予想して向かったら、ビンゴだったってわけ。
      まぁ、ジョン・ドゥとボイスチェンジャーを使っていたから性別は分からないけどね」

それで合点がいった。
ホビットの報告にあった武器庫の件は、デレシアが関係していたのだ。

¥;・∀・¥「デレシアさんでも仕留めそこなったんですか」

ζ(゚、゚*ζ「ま、そうね。 私だって無敵なわけじゃないわよ」

マニーの中で、デレシアの武力は絶対だ。
棺桶持ちの一個師団だろうが大隊だろうが、彼女の前には赤子に等しい。
その彼女の力を前に生き延びる人間がいる事は、驚きとしか言えない。
どのような手を使ったにせよ、後で彼女に殺されることだけは確実だろう。

ζ(゚ー゚*ζ「それに加えて、殺しの手段が今までと違ったことね。
      今までは直接手を下して来たのに、それをしなかった。
      それはね、私が面と向かっての戦闘では確実に殺せない可能性があると判断したからよ。
      ある意味で完璧主義者の犯人だからこそ、連続して同じ方法を取らなかったの。

      私との戦闘で負傷させられたことを考えて、安全な手を選んだのでしょうね。
      それでも失敗したとなると、今まで通り、直接殺しに来ると考えたの。
      でも実際のところは、私の勘が九割五分よ」

¥;・∀・¥「いえ、デレシアさんの勘ならばまず間違いはないはず。
      ですが、どうしてそのことを探偵長が知り得たのでしょうか?
      今の話では、犯人とデレシアさん達が対峙した、という情報を知っていない限りはそこに到達できないはずです」

ζ(゚、゚*ζ「多分だけど、探偵長は犯人が逃げ込む先としてここを推理したのかもしれないわね。
      第二ブロックで姿が見られている以上は、そこにいつまでもいるはずがない。
      だとすれば、これまでの行動を鑑みて、最も混乱が生じている第三ブロックに逃げ込んでいる、って具合にね。
      だから、念押しの意味を込めて警備員を第三ブロックに集めたのね」

デレシアとは違う方法で、あの男は犯人の居場所を突き止めたということだ。
思わず感情的になって罵倒したが、やはり、探偵長をしているだけある。
推理を断言の域にまで持って行った彼の力を、再評価せざるを得ない。
だが、だからこそデレシアの提案で理解できない点がある。

犯人がこのブロックにいるのなら、それこそ、ここを厳重に封鎖すればいい。
それを解除するということは、犯人にとって格好の狩場を作ることになる。
好きに移動して、好きに人と接触できるのだ。
それだけでなく、どこかに逃げるかもしれない。

報告書にある通り、水中作業用の棺桶が一機奪われているのだ。
海に逃げられたら、追い様がない。
然るべき報いを与える事が、市長としての義務だ。

¥・∀・¥「ですが、やはり犯人がいるのであれば、それこそ解除は――」

ζ(゚ー゚*ζ「人の動きが制限されるほど、犯人にとっては有利な状況になるのよ。
       このブロックで人が動くことが、逆に犯人にとって行動を制限することになるの。
       自由ゆえの不自由ってやつよ」

¥・∀・¥「他の乗客への影響を考えると危険では?」

ζ(゚ー゚*ζ「一度失敗した人間はね、臆病になるか大胆になるかなの。
      この事件の犯人は、前者でしょうね。
      これから先、無駄な動きはしないで機会を待つはずよ」

そして、デレシアはにこやかな表情を浮かべてマニーの返事を待った。
この指示に従うか否かで、乗客達の命が大きく左右される。
偽りに満ちた、この忌々しい事件。
その解決に向けた対抗策の指揮を、いや、全権をデレシアに任せるべきなのだろうか。

答えは決まっている。
だからこそ、ここに来たのだ。
彼女の判断を疑ってはいけない。
真実に辿り着きたいのであれば、デレシアに従うべきなのだ。

それは幼少期に実感した事。
自然の摂理の様に当たり前で、当然の事なのだと、幼少期の自分にさえ理解できたことなのである。
嵐を消し去ることが不可能なように。
大地震を止めることが出来ないように。

¥・∀・¥「デレシアさん、どうか、この事件を終わらせていただけませんか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、いいわ。
       それと、マニー」

¥・∀・¥「はい」

ζ(゚ー゚*ζ「探偵長も気付いているはずだけど、犯人は上層部の情報を知り得る人間よ」

それはつまり、犯人は外部ではなく身内の人間。
マニーに近しい人間が犯人だと云うことを意味していた。

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Ammo→Re!!のようです
                 ‥…━━ August 6th AM03:00 ━━…‥
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ブロック長全員が会議室に呼び出され、その場に揃うまでには二十三分の時間を要した。
これはデレシアが予想した範囲内の時間だった。
円卓を囲んで座る五人のブロック長達を前に、マニーはデレシアからの言葉を反芻していた。
彼女からは話し方一つ、仕草一つに至るまで、事細かな指示を受けていた。

その通りにすればどうなるのかも、デレシアは言っていた。
ただ、彼女は計画の詳細を話さなかった。
マニーはただ彼女の指示に従って動くだけで、後は彼女自身の裁量で動くとの事。
それでいい。

仮に犯人がマニーを捕まえて拷問したとしても、情報が漏れることはない。
情報の秘匿性を高めるための手段だ。
だからこちらは、彼女の意志通りに立ち振る舞えばいい。
この船に平穏が戻るのであれば、それでもいい。

¥・∀・¥「よく集まってくれた」

五人は表情一つ変えない。
ここでデレシアに言われたのは、彼らの表情、態度の変化の観察だった。
それによって今の精神状態が分かるそうだ。
ひょっとしたら、この中に犯人がいるかもしれない。

¥・∀・¥「今から四時間後、第三ブロックに全ブロック長は集合してくれ。
      そして、それから五分後の七時五分、第三ブロックのハザードレベル5を解除する」

£;°ゞ°)「し、正気ですか?!」

¥・∀・¥「あぁ、正気だとも。
      では訊くがね、第二ブロック長オットー・リロースミス。
      正気とはなんだ?
      正気なら、この事件は解決できているのではないかね?

      ならば、我々は正気と言えるのか?」

£;°ゞ°)「ですが……」

¥・∀・¥「第三ブロック長ノリハ・サークルコンマ、答えろ。
      君は正気か?」

高圧的。
そして自信に満ち、一片の揺らぎも見せない喋り口調。
それがデレシアに要求された芝居だった。
一歩違えば気の触れた市長だが、上手くいけばカリスマ色を出せるとのことだ。

ノリパ .゚)「はい」

¥・∀・¥「質問よりも先に、話を聞いてもらおうか。
      これより我々オアシズ上層部は、反撃に転じる。
      全警備員、探偵を重装備で再配置。
      棺桶による完全武装を徹底しろ」

W,,゚Д゚W「ですが、どうやって反撃を? 犯人の位置はまだ把握できていないのでしょう?」

¥・∀・¥「方法は機密事項だ。 例え君らであっても、教えられない。
      だが、警備員が完全装備で待ち構えている場において、無謀をやらかす相手ではないことは分かるだろう?」

これ以上の会話はデレシアには指示されていない。
なのでこれ以上、マニーは言葉を発しなかった。
ブロック長達は、この沈黙の裏を読んで行動しないほど無能ではない。
無言で席を立ち、それぞれのブロックに戻る。

予定されている時間に怒る事態に備えて、各々の準備を行うためだ。
彼らが従順で助かった。
誰もいなくなった会議室で、力尽きたように椅子に腰を下ろす。
これで、反撃の手は回り始めた。

後はデレシアに任せるしかない。
無能な市長は、こんな時にも無力だ。
しかし、手は打った。
手を打つための手配はした。

それだけで、十分だ。
これ以上、自分にできることはそうない。
デレシアの思惑を邪魔しないようにするだけだ。

¥・∀・¥「……無力だな、私は」

分かっていたつもりだった。
無能で、無力な市長だと。
しかし無責任で無謀な市長ではない。
それを実感する機会は度々あったが、ここまで強く実感したのは初めてだった。

自信を持つのだ。
根拠のない自信でも。
自分の力でない自信でも。
行動に移し、状況を変えたことに対して自信を持つのだ。

¥つ∀;¥「本当に……私は……」

途方もない脱力感に押し潰されそうだ。
本当に、無力だ。
何をやっても成し遂げられない。
何をするにしても、他者の助けなしでは何もできない。

虚しい。
それがとても虚しい。
それがあまりにも虚しい。
ただ、虚しい。

こうして座っているだけで、何もできない自分が情けない。
金でどうにも出来ないことの一つに、他人の強い思惑がある。
いくら金を積んでも、こればかりはどうにもならない。
どうにかなるのなら、全財産を差し出してもいい。

¥つ∀-¥「だが……」

だが。

¥-∀-¥「だが」

だが!

¥#・∀・¥「だが!!」

だが、デレシアの協力が得られた以上、こちらの戦力は犯人を遥かに上回った。
彼女がいれば、少なくとも武力と知力で敗北はない。
これで迎え撃てる。
これで立ち向かえる。

¥#・∀・¥「次は、こちらの番だ!!」

いざとなれば、高額で購入した“キングシリーズ”の棺桶を使って自ら戦線に立つ覚悟もある。
一方的にやられる時間は終わりを告げた。
無力な市長には牙も爪もないが、反撃が出来ないわけではない。
彼以外の誰かの牙と爪を使えば、返り討ちにも出来るのだ。

今は、力が世界を動かす時代なのだから―――

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編

‥…━━ August 6th AM04:33 ━━…‥

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痛み、苦しみの混濁の中、夢のような物を見ていた気がする。
だがその記憶はもうない。
波に揺られる中、見ていたのはきっと、悲しい夢だったに違いない。
そうでなければ、胸に残るこの痛みは何なのだろうか。

寒気がする。
ひどい寒気だ。
体の芯から冷えて、手足が震えている。
嫌な記憶が蘇る感覚が、ぞわりと足元から這い上がってきた。

見世物小屋での記憶だ。
首輪を嵌められて、鎖でつながれて、外に置き去りにされている自分だ。
ぼろきれ一枚と、ひび割れた皿に乗る腐った食べ物。
あれは、パンだったのかもしれない。

そうして、時間になると鎖を引っ張られてテントの中に連れて行かれた。
好奇の視線と軽蔑の声。
それを全身に受けて感じたのは、言いようのない嫌悪感だった。
それに慣れたのは一週間、だっただろうか。

ある日、大きな図体の男に別の小さなテントに連れて行かれた時のことを覚えている。
見世物小屋の記憶の中で、それが一番の苦痛だった。
鉄の塊が飛んできたり、汚い言葉や蔑む眼差しを向けられたりするなら、まだ耐えられた。
しかし、それにはどうしても耐えられなかったのだ。

初めてその痛みを味わった時のことはよく覚えている。
首輪に繋がった鎖を引かれ、汗臭く、毛むくじゃらの大男にその部屋に連れて行かれた。
ベッドの上に投げ出され、いつもとは違う気配に、身を震わせた。
抵抗は考えなかった。

『大人しくしてな』

頭を黴臭い枕に押し付けられ、視界を奪われた。
そのまま服を脱がされ、空いた手で太腿を触られた。
気色が悪かった。
全身に鳥肌が立った。

その手が尻に伸び、尻尾を掴んだ。
毛が何本か抜けた。
何をされるのか、全く分からなかった。
尻尾を引っ張って尻が持ち上げられ、肛門に少しだけ濡れた指が突っ込まれた。

(∪;ω;)『ひっ?!』

指が上下に動き、奥へ奥へと突き進んできた。
強制的に排泄させられ続けているような、不快な感覚だった。

(∪;ω;)『あっ、あぅぁ?!』

『へへへ、いい声で泣いてくれよ』

指が引き抜かれ、別の何かが押し当てられた。
男の手が頭から退かされた時、ブーンは意図せずして見てしまう。
毛むくじゃらの男の股間に生えた、自分の手首ほどの太さもある陰茎が肛門に突き付けられているのを。

(∪;ω;)『ら、らに……?』

『いいねぇ、その顔!!』

反射的と云うか、本能的にブーンは逃げようとした。
自由な両手で前に這って進むが、鎖を引かれてずるずると戻される。

(∪;ω;)『や、やぁ……』

『よーく味わいな!!』

そして、激痛が走った。

(∪;ω;)『ひぎっ!!』

肛門に陰茎を突っ込まれ、何度も出し入れされた。
腸が裏返るかと思うほど乱暴で、気遣いなど当然なかった。
あまりの痛さに、声を上げて泣いた。
そんな姿を見て一層興奮した男は直腸に体液を出し、汚れた陰茎を無理やり咥えさせられ、舐めさせられた。

その際、喉の奥がどうのとか言っていたような気がする。
それから月に二回は、男に乱暴され、どうすれば早く終わらせられるのかだけを学習し、何も考えないようにした。
兎に角痛く、気持ち悪かったが、その後にはシャワーを浴びることが許された。
時間が過ぎ、心が灰色になるのが感じられたが、次第にそれもなくなった。

心が壊れるのを防ぐために脳が感覚を麻痺させたのだと、今にして思う。
寒さに体を震わせて、雨晒しになって、体調を壊して、そして一年が経って。
どうして自分がここに来たのかの理由も忘れて、日々を過ごした。
やがて、船に乗せられ、オセアンに着いて――

――それから、体が徐々に暖かくなってきた。
何故だろうか。
嗚呼。
そうだ。

オセアンで、デレシアと会ったからだ。
枯れ果てたはずの涙を、知らなかったはずの人の優しさを与えてくれた人。
そして彼女と会った最初の夜、教えてくれた人の温もり。
今感じているのは、それに非常によく似た温もりだった。

冷え切った体が最初にその温もりを感知した時、火傷をするかと錯覚した。
柔らかい感覚が体を包み、温めてくれている。
それは実体のある温かみだった。
流動的な熱を肌と肉の内側に閉じ込めた温かさ。

人の体。
これは、人の素肌から伝わる体温だ。
自分以外の誰かが、自らの体温でブーンの体を温めているのだ。
それに、匂いがする。

甘い匂い。
優しい匂い。
肺に取り込んだ途端に眠気を誘う、安心できる匂い。
知らない誰かの匂いだ。

命の恩人であり、ブーンに全てを与えてくれた人、デレシア。
湾岸都市オセアンで共に旅をすることになった、ヒート・オロラ・レッドウィング。
海上都市ニクラメンで出会った初めての友達、ミセリ・エクスプローラー。
彼女のボディガード、トソン・エディ・バウアー。

初めての先生、ペニサス・ノースフェイス。
彼女の教え子、ギコ・カスケードレンジ。
刑事、トラギコ・マウンテンライト。
船上都市オアシズで友人となった、ロマネスク・オールデン・スモークジャンパー。

美味い餃子を作るシナー・クラークス。
探偵、ショボン・パドローネ。
第二ブロック長、オットー・リロースミス。
その誰でもない。

初めて会う人の匂いだ。
初めてなのに、とても気持ちのいい匂いがする。
優しい匂いだ。
優しくて強い人の匂いだ。

心地いい。
細い指が背中に回され、力強い足がブーンの脚に絡みつく。
躊躇いながらも、その腕の中に納まり、冷えた体が温まるのをただ感じ続ける。
足の指先から、手の指先まで、じわじわと温もりが広がっていく。

体が溶けて、その温もりと一体になる感覚。
穏やかな感覚の海の中を漂う。
それは、ヒートと泳いだ湖を思い出させた。
あの時、湖は冷たかった。

周りは穏やかで、静かで、木々のざわめきが僅かにあるだけ。
その中で湖に漂っていた時、自分と云うものを忘れかけた。
見上げた先には木々に縁取りされた空があって、力を入れなくてもそこにいる事ができた。
さざ波の音に混じって聞こえたヒートの息遣いは、安心感を与えてくれた。

今聞こえるのは、血潮と鼓動、そして知らない人の呼吸音。
嫌な思いも、嫌な過去も、一時とは言えそれを忘れさせてくれる不思議な音。
皮の一部が硬くなった指が背中を擦り、後頭部を撫でる。
この指の感触も、感じる気持ちも、デレシア達にそっくりだ。

抱き寄せられた先に、弾力のある柔らかい肌。
瑞々しく艶やかで滑らかな肌は、触れているだけで気持ちいい。
唇に触れる少し硬い突起物から感じる、若干の甘さと塩気。
それは女性の胸だった。

知らない女性の胸は柔らかく、上質な枕の様だ。
何度か目を覚まそうと思ったが、体は、瞼を開かせようとはしなかった。

「まだ寝ていなさい」

と、聞こえた声。
それは女性の声だった。
ヒートに似た力強い口調だが、力強さが違う。
デレシアの声に秘められた強さを思わせる、静かな強さ。

それが放つ雰囲気はトソン、ペニサス、ギコ、そしてロマネスクに限りなく近い。
言葉の通りに体が従い、瞼は張り付いたかのように動かない。
不思議と警戒心は働いていなかった。

(*∪-ω-)「お……」

「そうだ。 今はそれでいい」

そうしてまた、夢を見る。
黒い空間の夢。
そこには色はなかった。
だから、黒い空間だと思った。

他には何もなかったが、春の陽だまりの様な温もりがあった。
それだけだった。
それだけの夢だった。
それだけで幸せな夢だった。

声が聞こえた。
それは聞き慣れた声だった。

『ブーンちゃん、今すぐに選びなさい』

オセアンで聞いた声だった。
オセアンの地下で聞いた声だった。
生きることを選ぶきっかけとなった声だった。
何もなかった空間に、その声を聞いた時の映像が浮かぶ。

アメリア・ブルックリン・C・マートに羽交い絞めにされ、交渉の材料にされた時。
地下に造られた巨大な空洞。
そこに聳え立つ巨大な棺桶。
確か、ハート・ロッカーの名で呼ばれていた棺桶だ。

巨大なキャタピラに、両椀と両腕の強力な火器。
その武骨な兵器に悠然と立ち向かう、ヒートが駆る禍々しい爪と杭打機を持つ黒い棺桶。
打倒されるヒート。
爆風に巻き込まれてからの記憶がない。

されるがまま、足手纏いになろうとしていた時。
その声が聞こえたことは覚えている。

『何もしないで死ぬか、抗って生きるか』

そして選んだ。
戦って生き延びた。
それを決断させた言葉は、デレシアがくれたものだった。
今があるのはそのおかげだ。

何度も足手纏いになりながらも、デレシア達は見捨てなかった。
失敗を笑顔で許してくれて、だけど、それを正してくれた。
今回もまた、自分のせいで二人に迷惑をかけてしまったことが悔しかった。
確かに抗うことは出来た。

しかし、それだけだった。
自分は海に投げ出され――

(;∪´ω`)そ「お?!」

――自分の状況が異質なものであることをようやく理解した。
デレシアでもヒートでもない誰か。
その誰かの胸に抱かれて温まっているのは、何故か。
依然としてその女性の両手両足はブーンを抱き寄せたまま。

瞼を開くと、そこには女性の白い肌があった。
キメの細かな肌は若い女性特有の物で、小振りな胸に顔が埋まっている状態だった。
今まで気付かなかったが、女性の体温だけでなく、一枚だけかけられたタオルケットもブーンの体を温めていた。
頭を動かして、ほっそりとした体で自分を抱いている人物の顔を見る。

初めて見る女性だった。
鋭い眼光を放つ深紅色の瞳は氷の様に冷ややかで、半月から少しだけ膨らんだような形をした大きな眼。
その目尻は弓なりに弧を描いて垂れ下がり、慈しみの眼差しでブーンを見つめている。
少しだけ波打つ、限りなく黒に近い灰色の髪は短く、艶やかだ。

笑みの形を浮かべる唇は薄らとしたピンク色で、瑞々しく輝いていた。

!ヽ, __ ,/{
リi、゚ー ゚イ`!「寝てていいと言ったのだが……」

そして、女性の頭部には獣の耳がついていた。
先端部が尖った耳は鋼鉄を思わせる濃厚な黒に、僅かな群青色が混ざった短い毛に覆われ、髪の毛とは色合いが若干違う。
犬の耳ではない。
それは写真でしか見たことがないが、狼の耳に間違いなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「まぁ、いいだろう。 おはよう、ブーン」

名前を知られている。
何故。

(;∪´ω`)「お、おはようございます」

リi、゚ー ゚イ`!「怖がらなくていい。 私は君に危害を加えるつもりはない」

女性はそう言って、両手足を使ってブーンを再び胸に抱き寄せた。
抵抗すると云う選択肢は頭に浮かばない。

リi、゚ー ゚イ`!「私はロウガ・ウォルフスキン。
       ロウガと呼んでくれればいい」

胸の間からロウガを見上げながら、ブーンはその名を呼んだ。

(∪´ω`)「ロウガさん?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ」

(∪´ω`)「ロウガさん、きいてもいいですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「答えられる範囲でなら」

(∪´ω`)「あの、どうしてぼくはたすかったんですか?」

まずは、その疑問だった。
荒れ狂う海に落ちて、力尽きて、沈んだはずだ。
その状況から偶然助かるなど、有り得るはずがない。
ブーンとて、現実と非現実の区別はつく。

リi、゚ー ゚イ`!「私が、海に落ちた君を助けた。
      主に頼まれたのでね」

(∪´ω`)「あるじ?」

主君。
支配者。
飼い主。
マスター。

ロウガの言う主とは、彼女にとっての何なのだろうか。

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 我々の王にして恩師、師匠にして父、恩人にして家族。
      それこそが、我らの主だ。
      その主が君を必ず助けろと命じたので、助けさせてもらった。
      悪いが、君が気を失うまで観察していた。

      そうしなければ、私まで巻き込まれかねない状況だったからね」

どうやら難しい関係の様だ。
詳しく話を聞いてもよく分からないだろうと考え、ブーンはとにかく礼を言うことにした。

(∪´ω`)「お……ありがとう、ございました……」

リi、゚ー ゚イ`!「礼には及ばない。 いい運動になった」

海中で感じ取った視線は、ロウガの物だったらしい。
しかし、ブーンに追いつくならまだしも、あの距離から船まで、どうやって追いついたのかが理解できない。
何かしらの方法があったのだろうが、それがどうしても気になった。

(∪´ω`)「どうやって、ふねにおいついたんですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、気になるか?」

その時、ロウガが浮かべた表情はデレシア達に質問をした時に返ってくるそれに、とてもよく似ていた。

リi、゚ー ゚イ`!「強化外骨格を知っているだろう?
      用途に合わせて様々な種類が開発され、そして現代に復元されている。
      その中には、水中用の棺桶も数多くあり、深海潜水用、水陸両用、水中作業用などが存在する。
      いずれも水中で長時間の作業と優れた機動性を発揮できる。

      私が使ったのは、ディープ・ブルーと云う棺桶だ」

棺桶の種類については少しだけ、デレシアとペニサスから教えてもらったことがある。
一日もいられなかったが、フォレスタで受けた特別授業の一つだ。
特に、デレシアからはペニサス以上の知識を教わった。
棺桶とは、軍用第七世代強化外骨格、開発コード名“カスケット”の事を指し示す俗称。

俗称の由来は運搬用コンテナが棺桶に似ている事などから来ており、それは音声コードの入力によって起動する。
使用者をコンテナ内に収容し、内包された外骨格の装着を速やかに行う。
単一の目的のために設計された唯一無二の棺桶を、“コンセプト・シリーズ”。
宗教団体が開発した物を“レリジョン・シリーズ”、政府と呼ばれる組織が開発した物を“ガバメント・シリーズ”と呼ぶ。

優れた性能を有し、少数だけ製造された棺桶は総じて“名持ち”の棺桶と呼ばれる。
ロウガの言葉で新たに覚えたのは、水中での行動に特化した棺桶が存在するという情報だ。

(∪´ω`)「お……」

助けてくれた人物の名前と、その手段を知った。
他に、自分が知るべき情報を考える。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、今君が知るべき情報を教えてあげよう。
      今、このオアシズ内は最高レベルの厳戒態勢、ハザードレベル5となった。
      君が海に落ちた直後にだ。
      最低でも後二時間は、この部屋からできることはできない。

      ブロック間の移動は厳禁、運よくこのブロック内を出歩けたとしても、二時間だけ」

(;∪´ω`)「お」

自力で思いついたこと以上の情報を、全て言われた。
その情報を元に次の思考へと繋げるが、直ぐにロウガに先を言われてしまう。

リi、゚ー ゚イ`!「そしてここは第一ブロックの一階。
      断っておくが、君の部屋まで誰にも見つからずに移動することは無理だ。
      焦ることはない。
      今は出来る範囲で出来ることをすればいい」

(∪´ω`)「できること?」

リi、゚ー ゚イ`!「君は強くなりたいのだろう?
      ならこの時間を使って学べばいい。
      どうする?」

(;∪´ω`)「つよくなるべんきょうしたいですお……
       でも、ぼくあたまよくないから……だれかにおしえてもらわないと……」

リi、゚ー ゚イ`!「大丈夫。
      私が、君に、教えてあげよう」

そして、ブーンの体がふわりと持ち上がった。
タオルケットがベッドの上に落ちる。
ロウガの腰には、耳と同じ毛色をした毛並みのいい狼の尻尾が生えていた。
一糸纏わぬ姿のロウガに抱きかかえられ、ブーンは自然と彼女を見上げる形となる。

リi、゚ー ゚イ`!「まずは、風呂だ。
      その次に食事。
      戦い方はそれからだ」

(;∪´ω`)「じ、じぶんであるけますお」

リi、゚ー ゚イ`!「子供は遠慮をするものではない。
      甘えるのは子供の特権。
      そして、保護者は子供に甘えられる特権があるのだよ」

そう言い切られ、ブーンは風呂場に連れて行かれた。
風呂場からは新しい湯の匂いがする。
脱衣所を通って、二人は浴室へ。
白い浴槽には湯がなみなみと張られている。

風呂椅子と風呂桶が一つずつ、浴槽に立てかけられている。
ロウガは足の指で器用に椅子と桶を摘まんで、それを置き直した。
ブーンを椅子に座らせた後、シャワーからお湯を出してその温度を手で確認している。

(∪´ω`)「あの、じぶんで……」

リi、゚ー ゚イ`!「自分でやるか? なら、力でそうしてみるといい」

勝てる気がしなかった。
実力を見ることなく、それを体験するまでもなく、理解できるからだ。
匂いが違うのだ。
この女性の立ち振る舞いは、デレシアやヒートのそれに近い。

(;∪´ω`)「……おねがいしますお」

リi、^ー ^イ`!「それでいい」

頭の先からシャワーで湯を浴びせられ、体全体を濡らされる。
お湯はちょうどいい温度だった。
頭の先から足の指先までロウガに洗ってもらい、代わりに、ブーンはロウガの頭と背中を洗った。
この行為が互いの距離を縮める一種の儀式だと分かったのは、つい最近の事。

湯船に入ろうとした時、それをロウガが制止した。

リi、゚ー ゚イ`!「一緒に入ろう。 いい音が聴けるから」

そう言われ、再びブーンはロウガに抱き上げられる。
二人揃って湯船に浸かると、湯が勢いよく浴槽から溢れだした。
その音は確かに、いい音だった。
湯の中で解放され、ブーンはロウガの背中にもたれかかる様に姿勢を直された。

(*∪´ω`)「ほー」

リi、゚ー ゚イ`!「ふぅ……
      な? いい音だとは思わないか?」

(*∪´ω`)゛「いいおとですお……」

ロウガの鼓動を背中で、息遣いを首で、優しさを体全体から感じ取った。
疲れた体を癒す様に、湯船に浸かること十五分弱。
すっかり温まったブーンは、ロウガを見た。

リi、゚ー ゚イ`!「それじゃ、そろそろ出ようか」

風呂から上がる際、ロウガはその尻尾だけを左右に勢いよく振り、水を飛ばした。
ブーンもそれを真似したが、ロウガほど勢いよくは水を飛ばせなかった。
壁と床に付着した毛をシャワーで洗い流してから、二人は脱衣所に進んだ。
洗面台の前に積まれていた柔らかく、ふわりとした白いバスタオルで髪を拭かれ、体を拭かれる。

尻尾も念入りに拭かれた。
用意されていた新しい下着と服に着替え、風呂場を出る。

(*∪´ω`)「おー、さっぱりしましたお」

リi、゚ー ゚イ`!「なら、次は食事だ。
      昨夜君達が食べたピザには劣るが、口に合えば幸いだ」

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編
第七章【drifter -漂流者-】

‥…━━ August 6th AM05:02 ━━…‥

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鰯の刺身とガーリックトースト、砂糖がたっぷりと入った紅茶の朝食は、大満足だった。
刺身の鮮度は良く、紅茶は甘くて美味かった。
食後には歯応えのある甘いリンゴが丸ごと一つ出てきて、ブーンは思わず喜んだ。
その食事に毒が混入されている可能性など、微塵も考えなかった。

その後、戦い方を学ぶ前に改めて服を着替えることとなり、ブーンは上下黒のジャージ。
ロウガは髪を後ろで一つに結い、黒のスパッツにタンクトップ姿となった。
着替えを済ませたブーンとロウガは、その部屋に備え付けられた特別な部屋にいた。
天井から釣り下がる二つのサンドバッグに、ロープに囲まれた小さなリングが一つ。

大きな一枚の鏡に、鉄アレイやダンベルが置かれた部屋。
ここはトレーニングルームだと、ロウガから説明を受けた。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、これから私が言うことを全て体に覚えさせるんだ」

(∪´ω`)゛

ロウガの後ろに付いて、ブーンは部屋を眺めながらゆっくりと進む。
サンドバッグの前で立ち止まると、ロウガが振り向き右手の指を三本立てた。

リi、゚ー ゚イ`!「戦闘には三種類ある。
      近・中・遠距離だ。
      全ての距離において使用可能な武器は、現代では銃火器に限られる。
      現実的な話をすれば、銃は剣よりも遥かに強い」

その口調はとても早く、難しく聞こえたが、不思議とすんなりと心に染み込んできた。

リi、゚ー ゚イ`!「だが、日常生活において発生する戦闘の割合のほとんどを占めるのは、近距離だ。
      誰よりも早い攻撃こそが、戦闘で優位に立つ秘訣だ。
      先手必勝、と言う。
      近距離に限定して言えば、銃や刃物よりも早い攻撃方法がある」

瞬きする間もなく、ロウガの拳がブーンの左の頬に当てられた。
いや、気付いた時には既に当てられていた後だ。
油断していたと言えばその通りだが、攻撃の気配、予備動作すら気が付かなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「それが、これだ」

(∪´ω`)「てあし、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 拳足、徒手とも言う。
      これを鍛え上げ、練り上げ、洗練すれば、立派な武器になる。
      特に、私達の様な人間が本気で使えば、相手を一撃で殺すことが出来る力を持つ。
      現実問題、常時、武器を手の中に収めている人間――例えば安全装置を外して初弾を薬室に装填し、撃鉄が起こされ銃爪に指がかけられた状態の銃を持つ奴――はそういない。

      それを考えれば、近距離でこれほど理に適った武器はないんだ」

頬から拳が離され、ロウガはサンドバッグに向き合った。
先ほどまでブーンの頬に当てていた拳をサンドバッグに押し当てる。

リi、゚ー ゚イ`!「使い方は様々だ。 例えば、超近距離。
       この距離になると、銃は使えない。
       ナイフも抜くには近すぎる」

ロウガが拳に力を入れたかと思うと、サンドバッグが天井まで跳ね上がった。
踏み込みもなしに見せた芸当。
理屈は、感覚的にだが分かる。
力の入れ方が、ブーンの知るそれとは異なるのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「これを腹にお見舞いすれば、内臓を潰すことが出来る。
      いきなり君にこのパンチを繰り出せとは言わないが、将来的にはこれ以上を期待するよ」

(∪´ω`)゛

リi、゚ー ゚イ`!「続いて、蹴り。
      基礎を固めれば、こんな風にできる」

綺麗な半円を描いて放たれた回し蹴り。
その直撃を受けたサンドバッグは、文字通り吹き飛んで壁にぶつかり、床に落ちた。

(;∪´ω`)「えぇぇ……」

その威力が人間離れしている事が一目で分かる蹴りだった。
直撃を受けた人間が即死することは、容易に想像できる蹴りだった。

リi、゚ー ゚イ`!「全ては一歩から始まる。
      踏み出さなければ到達できないのは当然。
      やり始めもしないで無理と口にするのは簡単。
      だが、やり抜くことはそれよりも遥かに難しい。

      君なら、後者を選ぶと私は分かっている」

その通りだった。
頷く代わりに、ブーンは質問をした。

(∪´ω`)「なにをすれば、いいんですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「まずは基本だ。 君の様な人間の我武者羅な姿は嫌いではないが、今は時間がない。
      私が見せる通りにやってみなさい」

ロウガは先ほどまでと違い、僅かに左足を動かして重心を移動させた。
重心の移動に伴い、体が沈む。
両腕はまだ拳を作っていない。
どちらの腕が動くのか、まだ分からない。

そして――

(∪´ω`)そ「お?!」

――拳が、一瞬でその場所を変えた。
かのように見えた。
ブーンの動体視力を上回る速度で放たれた拳。

リi、゚ー ゚イ`!「基本はこれだ。
      攻撃を悟らせるようなテレフォンパンチは論外。
      また、型に拘るのも論外だ。
      どのような状況下でも出来る攻撃が、打撃戦では最も好まれる。

      そこのサンドバッグに、今のパンチをしてみなさい」

とりあえずは実践あるのみ。
言われた通り、サンドバッグの前に立つ。
肩から力を抜いて、拳を突き出すイメージをする。
そして、右の拳を撃ち抜くように突き出した。

サンドバッグにめり込んだ初めての拳。
ロウガの様に動きはしなかったが、サンドバッグは確かに揺らいだ。
不格好で貧弱なパンチだった。
腕を組んでそれを見ていたロウガは少し考え、口を開いた。

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ…… 打撃に必要な筋力を鍛えながら、基本を体に染みつけようか」

(∪´ω`)゛「わかりました、ロウガさん」

リi、゚ー ゚イ`!「いい返事だ。 だが、そうだな……」

頷いたブーンの眼を真っ直ぐに見つめながら、ロウガは微笑を浮かべて言った。

リi、゚ー ゚イ`!「私のことは、師匠と呼ぶがいい」

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‥…━━ August 6th AM06:08 ━━…‥
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オアシズの船長、ラヘッジ・ストームブリンガーは操舵室から見える外の景色に胸をなでおろした。
引き千切られた綿のような形をしている紫色の雲。
雲に覆われた水平線の果てを染める、濃厚なオレンジ色の光。
世界最大の豪華客船オアシズは、無事に嵐を抜け出たのだ。

朝日を見た瞬間、操舵室は安堵のため息で溢れかえった。
流石の船長も、それに参加せざるを得なかった。
船は沈没も難破もせず、ここまで来ることが出来た。
それだけでも上出来だ。

「全エンジン停止、蓄電モードに移行。
ヨセフ、航行設定を波力推進に切り替えろ。
操舵はグスタフ、お前に任せる。
キース、エル、レーダーと無線機に注意しろ。

ジュスティア軍の船影を確認したら、すぐに交信するんだ」

ヨセフ・ガガーリンが無線機を使って、エンジン室に指示を出す。
操舵輪から離れたラヘッジに変わり、グスタフ・スタンフィールドがその場所に着く。
ヘッドセットを装着してレーダーを凝視するキース・バレル、そしてエル・マリンが親指を立てた片腕を上げた。
細かな指示は彼ら自身が考えて下す。

このメンバーだからこそ、あの嵐を切り抜けられた。
経験を積んだ者達でなければ、殺人鬼の策略にはまってまともな判断が出来なくなっていただろう。

「……皆、ご苦労だった。
ディアナ、ここにいる全員に今すぐ、ホットコーヒーを……」

「船長、何年一緒だと思っているんですか?」

白いカップとポットを積んだカートを押しながら、ディアナ・カンジンスキーが操舵室に入ってきた。
流石だ。
きっと、あのポットの中のコーヒーには砂糖がたっぷりと入っているに違いない。
一人一人の席を回って、コーヒーを注いで回る彼女の姿は給仕ではない。

立派な、一人の船員の姿だ。

「さて、後は軍隊の到着を待つだけ、か」

自力で事件解決に協力できれば、どれだけよかったことか。
船長として、船の安全と平和を願うのは当然だ。
そしてそれを他力本願にしたくなかった。
しかし現実問題、彼には優れた推理力も洞察力もなく、事件解決に助力できることは何一つない。

悔しいが、事実だ。
精々彼に出来るのは、こうして船を安全に航行させ、軍を招き入れることぐらいだ。
それを果たしさえすれば、彼は義務を全うした事になる。

「なんだか、スッキリしないな……」

自分の前に置かれたコーヒーの水面を見つめる。
それを掴もうと手を伸ばした時、キースとエルの声が前方から聞こえてきた。
少し油断していたため、カップを倒して中身を全て床に零してしまう。
幸いなことにカップは割れず、誰にも気付かれていない。

「いかんっ……」

嫌な予感がする。
予感とは、微細な情報の蓄積による推理だと、ラヘッジは考えている。
これまでに起こった事件の数々。
船内で感じ取れる微妙な空気の変化。

それらを統合して、ラヘッジはこの後何かが起こるのではないか、と考えた。
予想した。
予期した。
覚悟した。

船長になって以来、一度も使ったことのない腰のベレッタが、急に頼もしく感じられた。
傷の少ない黒いベレッタM92F。
装弾数十七発。
護身用にも戦闘用にも適した自動拳銃。

これを使う機会が、訪れるかもしれない。
ラヘッジは外れてほしい予感を胸に抱きつつ、床に零したコーヒーにハンカチを多い被せた。

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‥…━━ August 6th AM06:17 ━━…‥
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潮風は冷たかった。
まだ嵐の余韻が残った海上を漂う香りを肺に取り込み、レインコートの裾を風に棚引かせ、片手で帽子を押さえる男は口の端を吊り上げた。
なるほど、いい匂いだと男は唸った。
足元のスーツケースに染みついた匂いと同じ匂いがする。

これは事件の匂いだ。
トラギコ・マウンテンライトは視線の先に捉えた巨大船舶を前に、胸を高鳴らせた。
同時に、残虐な笑みを浮かべた。
嵐の中の船と云う逃げ場の限定された空間での犯行は、絶対に自分だけは大丈夫だと云う犯人の自信の表れ。

それが気に入らない。
どれだけ念入りな計画だろうと、必ず噛みつける箇所がある。
偽りに満ちた事件だとしても、絶対に糸口はあるのだ。
トラギコはそれを知っている。

少なくとも、今の警察の中では誰よりもそれを知っていると言っても過言ではない。
だからこそ断言できる。
この事件、デレシアの手に手錠をかけるまでのいい暇潰しになるだろう、と。

(::0::0::)「トラギコ・マウンテンライト刑事、乗船準備整いました」

(=゚д゚)「おう。 おいホプキンス、まだ誰も乗船させるな」

同じ船に乗り合わせているカーリー・ホプキンスは、不機嫌そうな顔でトラギコを見た。
それはそうだ。
この隊は、彼の部下達で構成されている。
その指揮を執るのは彼であり、トラギコではない。

それに、彼らから見ればトラギコは余所者だ。
例え同じ街の組織の人間であっても、軍と警察は慣れ合っている訳ではない。
根本的な部分はほとんど同じだが、上司が違えば中身も考え方も違うのだ。
無理を言って乗せてもらったトラギコに指示をされるのは、ホプキンスとしては不愉快の極みだろう。

まして、相手は誇りに対する意識の高い軍人。
この発言をした段階で殴り掛かられてもおかしくはなかった。

「刑事さん、この隊の指揮権は……」

だが、それが何なのであろうか。
トラギコには関係ない。
これは事件であり、事件を解決するのは警察。
そして、今この船にいる警察官は自分だけだ。

揉め事、争いごとの解決には慣れているだろうが、軍人は事件の解決には慣れていない。
事件が起こるとしたら、戦地で起こる程度の糞つまらない略奪だとか、強姦程度だ。
そんなもの、事件の内に入らない。
犯人は決まり切っており、捕まえるのも見つけるのも、判決を下すのもあっという間だ。

それは、事件に関しては素人と同じであることを意味しているのだ。

(=゚д゚)「素人は黙ってな。 事件現場ってのは、ベッドの上の女と同じラギ。
    繊細で、直ぐに機嫌を損ねて最悪の場合は何もかもを滅茶苦茶にして帰るラギ。
    いいか、ここの市長が作った密閉状態を無駄にするもしないも、俺ら次第ラギ。
    まずは状況の詳細な把握を全体で共有してから、船に乗るラギ。

    おいそこの」

(::0::0::)「はっ。 既に全船に無線で通達してあります。
     通達内容は、犯人は銃器を所持し、棺桶を使用。
     また、犯人は変装を得意とし、戦闘経験は豊富。
     現在入っている情報によれば、第三ブロック内にいる可能性が最も濃厚であると伝えてあります」

(=゚д゚)「上出来ラギ。
    俺達が入る場所を一か所に限定するラギ。
    見取り図はあるラギか?」

(::0::0::)「こちらに」

紙に印刷された見取り図を広げ、直ぐに決断を下す。

(=゚д゚)「……第三ブロック一階にある右舷の非常口を使うラギ」

第三ブロック以外から入った場合、船側の作り上げた閉鎖的な空間を台無しにすることになる。
ならば第三ブロックからの乗船が理想的だ。
また、一階から入ることによって船の全体像を思い描ける。

「……そうしましょう」

ホプキンスは苦虫を潰したような顔をしていた。
だが、それはトラギコの言葉が正しいことを理解している何よりの証拠。
彼は馬鹿な指揮官ではない。
感情に流され、無謀な指示をする類の人間ではなかった。

捜査開始前に仲間から死人を出さずに済んだ。
これで彼が矜持に拘る屑の類だったら、迷わずに懐のベレッタM8000が火を噴いて彼の脳味噌を海に撒き散らしていただろう。

(=゚д゚)「お前らの指揮権は、当然、そこのホプキンスが持っているラギ。
    だけどな、事件の指揮権はこの俺の物ラギ。
    そこだけはっきりさせておくラギよ」

念押ししてから、船尾に仁王立ちになったトラギコは操舵室に声をかけた。

(=゚д゚)「行け、右舷ラギ」

ジュスティアから出発した船団を引き連れ、巨大な船に右側からゆっくりと近づいていく。
徐々に巨大な船舶はその大きさを現実的な物へと変え、トラギコは威圧感に興奮を覚える。
何と、何と大きいのだろうか。
糞を閉じ込めるために作られたジュスティアの誇る三重防壁“スリーピース”など、比較にならないほどの威圧感だ。

真横に来ると、視線を真上に向けても視界に収めきれない。
巨大な建築物を見ると、トラギコはどうしても胸が高鳴ってしまう。
それは一種の趣味や趣向に近いものだ。
感動とは違う。

純粋な興奮だ。

(=゚д゚)「……よし、乗船準備が整い次第、無線で連絡を入れるラギ」

操舵室の男に指で指示を出すと、男は頷いて無線機を手にした。
訓練されているだけあって、行動が早くて好感が持てる。

(::0::0::)「刑事殿、一ついいですか?」

隣にいた男が、尋ねてきた。

(::0::0::)「そのアタッシュケースの中身は?」

(=゚д゚)「手前は、デートの度に女のカバンの中身を聞くラギか?」

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‥…━━ August 6th AM06:21 ━━…‥
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その人物は、コーヒーの香りの混じった深い溜息を吐いた。
部屋に戻ることが許され、計画の修正案を考える時間が得られた。
流石に、厳戒態勢で他人の目がある中では、集中力を十分に発揮することは難しい。
簡単に朝食を済ませ、ベッドの上に倒れて考え込んでいた。

あまりいい気分はしなかった。
僅かな油断が、全てを台無しにしてしまったのだ。
定められている時間がある中で、予定通りに舞台を揃えられなかったことは恥だ。
そしてこれは、計画が失敗に至る可能性が生じたことを意味する。

第一に、リッチー・マニーを過小評価していたことが、それに繋がった。
彼に対する評価を改め、残された数少ない時間で場を仕切り直すことが必要だ。
第二に、デレシア一行の力を甘く見ていた。
彼女達は、自分の手に負いきれないかもしれない。

しかし、まだ修正は可能だ。
自分の一声が持つ力が健在な内は、それは夢ではない。
不用意な行動を避けて、必要な行動を――

『乗客の皆様、私はオアシズ船長、リッチー・マニーです』

――マニーの声が、頭上のスピーカーから聞こえてきた。

『お客様に幾つかお知らせがあります。
現在、本船は嵐を抜け、蓄電のために風力のみで航行しております。
ティンカーベルへの到着は、予定よりも大幅に遅れる見込みです。
これにより生じる料金は、当方で全額負担いたします。

船内でのお買い物にかかる料金もまた、同様となります。
詳しくは、お部屋に備え付けられているマニュアルの百六十五ページをご参照ください。
そして、先ほど発令いたしましたハザードレベル5ですが、一部ブロックにて限定的に解除いたします。
それに合わせて、待機していたジュスティア海軍の応援がもう間もなく乗船を開始いたします』

遂に、来た。
世界に散る警察の大元。
正義の執行者を語る、正義の模倣者。
ジュスティア軍の介入は、予定通りの動きだ。

だが、聞き間違いか何かだろうか。
“鉄壁”に匹敵するハザードレベル5の限定解除。
それは、この警備態勢にわざと穴を空ける行為だ。
船に穴が開けばその箇所から浸水するように、その穴は攻め手側にとって恰好の突破口となる。

罠だ。
間違いなく。
マニーと云う男は、ここまで大胆な男だったのか。
この事件を引き起こした犯人に対して挑戦するだけの自信があるのか。

誰かに入れ知恵された可能性が濃厚だ。
彼一人の決断ではない。
デレシアが手を貸したのだろうか。
いや、まさか。

見ず知らずの人間に対して最も警戒心を抱いている時であろうに、デレシアと接触するなど、不可能だ。
何はともあれ、これは好奇だ。
愚か也リッチー・マニー。
大方、第三ブロック以外を解放するのだろうが――

『重ねてご連絡いたします。
今回警戒を解除するのは、第三ブロックだけにいたします』

「馬鹿なっ?!」

思わず、口に出して驚きを露わにする。
探偵たちも、犯人は第三ブロックに追い込んだと信じているのに、よりによって、真逆。
犯人がいるとされている第三ブロックだけを解放する。
それは、考え方としては虎の入った檻を開けるのに等しい。

何を考えているのか。
こちらがその誘いに乗るのを躊躇うとでも思っているのだろうか。
だとしたら、愚かの極みだ。
この船を救うための唯一の手段、この自分に対抗できるただ一人の存在を屠る機会を、見逃す手はない。

デレシア達さえ消せば、この船は完全にこちらの意のままに動く。
その為なら、デレシアを殺すために生じるリスクなど、軽い物だ。
今度は焦らずに、デレシア達を殺す。
時間が限られているのが残念極まりないが、今日は手を出さないでおこう。

まだ時間はある。
状況が落ち着き、水底が見えるぐらいに事態が収縮してから動いても、まだ間に合う。
枕元に置いていた電話が、低い電子音を立てて鳴り出した。

「……何か?」

次に電話口から聞こえてきた言葉は、またしてもその人物を興奮させた。
欠けていたパズルのピースを見つけた気分だった。

「そうか、分かった。
すぐに行く」

ようやく、この第三ブロックだけを解放した理由が理解できた。
要するに相手が求めたのは、犯行現場の限定だ。
殺人をコントロール下に置き、そこで犯人の動きを捉え、封じる。
統制された殺人事件、と云う訳だ。

実に理に適った方法だ。
全員を檻に入れたままでは犯人は見つからない。
誰が人の皮を被った虎かを見破るには、虎にとって都合のいい状況を用意し、観察することが有効だ。
虎からすれば餌場に放たれたわけだが、この餌場には罠が多すぎて逆に手出しを躊躇わざるを得ない。

どうやら、オアシズ内にも切れ者がいるようだ。
だが、こちらの想像の域を越えるほどではない。
これを逆手に取ればデレシアを殺すのは難しくない。
全ては。

そう、全てはこちらの思うまま。

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‥…━━ August 6th AM07:01 ━━…‥
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そこに揃った面々の肩書、素性を知る者がいれば、間違いなくその場から何かしらの理由をつけて立ち去った事だろう。
オアシズ側からの出席者は、五つのブロックを統治する五人のブロック長。
船に常駐している警察、探偵の代表合わせて十四名。
船長、そして市長の合計二十一名。

それに合わせて、つい先ほど乗船したジュスティアからの応援部隊代表者二名。
錚々たる代表者達が集められたのは、第三ブロック一階にある大会議室だった。
赤い絨毯が敷き詰められ、部屋全体を照らすのは天井一面の薄型照明器具。
全員が椅子に座ることなく、壁にかけられたスクリーンを注視していた。

やがて、光がゆっくりと消されて部屋が暗闇に染まり始めた。
スクリーンだけが光を浴びる中、一枚の写真が映し出される。
それは、この事件の最初の被害者ハワード・ブリュッケンの死体の写真だった。
軍人としてその席にいたカーリー・ホプキンスは、思わず口元を押さえた。

その隣で紅茶の注がれたマグカップを手にする男、刑事トラギコ・マウンテンライトは左眉を持ち上げた。
一目で事件現場の矛盾点に気が付いたのである。
風呂場での殺人では、基本的に証拠を洗い流すことを目的としている。
しかし、これは安いカモフラージュを目的としていた。

狙いは、銃弾の隠ぺいだ。
頭部に穴があり、壁には汚れがない。
貫通したはずの銃弾による傷も汚れもないのは、明らかに異常だ。
その異常が意味するものは、銃弾が持つ重要性。

それを補足する情報として、使用された銃が現在行方不明となっている第一ブロック長、ノレベルト・シューの物であることが断定されたと付け加えられた。
この死体の写真と映像が船内で流されたのは、八月五日の午前十時十三分。
それから間もなく、サイタマ兄弟と呼ばれる探偵が襲撃を受け、そこで奪われた鍵を使って警備員詰所で虐殺が起こる。
犯人が棺桶を使用し、また、水中作業用の棺桶が奪われたことも告知される。

使用された棺桶はジョン・ドゥ。
奪われたのは、ディープ・ブルー。
いずれも珍しくない棺桶だが、武器を使わずとも人を縊り殺せる代物だ。
ディープ・ブルーは陸上での戦闘に向かない。

逃走用のために奪取したのだと考えられる。
昨日午前十一時二十分、この船で最も危険度が高い状況でのみ発令されるハザードレベル5によって、船全体が厳戒態勢となる。
そして、厳戒態勢にもかかわらず、昨夜十時頃に女性二人が毒殺された。
犯人が警備員に扮し、変装技術が非常に高いことが確認されている。

最重要人物にして容疑者は、ノレベルト・シュー。
彼女の行方は、今なお捜索中である。
用意されていた全てのスライドを流し終えてから、探偵長“ホビット”は一同を見た。

(<・>L<・>)「……以上が現時刻までに起こった事件の概要となります。
       この時点で、何か質問は?」

このプレゼンテーションで大まかな事が分かった。
トラギコは他の人間の下らない質問で時間を失う前に、事件の核心に触れた。

(=゚д゚)「クリス・パープルトンと云う乗客はこの船にいるラギか?」

ポートエレンで発見された溺死体。
トラギコの推理が正しければ、あの死体はこの船の乗客だ。
船から落とされて溺死したのではなく、船で殺されて遺棄されたものだ。
それが丁度コクリコ・ホテルまで流れ着いたのである。

タイミングから考えて恐らくそれは、計画された動きだったはずだ。
何を目的としたのかは、まだ分からない。
しかし、トラギコはクリス殺害の犯人がこの船に乗っていること。
そしてそれがこの事件の犯人と繋がっていることを、確信した。

(<・>L<・>)「……いいえ、そのような人物は名簿にありません」

背の小さな男の隣でしきりにトラギコに視線を送っていたショボン・パドローネが、それに反応した。
彼も、ポートエレンの事件に関わっている人物だ。

(´・ω・`)「トラギコ君、どうして――」

(=゚д゚)「……いいや、気にしなくていいラギ。
    ただの好奇心ラギよ」

¥・∀・¥「それでは、集まってもらった理由を話そう。
      皆には、この第三ブロック内に常駐して、犯人を確保してほしい。
      生きたまま、だ」

その言葉に食いついたのは、意外にも、ショボンだった。

(´・ω・`)「市長、お言葉ですが、生け捕りは困難かと」

¥・∀・¥「それは何故だ?」

(´・ω・`)「第一に、犯人が武装している事。
     第二に、棺桶を所有する人間を生捕るなど、あまりにも理想論過ぎます。
     それにですね、第三ブロックの開放などあまりも軽率過ぎです」

ショボンの言うことは理に適っている。
生け捕りをするには、まず、相手よりも戦力で上回っている必要がある。
そして何より、その機会を手に入れられるかどうかが重要だ。
出会った瞬間に攻撃されでもしたら、反撃をするのが人である。

殺す気で攻撃をしなければ、絶対に勝てない。
ましてや、こちらが生け捕りを狙っていることが判明すれば、それを犯人に利用されて被害が拡大する一方だ。
躊躇せずに殺すのが望ましい。
第三ブロック解放についてはまだ情報が少ないため、何とも言えない。

¥・∀・¥「ショボン君、だったね。
      いいかい、よく聞いてくれ」

マニーは一つ咳払いをしてから言った。

¥・∀・¥「無能は黙って指示に従えばいいんだよ」

(;´・ω・`)「っ……!?」

その部屋の誰も、もう、これ以上の質問をしなかった。
彼の発言に呆れたからではない。
彼らは、自覚せざるを得なかったのだ。
ここまで人が集まらなければ、犯人に太刀打ちできない現実を。

そして、トラギコ達が来るまでの間、犯人に翻弄され続けたことを正当化できなかったのだ。
トラギコはマニーをただの無能な金持ちでは無い事を、その発言から察した。
同時に、今の言葉は本当に“彼自身の言葉”なのか、とも思った。
経験上、誰かに対して攻撃的な言葉を口にする際には、口元に特徴が現れるはずだ。

少しだけ、彼の喋り方に違和感を覚えたのだが、あまり深くは考えないことにした。
今トラギコが探すべきは、この船に乗っている彼の宿敵。
金髪碧眼の流浪の旅人。
湾岸都市オセアンを事実上の崩壊へと導いたと考えられる、素性不明の女。

彼女について分かっているのは、デレシアという名前だけ。
彼女がこの事件を引き起こしたとは考えられないが、カギを握っていると、勘が告げている。
最優先事項は事件の解決だが、デレシアとの合流も考えに入れておく必要がある。

(=゚д゚)「なぁ市長、俺はこう考えているラギ。
    恰好だけのくっだらねぇ会議より、現場を歩いて調べる方が時間を無駄にしないって」

¥・∀・¥「全くもって同感だよ、えーと……」

(=゚д゚)「トラギコ・マウンテンライト、トラギコと呼べばいいラギ。
    じゃあ俺は適当に散策するラギ、後は好きにしてくれや」

市長は、馬鹿ではない。
それが分かっただけで収穫だ。

(=゚д゚)「邪魔だけは、してくれるなよ」

アタッシュケースを持って、トラギコはその陰気くさい部屋を出て行った。

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‥…━━ August 6th AM07:05 ━━…‥
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その光景を目にした時、思わず、観光で訪れたアルカトラズ島の監獄での出来事を思い出した。
脱獄不可能と言わしめたアルカトラズ刑務所の跡地。
観光の目玉とも言える監獄体験の時に起こった、一つの事件、事故。
当時の情景の懐かしさに、デレシアは思わず頬を緩ませた。

鉄格子の代わりに開いたのは装飾された扉。
現れた人々の顔に浮かぶのは安堵と疑問の色が入り混じった、歓喜と恐怖の表情は同じ。
籠から出された鳥が外の世界を恐れるような、そんな感じもまた同じだ。
それはそうだ。

実際、彼らを待つのは殺人鬼。
飼い慣らされた鳥にとっての自然と同じなのだ。
気の毒だとは思うが、自分自身を守ることが必要とされている時代だと云うことは、生まれた時から教わっているはずだ。
幸いなことに、彼らは武器を手にしている。

昔とは違い、銃を携帯することに誰も躊躇をしない。
平和主義だとか、共存だとか抜かす阿呆はとうの昔に絶滅した。
だが不幸なことは、彼らが怯える対象にあった。
彼らに危害を加え得る存在には、偏執がある。

それも、異常な類の。
デレシアはこの狩場で、犯人の目的と偏執を探らなければならない。
判断材料が極めて少ないため、相手が動きやすい場を作り出しでもしないとパズルのピースが揃わないのだ。
パズルのピースを強引に引き出せれば重畳。

次の被害者が出たとしたら、それは残念なことだ。
犯人が早計で、浅はかだと分かってしまうからだ。
出来ればそうであってほしくない。
ブーンを海に放り、デレシアを怒らせた人間が、ただの精神異常者であっては困るのだ。

ζ(゚、゚*ζ「……さて、と。 ヒート、私達も動くわよ。
      用意は?」

すっかり人気のなくなった第三ブロック一階にある大会議室。
その出口から姿を現したのは、カーキ色のローブで身を固めたデレシア。
彼女の腋の下に吊るされたホルスターと、腰のホルスターには銃が収められている。
腋の下の二挺は、傷だらけの黒のデザートイーグル。

装填されているのは、マンストッピングパワーに優れたホローポイント弾。
腰のソウドオフショットガンには、対棺桶用の大口径のスラッグ弾が詰まっている。
予備の弾も弾倉もローブの下にある。
正面切っての戦闘だろうと、左右を挟まれての攻撃だろうと、切り抜けられる。

この準備は大げさとは思わない。
デレシアの推測では、この殺人劇は序章。
全体の注目をこれに集めるための茶番劇に過ぎない。
ならば、その茶番劇に全力で付き合う人間を宛がい、こちらはこちらで、準備をすればいい。

敵がそれに気付いたとしても、反応することは難しい。
反応すれば、それはデレシアの推測を肯定することになるのだ。

ノパ⊿゚)「いつでも。 で、あたしが合流する協力者ってのはどんな奴なんだ?」

ヒート・オロラ・レッドウィングは、ダークグレーのシャツに黒のジャケット、そして下はスラックスと云う姿だ。
堅気の格好とは言えないが、動きやすさとカモフラージュのアレンジはデレシアのそれよりも遥かに高い。
防弾・防刃の服装ではないが、その代わりに、彼女の背中には棺桶がある。
Aクラスのコンセプト・シリーズ、対強化外骨格用強化外骨格“レオン”が。

ζ(゚、゚*ζ「そうねぇ……」

さて、協力者の事をどう語ろうか。
湾曲表現は好まない。
特に、親しい人間に対する隠し事は好きになれなかった。
だが迂闊にその人物の情報を公開するべきでないことは、この状況では明らかだ。

デレシアの見立てでは、犯人はあの会議室にいた人間の中にいる。
それが変装をしているにしろ、していないにしろ、だ。
となれば、今こうしている間にもどこかでデレシア達を監視しているかもしれない。
一先ず、真実を一つだけ教えることにした。

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとだけ不器用な、私の親友よ」

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‥…━━ August 6th AM07:15 ━━…‥
 To Be Continued....!

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