やぁ
2012年 01月 30日 Mon
戦鳥title
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九月半ばのその夜は、秋の気配を孕んだ空気が街中に漂っていた。
アーリジュ合衆国首都ニュークの街は夜の賑わいを見せ、酒精に酔いしれた人々の声が聞こえてくる。
風が運んだ秋の気配は、街路樹の色づいた葉が、そっと教えてくれていた。
高層ビルの見守る夜の街。

その日、多くのアーリジュ国民はテレビに映し出されるニュース番組の生放送を、食い入る様に見ていた。
目的は、次期合衆国大統領選挙の候補者二名によるディスカッション及び演説を聞く事だった。
今はまだ、世界で起きたニュースにコメントをする候補者の様子を映しているだけだった。
それでも、時折意見が食い違った時に見せる空気に、国民達は一喜一憂しているのであった。

現合衆国副大統領、アニジャ・バーティゴはルインドの首都で起こった自爆テロのニュースに対して、こうコメントした。

( ´_ゝ`)『……痛ましい事件ですね。
     被害者の方に心からお悔やみを申し上げます』

対して、保守派の急先鋒、対立候補の現ニューク州知事ジャンヌ・アヴェ・マリアは異なる意見を口にした。

ノリ, ゚ー゚)li『やはり、こう云った輩がいる以上、我が合衆国が率先して平和維持活動を行うべきなのです。
      これ以上の犠牲者を出す前に』

会場から拍手が湧いて起こった。
アニジャは呆れた風に溜息を吐いて肩を竦めただけで、何も言わなかった。
それがジャンヌの神経を逆撫でしたのか、挑発的な口調で突っかかった。

ノリ, ゚ー゚)li『言葉だけではなく、行動する事こそが、指導者の素質を示す最良の方法だと思うのですが。
     副大統領はどうお思いですか?』

( ´_ゝ`)『ジャンヌさん、貴女は夜のニュークを歩いた事はありますかな?
     貴方の言う有能な指導者候補が大勢闊歩して、治安悪化に貢献していますよ』

皮肉の効いたその言葉に、ジャンヌは乾いた笑いでしか応じられなかった。
ニュースキャスターが気を効かせて次のニュースに移った頃。
シャッターを下ろした喫茶店の裏口から、少女が上機嫌で出て来た。
数歩間隔を開けて、一人の男性が後に続く。

ミセ*゚ー゚)リ「ギコさん、御馳走様でした!!」

丸い円らな双眸は青く、外に向けて跳ねる髪は亜麻色をしていた。
発育途上のハイティーンエイジらしく可愛らしい服装で、一歩動く度、スカートの裾が翻った。
ミセリナ・ウォーマックの少女らしいあどけなさを残した声に、灰色の髪の毛をした男が微笑を浮かべて答えた。

(,,゚Д゚)「いや、気にしなくていい。 約束だからな」

ギコ・カスケードレンジは風が運んで来た秋の香りを吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
そうして、目を細めて感慨深そうに独り言ちた。

(,,゚Д゚)「……もうそろそろ秋か」

ミセ*゚ー゚)リ「秋と言えば食欲の秋ですから、もっとウチの店に来る機会が増えますね」

ミセリの言うウチの店とは、言わずもがな、先程二人が出て来た喫茶店に他ならない。
ウェイトレスと客。
二人の関係は、それだけだった。
恋人でも友人でも、ましてや、家族でもなかった。

(,,゚Д゚)「気が向いたらな」

ミセ*゚-゚)リ「…………」

(,,゚Д゚)「どうした? 何故黙る?」

ミセ*゚-゚)リ「……むぅ」

一人唸るミセリ。
ギコは首を傾げ、どうやら自分に原因があるのではないかと考えたが、深くは考えなかった。
人の気持ちを考えてもキリが無い事を、ギコはよく知っていた。

(,,゚Д゚)「それより、帰るなら送って行くが?」

すると、ミセリは嬉しそうに顔を輝かせて、何度も頷いた。

ミセ*゚ー゚)リ「はい、はい!!
     送って行って下さい!!」

懐かれている理由がよく分からないが、ギコはミセリの横に並んで歩き始めた。
一度送った事があるだけだったが、道は覚えている。
心なしか、ミセリとの距離が近い気がした。

(,,゚Д゚)「学校はどうだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「最近は学園祭が近いんで、もっぱらその準備です」

(,,゚Д゚)「ほぅ。学園祭か……」

高校に入学すると同時に志願兵としてガルフ戦争に派兵されたギコには、無縁の言葉だった。
祭りらしい光景と言えば砂漠の嵐の時に見た、夜空に向かって飛んで行った大量ミサイルぐらいだ。

ミセ*゚ー゚)リ「一般参加は二日目からですよ」

(,,゚Д゚)「ナンパに気をつけろよ」

ミセ;゚д゚)リそ 「って、そうじゃなくてっ!!
       来てくださいって意味ですよ!!」

(,,゚Д゚)「……そうなのか?」

ミセ*゚ー゚)リ「そうなんです」

(,,゚Д゚)「……なら、行こうか」

どうせ、仕事も用事もないのだから、折角の機会を断る必要もない。
長い傭兵生活から退いてから請負った仕事で、ギコは機会の大切さを知った。
まだ人生は先が長い。
ならば、見知らぬ事を恐れずに触れるのが、賢い生き方だと、ギコは結論付けた。

話題が学校に移ったことから、ギコは以前にミセリが陸上部に所属していた事を思い出した。

(,,゚Д゚)「部活は? ちゃんと走ってるか?」

ミセ*゚ー゚)リ「勿論ですよ!! こう見えて、私中距離のエースなんですよ!!」

(,,゚Д゚)「中距離は何人いるんだ?」

すると、ミセリは押し黙って、ギコから顔をそむけた。
その反応で、人数がごく少数。
具体的に言うと、中距離に所属している全員がエースになれるぐらいだろうと想像がついた。

(,,゚Д゚)「……まぁ、頑張れ」

背丈の違いから、ミセリの頭は丁度いい位置――ギコの手が届く高さ――にある。
ギコは小さな子供にそうする様にミセリの頭に手を乗せ、乱暴に撫でまわした。

ミセ*゚д゚)リ「ふぉっ、ふぉおおお!!」

抵抗しないので、ギコはそのまま頭を撫で続けた。

ミセ*゚д゚)リ「ふぉおおぃいい!!」

(,,゚Д゚)「近所迷惑だ」

と云う事で、手をどけた。
喫茶店からミセリの家までは、そう離れていない。
また、ミセリの家からギコの住んでいる安アパートまでは、徒歩で15分程の距離。
丁度、リハビリと腹ごなしのいい運動になる。

先日仕事中に負った傷によって、ギコは生死の境を彷徨う事になった。
運よく輸血用の機材が揃っていた事と、治療の心得を持った同僚がいたおかげで、今こうしていられる。
同伴した同僚達はギコよりも先に退院し、各々の職場――戦場、或いは紛争地域――に戻って行った。

(,,゚Д゚)「……ん?」

ミセリの家が近付いて来た辺りで、ギコは闇の向こう、家の前に一人の女性がいる事に気付いた。
扉に鍵を差し込んでいるようで、それを見たミセリが声を上げた。

ミセ*゚ー゚)リ「あっ…… おかーさん!!」

その声に、女性が振り向いてこちらを見た。

(゚、゚トソン「あら」

亜麻色の髪をアップにして後ろで束ね、その華奢な体をスーツが包んでおり、洗練された佇まいをしていた。
近付くにつれて見えてくる、その双眸は優しげな色をしていて、目尻は僅かに垂れ下っていた。
細い眉と長い睫毛、左目の下にある特徴的な泣きボクロ。
薄い化粧は持ち前の円熟した魅力を引き立て、やや陰ったその表情は媚薬の様だった。

ミセ*゚ー゚)リ「お母さん、今帰り?」

(゚、゚トソン「えぇ、少し仕事が遅くなっちゃって……
    そちらの方は?」

まさか、つい先日会ったばかりで互いの事をよく知りませんが、とりあえず家まで送っているのですと言う訳にもいかない。
何と言えばいいのだろうかと思案して、とりあえず、名乗る事にした。

(,,゚Д゚)「ギコ・カスケードレンジと言います」

(゚、゚トソン「ギコ……あぁ、〝あの〟ギコさんですか。
    新聞では、ランボー、でしたけどね。
    毎日のように、娘が貴方の事を話していましたよ。
    娘を助けていただき、ありがとうございました」

(,,゚Д゚)「いえ、ただの成り行きです」

ほんの僅かに、ミセリの母親は口元を緩めた。
控えめながら、人の心を惹きつけて止まない雅やかな笑みだった。

(゚、゚トソン「いずれにしても、娘が助けていただいた事に変わりはありませんから。
    ひょっとして、送ってもらったの、ミセリ?」

ミセ*゚ー゚)リ「うん!!」

(゚、゚トソン「……重ね重ね、ありがとうございます」

(;,,゚Д゚)「いえ、本当に気にしないでください」

(゚、゚トソン「あの……もしよろしければ、この後時間は空いていますか?」

(,,゚Д゚)「あぁ……空いていると言えばそうなのですが……」

(゚、゚トソン「?」

小首を傾げるその仕草は、雀のそれに似ていた。
表情の移り変わりが少ないだけに、その何気ない仕草は魅力的だった。

(,,゚Д゚)「実は今、知人がテレビに出演していまして」

(゚、゚トソン「なら、ウチでご覧になって下さい。
    大した事は出来ませんが、是非お礼をさせて下さい」

(;,,゚Д゚)「ですが、若い女性の家に自分の様な無骨な人間を招くのは、あまりお勧めしないといいますか――」

どうにも、相手の物腰が柔らかすぎて、ギコはやりにくかった。
長い傭兵生活の名残から、ギコは年上の女性との関わり方を知らず、経験知は嘗ての恋人ぐらいしかなかった。
実に情けないと、ギコは自分を叱咤した。
しかし、ミセリの母親は嗤う事はなく、態度一つ変えることなく応対した。

(゚、゚トソン「ギコさん、もしもギコさんがその様な気持ちを持っていたら、ミセリは貴方に懐きませんよ。
    どうかお願いします」

(;,,゚Д゚)「む、むぅ……」

射抜くような眼差し。
目を逸らせない。

(゚、゚トソン「……ギコさん」

名を呼ぶその一声は、卑怯の一言に尽きた。

(;,,゚Д゚)「わ、分かりました……」

母は強し。
ギコはその言葉の正しさを、身をもって理解する事となる。

oミセ*゚д゚)リo「ひゃふうう!!」

奇声を発して喜ぶミセリに手を引かれ、ギコはミセリの家に足を踏み入れる事となった。
夜空に浮かぶ大きな白銀の月が、ギコの背を見て笑っている様な気がしたのであった。

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上品な味のする紅茶を振る舞った母親の名前は、トソン・ウォーマックと云った。
スーツから部屋着に着替えたその姿は、なるほど確かに、一児の母らしく逞しかった。
テレビに映った大統領候補者達の姿を見ながら、三人は手作りのクッキーを食していた。

(,,゚Д゚)「このクッキー、美味いですね」

素直な感想を述べると、トソンは控えめながらも誇らしげな笑みを浮かべた。

(゚、゚トソン「良かったわね、ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「うん!!」

仲の良い親子であった。
どこか羨望の眼差しで二人を見ていたギコは、視線をテレビに移した。
話題は、サマリー沖で起こった海賊に関する事件についてだった。

( ´_ゝ`)『なるほど確かに、海賊は許されざる行為です。
     ですが、だからと言って、武力で叩き潰しても意味はありません。
     根本から解決をしなければ、何の意味も――』

ノリ, ゚ー゚)li『現に被害が出ているのなら、それ相応の報復が必要です。
      ではお尋ねしますが、根本的な解決方法は何かあるのでしょうか?』

( ´_ゝ`)『そもそもの原因は、貧困にあります。
     それを解決しない事には、海賊行為は無くなりません』

ノリ, ゚ー゚)li『我が国がサマリーにどれだけの援助をしているか、ご存じないとは言いませんよね?』

( ´_ゝ`)『更に言わせていただけば、貧困の原因が現在の無政府状態。
     もとい、現体制が導いていることぐらいは、高名な大学を出たジャンヌさんならご存知の筈。
     金や食料を送るよりも、自力で立ち上がる努力をさせなければ、サマリーの復興はあり得ません』

反論しようとしたジャンヌよりも先に、アニジャの弁がそれを遮る。

( ´_ゝ`)『加えて尋ねますが、そうなるに至った経緯に、我が国と国連が関わっている事を知らないとは言いますまい?』

ノリ, ゚ー゚)li『知っています。
      ですが、それが海賊行為に対する罰の話しとはなんら結びつきません。
      詭弁を弄して話題を変えるのが得意でしたかな、アニジャ副大統領?』

( ´_ゝ`)『無論、海賊行為は許されざる行為で、然るべき対処は必要です。
     しかし、元はと言えば、我が国は海賊発生の原因の片棒を担いだ身。
     その身にありながら発生した物事に対する責任から逃れ、あまつさえ、叩き潰すなどと豪語するとは、卑怯を通り越し、悪辣の一言に尽きます。
     責任を負うべきなのです、我が合衆国も、国連も。

     責任を認め、その上で、海賊への対処を検討すべきではないでしょうか』

ノリ, ゚ー゚)li『責任なら取っているではありませんか。
      毎年、機関を通じて多額の支援をしています。
      ですが、彼等は変わりませんでした。
      その結果が、この海賊行為なのです。

      抑止として、海兵隊を派遣する事も、私は考えています」

アニジャとジャンヌ。
二人の最大の違いは、その信条と支持層だった。
ジャンヌは富裕層、一般人、現職の軍人と教会の支持を得ていて、当選する確率は非常に濃厚だった。
一方のアニジャは、退役軍人や識者の層から多大な支持を得ていたが、ジャンヌには及ばなかった。

武力による制裁を厭わず、世界中の手とリストを力で押さえ付けようとするジャンヌ。
彼女の掲げる政策はアーリジュ国民に幅広く受け入れられ、支持されていた。
対してアニジャと言えば、武力を最後の手段と考え、あくまでも交渉や支援による変革を求めていた。
国民には支持されない代わりに、世界のパワーバランスの在り方を承知している人間には、認められていた。

このテレビ出演は、両者の票数を大きく変動させ得る、非常に重要な機会だ。
ジャンヌにとっては勝利を確固たるものにする為に。
アニジャにとっては、逆転の為に。

( ´_ゝ`)『それはそうでしょう。
     赤ん坊に経済学に関する退屈極まりない本――先月貴女が出版したような――を与え、学ばせる様な物。
     サマリーは元より、貧困国には絶対的に教養が足りていないのです。
     多額の支援、今、そうおっしゃいましたな?』

ノリ, ゚ー゚)li『え、えぇ』

( ´_ゝ`)『その多額の支援の幾らが、機関の取り分となるのですかな?
     そしてその支援金の内、一体幾らが皆様から募った金であるか、勿論ご存じの上での発言でしょうな。
     多額の支援をしているのは機関ではなく、一般の方々。
     嘘の中に一つまみの真実を。

     詐欺師の心得でしたかな、ジャンヌどの?』

皮肉の応酬に、会場からアニジャに対してブーイングが向けられる。
しかしアニジャはそれを涼しい顔で受け、にこやかな笑みを浮かべる余裕さえ見せた。

( ´_ゝ`)『サマリーの現状を存じないのに、サマリーの事を語るとは、実に愚かしいですな。
     合衆国とサマリーの事を想うのなら、誤魔化さずに、受け入れる事も大切ではないでしょうか?
     ニュークの事さえも知らない貴女がこの国を背負うなど、とてもではないですが、私には想像できません。
     そう言えば貴女は、中東の、取り分け利権の関わる国だけで、アジア諸国の貧困国については一切言及されていませんな。

     ここで宣言しておきますが、私はそう云った行為を止めさせるためにこそ、軍隊を動かすべきであると考えます。
     石油やマリファナを護るのが軍隊ではありません。
     我が誇り高き合衆国の兵士たちは、本来そう云う物なのです』

自信たっぷりの声に、ジャンヌと観客は同時に言葉を失った。
爆発する様なブーイングが入った後、遮断するかのようにコマーシャルが流れ始めた。

(゚、゚トソン「……副大統領、少し雰囲気が変わりましたね」

ぽつりと、トソンが呟く。

(゚、゚トソン「前は皮肉を言わない、慎重な行動をされる方だったのに。
     何かあったんでしょうかね」

(,,゚Д゚)「皮肉と云うよりかは……まぁ、一つの事実ですからね。
    成長したと捉える方が正解かと」

ギコの言っていた知り合いとは、言わずもがな、アニジャに他ならない。

(゚、゚トソン「そう言えば、ギコさんの知り合いの方と云うのは?」

(,,゚Д゚)「……どうやら、出番は終わってしまったようで」

流石に、副大統領が知り合いだとは言えず、ギコは紅茶を飲んで誤魔化した。
ナッツが入った食感の良いクッキーと紅茶は、相性が良かった。
退屈そうに討論を見ていたミセリが、ギコに目を向けた。

ミセ*゚ー゚)リ「ギコさんはどっちを応援するんですか?」

(,,゚Д゚)「……多分、アニジャだろうな」

(゚、゚トソン「理由を訊いても?」

政治に興味があるのだろうか、トソンが尋ねた。

(,,゚Д゚)「少なくとも、ジャンヌに比べたらまともに思えるからです。
   まぁ、どうなるかは分かりませんが」

コマーシャルが開けると、いよいよ、本番。
演説が始まった。
この演説はあくまでもテレビ用の物だが、事実上、これは本物の演説と変わりなかった。
先手は、ジャンヌからだった。

ノリ, ゚ー゚)li『皆さんにお尋ねします。
      正義を信じますか? 愛を信じますか?
      私は信じています、それがとても尊い物であると。
      しかし今、世界は正義を見失い、愛に飢えています。

      何故でしょうか? 争いがあるからです。
      世界から争いが絶えなければ、正義も愛も、永遠に失われてしまいます。
      悪しき思想を持った人間によって、貧困国で子供が飢えています。
      中東では無垢な市民が殺され、人々が嘆いています。

      私達は何をすべきでしょうか?
      声をかけるだけ、見守るだけでしょうか?
      いいえ、違います。 私達は、手を差し伸べる必要があるのです。
      世界中、どの国に対しても、平等に愛の手を差し伸べるのです。

      争いを絶つ為なら、私はどの様な痛みにも耐えましょう。
      世界が平和になるのなら、進んで最前線に向かいましょう。
      例えこの身が朽ち果てようとも、私の意志は、そこに残るからです。
      今、世界は私達の手を求めています。

      私達が、世界を変えるのです!!
      私達が、世界を救うのです!!
      私達が、悪を根絶やしにするのです!!
      私達が、やるのです!!

      我が合衆国が!!
      歴史上初めて、世界に平和をもたらします!!
      平和な世界を愛するのであれば、どうか、どうか!!
      どうか、私と共に世界を変えようではありませんか!!』

割れんばかりの拍手喝采。
完璧な口調。
完璧な声色。
完璧な間を開けた演説は、流石の一言に尽きた。

市民が好む言葉の使い方を心得ている。
非の打ちどころのない演説だった。
それから、ジャンヌの出生から現在に至るまでのドキュメンタリーが流れ始めた。

(,,゚Д゚)「……スズ」

カップの底に残っていた紅茶を飲み干し、ギコは満足げな溜息を吐いた。
ふと、トソンがギコを見つめているのに気が付いた。

(゚、゚トソン「…………」

(,,゚Д゚)「あの、……何か?」

(゚、゚トソン「ギコさんは、今、何かお仕事をされているんですか?」

(,,゚Д゚)「……いえ、無職……その……ニートと云う奴です」

自分で言っておいて、ギコは悲しくなった。
煉瓦でもあれば殴り壊せるほどに、自分が情けなかった。

(゚、゚トソン「以前は何を?」

(,,゚Д゚)「……」

正直に答えるべきか、ギコは逡巡する。
しかし、隠しておいてもいずれ分かる事だと割り切り、正直に答えた。

(,,゚Д゚)「傭兵です」

(゚、゚トソン「……道理で」

(,,゚Д゚)「?」

(゚、゚トソン「強盗を撃退出来た理由が、今やっと分かりました」

ミセ*゚ー゚)リ「傭兵? 兵隊と何が違うんですか?」

どうやら、ミセリは傭兵を知らないらしい。
確かに、軍隊と傭兵の違いは学校では習えない。

(,,゚Д゚)「傭兵って云うのは、金で雇われた兵隊だ」

ミセ*゚ー゚)リ「すげぇ!! ハリウッドみたい!!」

目を輝かせるミセリに、ギコは少々きつい口調で言った。

(,,゚Д゚)「ハリウッドみたいに、良い事は一つもない。
    結局は、殺し、殺される仕事なんだ。
    ロクでもない、どうしようもない人間の集まりだ」

(゚、゚トソン「……もしよろしければ、お話を聞かせてもらえませんか?
    私は、いえ、私達は、あまりにも戦争に関して無知ですので」

(,,゚Д゚)「はい?」

(゚、゚トソン「…………」

(;,,゚Д゚)「……え」

無言の圧力。
成程。
この状況、ギコにとって圧倒的に不利だった。
何せここはトソンの家。

ならば、客人として招かれたギコには、幾らか自分自身について説明する義務がある。
自分に関する情報は殆ど伝えていない――三回しか会った事が無い――のだから、向こうからしたら、こちらを知りたいのだろう。

(;,,゚Д゚)「…………」

テレビから流れるジャンヌの輝かしい栄光の歴史が、雑音に聞こえる。
ここで教えるのは簡単だ。
語ればいいだけなのだから。
しかし、それは後ろめたい過去を語る事になる。

(;,,゚Д゚)「む…………ぅ……」

果たして、自分は語るべきなのだろうか。
戦争の歴史を、殺しの歴史を。

(゚、゚トソン「お願いします、ギコさん」

どうしてか、トソンの瞳の奥に、ギコは好奇心とは全く異なる感情を見た様な気がした。
義務感や、使命感にも似たそれに我知らず魅了され、ギコは瞼を下ろした。
ゆっくりと、ギコは瞼を開き、改めて、トソンの瞳を見た。

(゚、゚トソン「…………」

(,,゚Д゚)「…………」

揺るぎのない、真っ直ぐな視線。
何が彼女をここまで動かすのか、ギコには分からない。
しかし、伝える事は出来る。
見て、体験し、感じた事を。

(,,゚Д゚)「……分かりました」

――観念した風にギコは口を開いて、自らが体験した戦争を語り始めた。

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四月だというのに、リルベリア共和国はニュークの真夏よりも暑かった。
救いは湿度が低い事と、空が綺麗な事。
それ以外は、何一つとして良い点が無かった。
額に浮かんだ汗を拭い、ギコはダイヤモンドの採掘所を見た。

色黒い肌の人間が大勢、川べりで黙々と作業に従事している様は異様の一言に尽きる。
しかし、それも一週間もすれば見慣れた光景だ。
レッドリング・マーセル傭兵派遣会社によって作業員の安全確保を任されたギコと、もう一人の傭兵。
フサ・トロントは定期報告以外、丸一日会話を交わさない事さえあったが、特別不仲と言う訳ではなかった。

三日前の夜遅くに遅れて合流したフサは不機嫌さを露わにしており、触れない方がいいのだとギコは判断していた。
ミニミ軽機関銃を何度も持ち直し、フサは鬱蒼とした茂みに目を向けていた。
この時、主な警備に当たっていたのは現地の民兵で、ギコ達はその補佐を任されていた。
採掘されたダイヤモンドの利権を握る、アーリジュの最大手の宝石業の依頼だった。

ギコ達は口にしなかったが、内戦が長期化するそもそもの原因は、その宝石業者にあった。
安い値段で大量のダイヤモンドが手に入る事に目を付け、対立する部族を煽り、武器や道具を供給する代わりにダイヤを手に入れた。
血濡れのダイヤモンドと云う言葉は、この時はまだ、世界に広まっていなかった。
依頼人が誰であれ、ギコ達は与えられた仕事を果たすだけだった。

(,,゚Д゚)「…………」

ミ,,゚Д゚彡「…………」

背後で怒号と悲鳴が聞こえても、二人は振り向かなかった。
どこの村から駆り出されたのかは知らないが、不運だとは思う。
しかし、自分には無関係だ。
ルメルニア製のカラシニコフの銃把を握る手が、汗ばむ。

カーキ色のブッシュハットにはきっと、白く塩が吹いている事だろう。
肌に張り付くシャツが不快だった。
一刻も早く、シャワーを浴びたい衝動に駆られるが、今は仕事中。
兎に角、日没までの辛抱だった。

ミ,,゚Д゚彡「…………」

何か気になる事でもあるかのように、フサは時折、背中の方に視線を向けている。

(,,゚Д゚)「何かあったのか?」

ミ,,゚Д゚彡「……あ、いえ、別に」

そうして、口を閉ざすフサではあったが、一分もしない内にまた、後ろを見ていた。
気になったギコは、その視線の先を追って、ようやく、理解した。

゜゚o(´、` )″

ただ一人。
小さな子供が、そこにはいた。
歳は十になって間もないだろうか、まだ顔はあどけなく、体は小さい。
大人に混じってダイヤを探す姿は、遠目に見れば川遊びをしている様にも見えるが、疲弊しきった顔には憂いの色しかない。

目は濁っていて、機械の様に黙々と動いている姿からは、悲壮感が漂ってくる。

゜゚廿o(´、` )″

゜゚o(´、` )″

ミ,,゚Д゚彡「…………」

――結局、陽が落ちて作業が終わりになるまで、フサはその少年を気にし続けていた。

二人にあてがわれたテントは、川から山に少し入った所にある本陣の傍にあり、食欲をそそる香りが満ちていた。
無口な二人にとっての楽しみは、食事ぐらいしかなかった。
その日の担当はギコで、乾燥パスタとトマトの缶詰を使ったミートソーススパゲティだった。
作っている途中で、フサが珍しく――これが、三日ぶりに交わされたまともな会話――食事にリクエストをした。

肉が欲しいとの要望を取り入れ、コーンビーフの缶を開け、軽く炒めたそれとマヨネーズ、そしてマスタードを和えた。
これだけでも、結構美味い物なのだ。
コツはマスタードを多めに入れる事。
しかし、食事を始めても、フサはそれを一口食べて満足そうに頷いただけで、それ以上は食べようとしなかった。

食事を終えたフサは、ミニミを担ぎ、自分の鞄を漁り始めた。

(,,゚Д゚)「…………」

ミ,,゚Д゚彡「…………」

何かが入った袋を取り出し、先程のコーンビーフを盛った皿を持って、テントの外に出て行った。
流石に気になったギコはカラシニコフを手に、フサを追ってテントを出た。
ライトはなくとも、涼しげな月光が地面を照らしている為、何かに躓く事はない。
フサが向かったのは、労働を強いられている人間が寝泊りをしている、高い柵に囲まれたプレハブ小屋だった。

有刺鉄線が月明かりに反射し、怪しげに輝いている。
建物の隙間から洩れる光はあれど、談話の声は聞こえない。
死んだように、静まり返っている。
脱走を企てない様に、プレハブ小屋の付近には常にカラシニコフを持った民兵が警戒している。

鉄柵に囲まれた異様な村。
その唯一の入口には、三人の兵士が立っていた。
単身で訪れたフサの姿を見咎め、一瞬警戒心を剥き出しにするが、同僚である事を確認すると、直ぐに警戒を解いた。
二言三言交わし、フサは中に入った。

フサがあるプレハブ小屋に向かっているのを見咎め、ギコも鉄柵の中に向かった。

(,,゚Д゚)「同僚が来ただろ?」

Θ「えぇ、貴方も?」

スカーフで顔を覆った民兵が、気さくに声をかける。

(,,゚Д゚)「俺は友達が少ないんだ」

Θ「Oh……」

何故か悲しそうな顔をされ、中に通された。
ギコはフサの目的に対して、ある種の予想をしていた。
フサが入ったプレハブ小屋に入ると、予想は正しかった事が証明された。

ミ;,,゚Д゚彡「げっ……!! た、隊長?!」

Φ(´、`;)そ

ギコの作ったコーンビーフの和え物を、昼に見た少年が食べている最中だった。

(,,゚Д゚)「……成程な」

ミ;,,゚Д゚彡「あ、あの……こ、これは……!!」

o(´、` )″ウマウマ

ミ;,,゚Д゚彡「あぁっ、こら、リド……!!」

o(´、` )″??

(,,゚Д゚)「リドって名前なのか」

o(´、` )″コクコク

ミ;,,゚Д゚彡「ちょっ……!!」

フサはリドと呼ばれた少年とギコとを交互に見やり、慌てふためいていた。

(,,゚Д゚)「美味いか?」

o(´、` )″コク

(,,゚Д゚)「それな、俺が作ったんだ」

o(´、` )″クモクモ

ミ;,,゚Д゚彡「だぁっ、食う前にせめて何か言えよ、リド!!」

o(´、` )″……?

リドは少し考えたが、食事に戻った。
頭を抱えて狼狽するフサの肩を、ギコは軽く叩いた。

(,,゚Д゚)「なるほどな」

ミ;,,゚Д゚彡「あ、いや、これは違くて……!!」

(,,゚Д゚)「何で焦ってるんだ?」

ミ;,,゚Д゚彡「……な、何でって……そりゃあ……」

(,,゚Д゚)「俺が怒ってるように見えるか?」

ミ,,゚Д゚彡「い、いえ……」

(,,゚Д゚)「ならいいだろ」

o(´、` )″モグモグ

ミ,,゚Д゚彡「……自分はてっきり、そう云うのを咎められるのではないかと思って……」

(,,゚Д゚)「まぁ、おススメはしないな」

この大陸には、リドの様な境遇の子供がごまんといる。
特別な事ではない。
これもまた、一つの日常風景なのだ。
変に思い入れを持つと、後で辛い思いをするだけとなる。

ミ,,゚Д゚彡「知っていますよ、こうする事があまり良い事ではないぐらい。
     ……でも、これぐらいは、してもいいんじゃないかって、思うんです」

(,,゚Д゚)「俺が路頭に迷った時は頼むぞ」

冗談を言うと、フサの顔から緊張感が薄れて消えて行った。
今まで、お互いに誤解し合っていた様だと分かると、次にする事は決まっていた。

ミ,,゚Д゚彡「……改めて、よろしくお願いします、隊長」

(,,゚Д゚)「あぁ、よろしく頼むよ、フサ」

握手を交わすと、丁度、リドが食べ終えた食器をフサに渡そうとしていた。

o(´、` )″ドモドモ

ミ,,゚Д゚彡「リド、こう云う時はありがとう、って言うんだ」

o(´、` )″「あ……りが……と」

たどたどしく言ったリドの頭を、フサが豪快に撫でた。

ミ,,゚Д゚彡「よーしよし、いい子だ。
     そんなリドには、これをやろう」

床に置いていた袋から、板のチョコレートを取り出し、リドに与えた。

o(´、`*)″パァッ

満面の笑みで、リドはそれを受け取り、大事そうに抱えた。
純真な子供の笑みに二人の傭兵が癒された、その時。
ギコのうなじが総毛立ち、空気が変質した事を感じ取った。

(,,゚Д゚)「……フサ、嫌な予感がする」

ミ,,゚Д゚彡「……えぇ、自分もです」

二人揃ってプレハブ小屋を出て、最初に耳にしたのは風の音ではなく、銃声だった。
静まり返っていた夜の山に木霊する、連続した銃声が意味するもの。

ミ;,,゚Д゚彡「夜襲?!」

身を低くして、プレハブ小屋を背にして戦っている民兵の方に向かう。
応戦しようにも、敵の位置が分かっていないようで、適当に弾をばら撒いているだけだ。

Θ「あんたらか!! 早いとこ、あいつらをぶっ殺してくれ!!」

(,,゚Д゚)「位置は?」

Θ「分からない!!」

なら殺しようがない。
弾はどこからどこに向けて飛んでいるのか、把握する必要があった。
マズルフラッシュを探すが、銃声だけが不気味に響いているだけで、何も見えない。
だが少なくとも、対角線上にいるとは思えなかった。

こちらの姿が、相手には見えていないのだろうか。
プレハブ小屋の壁なら、カラシニコフで十分に撃ち抜ける。
それでも、一発の銃弾も飛んで来ていない。
相手も盲撃ちをしている可能性があったが、果たして、その目的は何であろうか。

(,,゚Д゚)「いいか、撃ち返すな。
   こっちの位置を相手に教える様なもんだ」

Θ「ならどうする?! 俺達、今、撃たれてる!!」

(,,゚Д゚)「だが弾が飛んで来ていない」

Θ「……なら、向こうのほう見て来てくれ」

山の奥の方。
撃ってくるのであれば、その方向と考えるのが妥当だ。
現に、ギコ達が背にしているプレハブ小屋は山に面している。
しかし、そこに行く事は自殺行為だ。

夜の森に不十分な装備で行くなど、正気の沙汰ではない。

(,,゚Д゚)「陽動の可能性がある。
    下手に動かない方がいい」

Θ「俺はこんな所にいられるか!! 俺は山に行くぞ!!」

(,,゚Д゚)「なら、尻は手前で守れ」

勇み足でプレハブ小屋の影から身を出して、男が山に向かって走り出す。
その後に続いて、男達が山を目指す。

(,,゚Д゚)「本当に行きやがったな」

銃声はまだ響いている。
だがやはり、弾は飛んでこない。

(;,,゚Д゚)「っ……!!」

その理由に気が付いた時、ギコの背に戦慄が走った。

(;,,゚Д゚)「残っている奴はいるか?!」

その声に応じたのは、僅かに三人。
入口の警備を任されていた、ただそれだけの人数。

ΘΘΘ『どうしーた?!』

(;,,゚Д゚)「ここに一人残って、後は……!!
    …………いや、全員ここに残って、本陣に連絡をしろ!!」

そう言って、ギコはフサを連れて反対側に向かった。
山の中で反響する銃声はその位置の特定と、種類の判別が困難を極める。
つまりそれは、銃声の真偽を聞き分けるのも同じぐらいかそれ以上難しい事を意味していた。
銃声が予め録音して置いたものを大音量で流しているだけだとしたら、狙いは、そこに相手を釘づけにする事。

鉄柵に囲まれたこの村を襲う目的は二つ、考えられる。
ダイヤの奪取。
それと――

(,,゚Д゚)「動くな!!」

「っ!?」

――仲間の奪還。

ミ,,゚Д゚彡「大人しく宿舎に戻れ!!」

ミニミを肩付けに構えるフサの怒声は、今正に逃げようとしていた村人たちの足を鈍らせた。
フサは距離を開けつつも、視線だけを動かして村人が変な気を起こさない様に牽制する。
ギコもカラシニコフを構え、村人に再度警告する。

(,,゚Д゚)「殺されたくないのなら、宿舎に戻るんだ!!」

村人達は、少しずつ後ずさり、逃げようとする。
ギコとフサは追い立てるように、距離を保ち続ける。
ここで一発でも撃てば、彼等は混乱し、恐慌し、一斉に逃げ出す。
今はギリギリの地点でそれが守られており、一触即発の状態にあった。

二人はそれを理解している為に、撃つに撃てなかった。
脱走の計画はひょっとしたら無かったのかもしれない。
偶然に便乗して動いているだけだったかもしれない。
だがこの時は、銃を構えて怒鳴るしかなかった。

暗闇の中浮かび上がる彼等の白目は、獣の様に剣呑に映った。
ギコはカラシニコフを構えながら、もう片方の手でベレッタをホルスターから抜いた。
これで二挺。
銃口は都合三つ。

相手は50人近くいる。
抑え込むのは無理に等しい。
だが仕事を放棄するわけにはいかない。

ミ,,゚Д゚彡「ほら、さっさと――」

突如、フサが膝を突いて倒れた。
偽りに紛れた本物の銃声。
それを契機に、村人達はフェンスに向かう。
一瞬で状況を判断したギコはフサの襟首を掴んで、プレハブ小屋に避難した。

油断していた。
森の中でラジカセを流すと言う事は、そこに人がいると云う事。
なら、狙撃手がいてもなんら不思議ではない。
となれば、森に向かった民兵達の生還は望み薄だった。

ミ;,,゚Д゚彡「くそっ、くそっ!!」

銃創は二か所あった。
右脹脛と、運んでいる途中に撃たれたと思わしき左肩。
足の弾は肉を抉るだけで済んでいたが、肩は貫通していた。

(,,゚Д゚)「慌てるな。 美女に噛まれたと思え」

ミ;,,゚Д゚彡「くそっ……顔を見損なっちまいました……!!」

冗談が言えるなら、まだ大丈夫だろう。
しかし、問題があった。
医療器具は、ここにはない。
一旦、ギコ達の使っているテントに戻る必要があった。

しかし、ここにフサを一人置き去りには出来ない。
プレハブ小屋の外にはこちらに恨みを持つ村人が大勢いる。
だが手当てをしなければ、フサは死んでしまう。
火薬とライターはある為、消毒と傷口を塞ぐ事は出来る。

それでも、左肩の傷は放置しておけない。
一刻も早く病院に連れて行かなければ、フサが危険だった。

(,,゚Д゚)「フサ、悪いが、脚はウェルダンにさせてもらうぞ」

ナイフを抜いて、天井からつり下がっていたランタンで刃を炙る。

ミ;,,゚Д゚彡「優しくお願いしますよ、隊長」

(,,゚Д゚)「善処する」

赤くなったナイフを、足の傷に押し当てた。

ミ;,,゚Д゚彡「があああああっ!!」

野太い悲鳴が小屋の天井を振るわせた。
傷口からナイフを離し、再び熱し、押し付ける。
何度か繰り返す内、傷口は焼き塞がれ、出血は止まったが、最後の問題は左肩だ。

ミ;,,゚Д゚彡「おおっ……!!」

(,,゚Д゚)「ステーキの気持ちが分かったか?」

服とベルトを使って止血を行うが、直ぐに血が滲んでくる。
手で強く押さえ、出血を少しでも止めようとする。

ミ;,,゚Д゚彡「嫌って程に……!!」

外には狙撃手、敵意を持った村人。
本陣に怪我人がいる事を伝え、救護班を寄越させる必要があった。
だが、どうやって伝えに行けばいいのか、ギコには思い浮かばなかった。
その時、小屋の扉が開かれ、ギコは反射的にベレッタをそちらに向けた。

o(´、`;)″

リドがいた。
銃口に怯えていたが、ギコは銃口を逸らさない。

(,,゚Д゚)「どうした、リド?」

o(´、` )″「声……聞こえた……」

(,,゚Д゚)「……それで?」

血を流して倒れているフサを見て、リドは言った。

o(´、` )″「困って……る?」

(,,゚Д゚)「見ての通りだ」

o(´、` )″「うん……」

(,,゚Д゚)「…………」

o(´、` )″

(,,゚Д゚)「……入口にいる奴等に、伝言を頼めるか?」

o(´、` )″「でん……ごん?
       うん……いい……よ」

(,,゚Д゚)「一人撃たれた。目的は脱走。救護班を寄越せと連絡するように言ってくれ」

o(´、` )″「……うん」

(,,゚Д゚)「これを持って行け。振りながら、ゆっくりと近づくんだぞ」

白いハンカチを受け取り、リドは頷いて、その場を走り去った。
ギコは止血を再開した。

ミ,,゚Д゚彡「……大丈夫ですかね」

あのまま走って村人達にギコ達の於かれた状況を喋られれば、喜んで殺しに来るだろう。
一か八かの賭けだったが、こうする他、手段はなかった。

(,,゚Д゚)「さぁな……
    だが、もしリドが裏切ったとしても、俺はお前を見捨てないから、安心しろ」

ミ;,,゚Д゚彡「ありがてぇ……
     女だったら惚れちまいそうですよ」

(,,゚Д゚)「悪いがお断りだ」

直ぐ近くから本物の銃声と悲鳴が聞こえ始めたのは、五分ほどしてからの事だった。
もともと、本営とここはそこまで離れていない。
ようやく到着した応援に、ギコもフサも安堵した。
医療班はフサを担架に乗せてピックアップトラックの荷台に乗せ、陣地に急いで戻った。

プレハブ小屋の外に出ると、そこは火薬と血の匂いが蔓延していた。
見れば、フェンスを越えられなかった村人達が死屍累々としていた。
民兵はまだ息のある者達を撃ち殺し、銃剣を突き刺し、死体を蹴りつけていた。

(,,゚Д゚)「あの子供は?」

Θ「子供? あぁ、あそこだ」

指さす先。
そこには、〝ボロ切れの様な物体〟が転がっているだけだった。
微かに上下していることから、それが生きているのだとようやく分かる。
変わり果てた、リドの姿。

(,, Д )「……何を……何をしたんだ」

声が怒りで震えていた。

Θ「何って、逃げようとしたから……」

その首を掴み、ギコは男を持ち上げた。
苦しそうに喘ぎ、地面から離れた足をバタバタとさせる男に、ギコは冷たい視線をくれてやる。

(,,゚Д゚)「縊り殺されたくなければ、あの子供に治療を受けさせろ」

Θ「……ぎっ……ぐ……!?」

頸椎を握り潰さんばかりに力を込めると、男の抵抗が弱まった。

(,,゚Д゚)「分かったな、今すぐに、だ」

手を離すと、男は背中を地面にしたたかにぶつけ、泣きそうな声で咳き込み始めた。
その腹を蹴り飛ばし、ギコは再度言い放つ。

(,,゚Д゚)「今すぐ、丁重に運べ」

ベレッタを向けると、男は転びそうになりながら立ち上がり、リドを抱き上げてピックアップトラックに乗せ、逃げるように去った。
残ったギコは、民兵達と共に穴を掘りって死体を埋めることになった。
まだほんの少し息のある人間もいたが、ギコは無言でそれらを穴に放り入れ、土を被せた。
墓石も墓標もないが、埋めてもらえるだけ幸せと云う物だと、民兵達は口を揃えて言った。

結局、奇襲をしてきた人間は逃げおおせ、目的は分からずじまいだった。
残されたラジカセが新しいことから、ライバルの宝石業者の工作だろうと予想されたが、決定的な証拠は見つからなかった。
治療を受ける事が出来たリドは、だがしかし、日の出を拝むことなく、息を引き取った。
内臓破裂、肋骨の粉砕骨折、折れた骨が肺を傷つけていた事等が重なり、手に負える状態ではなかったという。

それでも、二人はリドの死体を綺麗に拭いてやり、葬る事にした。
ガソリンを掛けて火葬にする際、その亡骸にチョコレートを握らせた。
そうして、フサとギコに見守られる中、リドは灰になって空と大地に消えた。
次の日、新しい村人達が連れて来られ、ダイヤモンドを探し始めた。

そこに、子供はいなかった。
しかし、空だけは憎たらしい程に綺麗だった。

←――――――――Chapter 01 - Fin――――

リルベリアの経験を語り終えると、ミセリは目に薄らと涙を浮かべ、トソンは唇を真一文に結んでいた。
重い空気が流れていた。
煌びやかなダイヤモンドの背景には、大企業の利益が関わっている。
それは、今でも消えていない。

紛争が長期化すればするだけ、武器が必要になる。
武器を手に入れるには、金が必要だ。
そこで登場するのが、高価なダイヤモンドだ。
必ずしも、全てのダイヤモンドが血に濡れていると言う訳ではない。

あくまでもこれは一部の話。
そう付け加えて、ギコは話を締めくくった。

(゚、゚トソン「……それは」

重い口を、トソンが開く。

(゚、゚トソン「それは、今も続いているのですか?」

(,,゚Д゚)「一応、リルベリアの内戦は終わった事になっていますが、世界からこの問題は消えていませんよ。
   ダイヤモンドが求められる限り、この内戦は永遠に続くでしょうね。
   リドはまだ幸せだったのかもしれません」

(゚、゚トソン「どうしてですか?」

(,,゚Д゚)「少年兵はもっと惨たらしい人生を過ごすからですよ」

その惨たらしさを象徴する話もあった。
ビエルマの山奥で今尚続いている部族間紛争には、多くの少年兵が動いている。
死にたくない為に同じ村の人間を犯し、殺す事を強要され、立派な兵士として仕立て上げられる。
ツィーナ・D・テルソンと共に初めて仕事をしたのが、ビエルマでの事だった。

ただ、その話はリドの時よりも凄惨な物である為、ギコは口を噤む事にした。
村単位でどの様に殺されているのかを説明したら、きっと、この先肉が食べられなくなる。
皺くちゃになったよれよれの紙幣と細かな硬貨で依頼されたのは、虐殺行為を行われる前に、敵を殺す事だった。
敵のキャンプを襲い、ナイフで30人以上を殺し、捕えられていた女達を助けた。

三か月近く続いた作戦で、最終的に二人は200人以上の民兵を殺したが、虐殺はなくならなかった。
優秀なジャーナリストによって虐殺の真実は世界中に報道されたが、大国は動かなかった。
利益が見込めない上に、既に別の国が虐殺の背景にある地下資源の利益を我が物としていたので、軍隊を動かしはしなかった。
一方で、地下資源豊富な中東に対しては勇んで派兵し、無差別爆撃と新兵器の実験を行い、聖戦を口にしていた。

気まずい沈黙が訪れ、ギコはテレビの音に耳を傾けた。
未だ、ジャンヌのドキュメンタリーが流れていた。
中学校時代の正義感溢れる行動の数々を称える同級生。
その再現VTRを見る限り、ギコとは相容れない性格をしていた。

今し方終えた話との温度差が、却って気まずい空気を濃くした。
とはいえ、ギコは真実を話しただけで、意図的にこうなる様に仕向けた訳ではない。
二人はそれを理解してくれていると、ギコは何となくだが感じていた。
話していても、あまり気分の良い話ではない。

テレビは中学校時代にジャンヌが書いたと云う作文から、その正義感の強さを推し量り、評していた。
昔、ジャンヌに助けられたと語るニュット・ギングリッジと云う男性の口から紡がれる話は、嘘には聞こえない。

( ^ν^)『昔、俺がやんちゃだった頃、ジャンヌだけは俺を見捨てないで叱ってくれたんだ。
     だから、俺にとってのお袋みたいなもんさ』

次に話は、高校時代にジャンヌがフェンシングで輝かしい章の数々を手にした事と、やはり当時の人間性に関してのインタビューが続いた。
同級生の口から紡がれるジャンヌの人間像は、正に正義の味方。
アーリジュ合衆国の理想を体現した様な女性だった。
アーリジュ初の大統領は、やはり、理想の体現者であるべきだとの言葉が続く。

トソンが席を立ち、紅茶を淹れにキッチンに戻った。

ミセ*う-;)リ

(;,,゚Д゚)「……」

ギコは内心、困り果てた。
泣いている女性の扱い方と云う物を、知らなかったのである。
トソンがいた時はそちらに集中すればよかったが、ミセリと二人。
しかも、ミセリが泣いているという状況で、己がすべき行動が分からなかった。

とりあえず、何も言わずにミセリの頭を撫でる事にした。

(;,,゚Д゚)「……」

ミセ う-;)リ「うー」

刺激が強すぎる話をした事に、ギコは少し後悔した。
何か。
何か、別の話題を探さなければ、トソンが戻るまでの間、ギコは気まずいままだ。
すると、ジャンヌの輝かしい社会人時代の経験が、ギコを救った。

(,,゚Д゚)「お?」

それは、社会人時代にジャンヌがとある団体に属し、率先してある活動を行っていたと云う物だった。
社会で働く代わりにジャンヌが参加していた活動は、なるほど確かに、賢い物だった。

ミセ*う-゚)リ「?」

(,,゚Д゚)「ミセリは、この団体を知ってるか?」

涙を擦りながら、ミセリは小さく頷いた。
今や世界的に〝活躍〟しているその団体と、ギコは数回、争った事がある。
シェパード・マリン環境保護団体、通称SMだ。
世界中の金持ちが資金提供する事で活動している団体で、ここに所属していれば、ストレス発散がてらに給料をもらえる。

(,,゚Д゚)「実はな、俺はこの連中と……」

当時の映像が流れた瞬間、ギコは咳き込んだ。

(;,,゚Д゚)「なごっ?!」

誇らしげに胸を張って、高速艇マリン・ブルジョワ号に有名女優と共に乗り込むその姿。
紛れもなく、嘗てギコが船上で対峙した事のある人物だった。
覆面のデザイン、服のデザイン、目出し帽から覗く挑発的な瞳。
この格好をした人物に、ギコは覚えがあった。

ミセ*゚-゚)リ「ギコさん、教えてください」

今度はミセリにせがまれた。
その時の話なら、取り立ててミセリを動揺させる事はないと思い、ギコは語り始めた。

(;,,゚Д゚)「……俺は、このジャンヌと争った事がある」

――Go on to the next chapter――――――――――→

op05.jpg

その風変わりな依頼が舞い込んだのは、ニュークの街並みが白い化粧をし始めた、十一月の事だった。
依頼人に関する一切の情報は非公開。
依頼内容は武力行使を厭わない――ただし、殺傷はNG――大型船舶の護衛だった。
護衛対象に接近し、航行を妨害する船舶全てに対する先制攻撃が求められる仕事だった。

場所は南極海。
敵は高速艇を使い、薬物などによる攻撃を行ってくるとの注釈があった。
ギコ達は三人で船を動かし、その敵が護衛対象に接近するのを防ぐのが目的だった。
そこでギコの他に選出されたのは、ヒート・O・ワイルドと、シャキン・フェザーライトと云う、若い人間だった。

二人は、レッドリングに入社して初めての作戦と云う事で、丁度いい場馴らしの意味を込めてメンバーに加えられたのであった。
つまり、ギコは二人の保護者兼監督と云う立場だった。
二人共、短い間だが軍に属して戦闘を経験したと云う事で、ギコは気を遣う必要はなかった。

ノパ⊿゚)「……」

分厚い耐寒ダウンのファー付きフードを頭に被り、ヒートは白い息を吐いて、目の前に広がる海原を眺めていた。

(;`・ω・´)「……」

(,,゚Д゚)「……」

護衛対象を確認してから、数回無線でやり取りをして、離れた位置から見守るギコ達の船。
洋上迷彩を施された船は、依頼人が三人に貸し与えた物で、〝雪だるま号〟と云う名前を持っていた。

(,,゚Д゚)「顔でも書けばよかったな」

とギコが皮肉交じりに言うと。

ノパ⊿゚)「なら、鼻の代わりに大砲をつけましょうか」

と物騒な返答があって以降、会話は途絶えていた。
暖房を入れても船内は寒かった。
寒さか緊張からか、最年少のシャキンは震えていた。

(;`・ω・´)「……」

冷たい雨に打たれて震える仔犬の様な姿に、ギコは思わず声を掛けた。

(,,゚Д゚)「寒いのか?」

(;`・ω・´)「しゃ、しゃむいです……」

ノパー゚)「っ……」

(;`・ω・´)「へ?」

ノハ^⊿^)「ははははっ!! お前、面白いなぁ!!
     しゃむいって……しゃむいって!!」

(;`・ω・´)「そ、そうでしゅか?」

最早、シャキンの呂律は回っていない。
寒さのあまり、本人はまともに喋ろうとしてもそれが出来ないのだろう。

(,,゚Д゚)「お前は今日からシャキン坊やだ」

(;`・ω・´)「ちょっ……!!」

ノハ^ー^)「よぅ、子ウサギシャキン!!」

シャキンは顔を赤くして抗議するが、ヒートに頭をくしゃくしゃに撫でられ、完全に子供扱いされていた。
寒さで体が動かないのか、動かしたくないのか、シャキンは無抵抗だった。
案外、心地よかったのかもしれない。
後で話を聞いたところによれば、シャキンは一人っ子で、年上の女性に弱いらしかった。

シャキンの失態(?)のおかげで、船内に会話が戻った。
依然として寒かったが、会話に支障はない。
喋っていた方が体が温まる。

(,,゚Д゚)「二人共、どうして傭兵に?」

その問いに最初に応えたのは、シャキンだった。

(`・ω・´)「金が必要なんで、自分に出来るのなんてこれぐらいしか無くて……」

詳しい理由を尋ねなかったのは、人間だれしもが持っているテリトリーに足を踏み入れないと云う、ギコの配慮だった。
金が必要だから傭兵をやると云う人間を、ギコは大勢見て来た。

(,,゚Д゚)「確か、ガルマンの出身だっけか?
    山奥で漁師をやってたのか?」

(`・ω・´)「えぇ。祖父にはよく、ヴァシリー・ザイチェフを殺せるようになれ、と言われていました」

そして、次にヒートが口にした答えは、意外な物だった。

ノパ⊿゚)「スリルが味わいたいんですよ、私。
    これまで生きている実感が無くて、人形みたいな人生だったんです」

(,,゚Д゚)「人形?」

ノパ⊿゚)「ワイルド財団の一人娘ですから」

それだけで、大凡の事が想像出来た。
世界屈指の大財団の娘に父親がかける期待と、その為の教育。
面白い筈がない。
スリルがある筈がない。

生きていると云うよりも、生かされている様な人生。
それに自分で気付いて行動できただけ、ヒートは、父親よりも人間的に優れているかもしれないと、ギコは思った。

(,,゚Д゚)「そうか。だが、死に急ぐ事と、ルールに反する事はするなよ」

ノパー゚)「分かってますよ、隊長」

(`・ω・´)+「僕が守りま……」

ノパ⊿゚)「お前は私の背中を見て育つんだな」

(`;ω;´)「……はい」

シャキンが泣いているのを見て、ギコは思い出した。

(,,゚Д゚)「依頼人から追加の伝言がある。
    徹底的に叩いてくれて構わない、ただし、環境には配慮する事、だとさ」

と言っても、持って来たのは殆ど非殺傷の武器だけだ。
それでも、強力な武器に変わりはないのだが。
特に、箱一杯の催涙ガスと音響閃光弾は一発で戦意を喪失させるだけの威力がある。
使った分だけ請求書が通るとのことで、スカルチノフ・マクスウェルは嬉々として在庫のそれらをギコ達に委ねていた。

三人は共通した思いを、その顔の下に浮かべ、その瞬間が訪れるのを心待ちにしていた。
早く、敵が現れないものかと、彼等は切望していた。
一時間後、正午を過ぎたあたりでそれに最初に気が付いたのは、優れた視力を持つシャキンだった。
双眼鏡も無しに、遥か彼方後方を指さして言った。

(`・ω・´)「……黒いのが来ますね、結構な速度で」

ギコとヒートも、期待のこもった視線をそちらに向けるが、何も見えない。
レーダーを見ると、確かに、微弱な反応の小さな影が二つ映っている。
ただちにギコは、護衛対象に無線で知らせ、指示を仰いだ。
まずは目視で相手の特徴を捉えてから、再度連絡する様に言われた。

(`・ω・´)「ちょっと見てみます」

そう言ってシャキンが取り出したのは、レミントン・ボルトアクションライフルだった。
光学照準器を覗きこんで、シャキンが情報を伝える。

(`・ω・´)「甲板に……黒い髑髏の旗が掲げてあります、
      〝クジラを……守る〟と書いてあります」

ギコがそう無線で伝えると、依頼人はそれが敵である事を告げた。

(,,゚Д゚)「……と云う訳だ。
   場違いな海賊どもを退治に行くとするか」

ノパ⊿゚)「でも、相手は二隻ですよ」

(,,゚Д゚)「進路は分かってるんだ。
    さぁて……二人共」

船内の空気が、一気に緊張する。

(,,゚Д゚)「状況を開始する。
    これより本船は敵の背後から忍び寄り、無力化、撃退する。
    ヒート、ダネルを用意しておけ。
    シャキン、そのレミントンに弾を込めろ。

    狩りの基本を学ぶ時間だ」

雪だるま号は大きく弧を描いて進み、あえて敵に道を譲り渡した。
シャキンの目算によれば、相手は小型艇。
ならば、かなり接近しなければ意味がないと、そう考えたのだ。
いよいよ、シャキン以外の眼にもその黒い姿が見えて来た時、真っ先に海賊であると思った。

しかし、海賊にしては狩り場にする海と獲物を間違えている。
高速艇が三人の横を通り過ぎようとした時、シャキンが信じられない言葉を口にした。

(;`・ω・´)「……うっそ……
      環境保護団体って……書いてありましたよ」

ノパ⊿゚)「馬鹿言え、あんな船使う環境保護団体があるか。
    ありゃ海賊だろ」

そうこうしている内に、もう一隻が抜き去る。

(;`・ω・´)「いや、ほんとですよ。
      皆覆面していて……あれ? おいおいおいおい!!
      軽迫撃砲積んでますよ!!
      えぇー、だって環境保護って……えぇえええ」

(,,゚Д゚)「連絡しておこう……
    その前に、シャキン。
    エンジンを撃ち壊せ」

(`・ω・´)「……やってみます」

船首に膝立ちになって、シャキンはライフルを構えた。
揺れる船上から、高速で移動する船に当てるのは曲芸か神業の領域に達する。
一隻目との距離は200メートル。
狙いはすぐさま定められ、銃爪は滑らかに引かれた。

一発。
一隻目の船が、ゆっくりと速度を落とす。
黒煙がエンジンから上っているのを、ヒートが確認した。

ノパ⊿゚)「……すげぇ」

感嘆の言葉よりも疾くボルトアクションによって排莢、装填が行われ、二発目の銃弾がもう一隻に放たれた。
エンジンに当たったが、船は速度を落とさない。
焦ることなく、シャキンは棹桿を引き、三発目の銃弾を放つ。
ラグは一秒にも満たなかった。

(`・ω・´)「僕の祖父はもっとすごいですよ」

今度こそ、エンジンが停止し、二隻の高速艇はその場に止まった。
悠然と近付く雪だるま号。
既にギコ達は目出し帽を被り、身元を知られないようにしていた。
10メートル程の距離で船を止めると、船尾から男が一人現れた。

Ω《我々は鯨の保護の為、あの船を止めようとしているのだ!!
  邪魔をしないでもらおう!!
  もし、我々の邪魔をするのであれば、我々は命を賭けて君達を止める!!》

メガホンで怒鳴って来た為、甲板に立っていたヒートが溜息と共にダネルを構えた。

Ω《いいだろう、その様な物で我々の意志が――》

その言葉を尊重する為に、容赦なく催涙弾が撃ち込まれた。

Ω《どゅっ?!》

弾は不運な事に、メガホンを持っていた男の腹に命中し、小型艇は瞬く間に煙に包まれた。
煙から逃げようと、必死に船内から逃げ出してくる人、人、人。
二発目の催涙弾は、操舵室に落ちた。

(`・ω・´)「恐らく、船底に部屋があります」

シャキンのアドバイスを受け、ヒートが三発目の催涙弾を撃ち込む。
煙は濃厚さを増し、人影すら見えなくなっていた。
駄目押しに四発目を撃った。
逃げ場を失い、船の上にしがみ付いていた数人が凍りつきそうな海に悲鳴を上げて落ちる。

ノパ⊿゚)「脆いですね」

(,,゚Д゚)「あぁ脆いな」

ノパ⊿゚)「でも命を賭けると言っていましたよね?」

(,,゚Д゚)「言ってたな」

ノパ⊿゚)「助けなくても?」

(,,゚Д゚)「……鯨が助けてくれるんだろ。
   放っておけ」

その時、一隻目の船から何かが飛んで来た。

(;,,゚Д゚)「なっ?!」

(;`・ω・´)「何かの瓶です!!」

シャキンの言葉で、三人は直ぐに船内に戻り、扉を閉めた。
その直後、船の側面に瓶がぶつかり、破片と液体が甲板に落ちた。
ギコは雪だるま号をその場から遠退け、最後の一隻から50メートル程距離を開けた。

(;`・ω・´)「あ、あの軽迫撃砲で飛ばしてきたんだ……
      改造して、発射機にしたのか……」

(,,゚Д゚)「狙えるか?」

(`・ω・´)「……狙えますが、人間に弾が当たる危険性があります」

(,,゚Д゚)「むぅ……」

唸り、ギコは双眼鏡を覗き込んだ。
瓶を飛ばしてきた人間を見ると、その眼に宿った強い意志に、ギコは驚かされた。
使い方さえ誤らなければ、優秀な人材に成り得ただろうに。
その時に見た人物が、後に大統領候補選に出馬する事になったジャンヌであった。

そして、テレビで流れていた映像が正しければ、同乗している内の一人は若い人気女優だった。
と云う事は、彼女が芸能界を引退した理由には、ギコ達が関係していたのだろう。

(,,゚Д゚)「ダネルを使えるか?」

(`・ω・´)「要領さえ掴めれば、使えるかと」

ノパ⊿゚)「反動と弾道が独特だから、それに気をつけろ」

そう言って渡されたダネルを構え、シャキンが船外に出る。
酪酸の匂いが鼻を突いた。

(;`;ω;´)「……臭い」

と残して、シャキンが扉を閉める。
甲板から高速艇に狙いを定めている間に、敵は発射機を操作して、狙いを調節している。
過激な環境保護集団である。
割れた瓶の破片や薬物が海に流れる事を考えていない、救い難い集団だった。

宗教団体並みに厄介な敵に対して、ギコは常に強固な姿勢で向かい、潰してきた。
今回の仕事の様に不完全と云うのは、どうにも、ギコの性に合わなかったが、これはこれでいいのかもしれない。
茶色い瓶が飛んでくるが、船を越えて海に落下した。

ノパ⊿゚)「お手並み拝見だ、シャキン」

狙いを定めたシャキンが、一発、催涙弾を撃った。
女優引退の原因は、狙い過ぎたが故に起こった一種の事故の様な物だった。
放物線を描いて飛んだ催涙弾は、新たな薬物を取り出した男の顔に当たり、その手から瓶が零れ落ちた。
その瓶は足元で作業をしていた人間の頭に落ち、蓋が外れ、薬物を頭から被る事となった。

顔全体を覆っている覆面は、薬物をよく吸い込み、まんべんなく顔に押し当てたことだろう。
本能的に薬物を洗い流そうと、極寒の海に飛び込んだ。
また一つ、海にゴミが捨てられた。
一方、船尾に転がった催涙弾は船外に蹴り飛ばされ、効果を発揮し損なった。

反省を生かし、もう一発、シャキンが撃つ。
発射機の傍らにしゃがんでいた人間の頭に当たり、その人物は呆気なく倒れた。
再び催涙ガスが船に流れる。
しかし、これもやはり船外に捨てられる。

それを行っていた覆面の人物が、ジャンヌだった。
撃ち尽くしたシャキンが戻り、催涙弾を装填しようとしたが、ギコがそれを止めた。

(,,゚Д゚)「あいつらに、正義の光ってのを見せてやろう」

そう言ってギコがシャキンに渡したのは、音響閃光弾だった。
音と光が織り成す圧倒的な力を前にすれば、どの様な人間でも、素直な衝動に応じる。
しかし場所は洋上。
地上とは使い方を変えなければ、海を明るく照らすだけで終わってしまう。

(`・ω・´)「……任せてください。
      こう見えて、バスケットボールは得意なんです」

六発装填し、シャキンが再び船外に出る。

(`;ω;´)「……やっぱり臭い」

扉を閉め、シャキンはかなり高めに――殆ど空に向けて――構えた。
要領は迫撃砲と同じだ。
上空から閃光弾を相手の手前に落とし、視力と聴力を奪う。
その後で、こちらの好きにすればいい。

落下地点、時間、全てを予測できるか。
ギコは、狙撃手として天性の才能を持つシャキンに密かな期待を寄せていた。
それを見る、絶好の機会だった。
そして、シャキンは一発でやり果せた。

上空から落下した閃光弾は、環境保護団体達に生まれて初めての体験を味合わせた。
太陽がそのまま落ちて来たかのような、強烈な閃光と爆音が、二つの器官を無力化する。
船上には目を押さえて悶える人間が転がっていた。

ノパー゚)「……へぇ」

船外に出てその様子を眺めていたヒートが、感心した風な声を漏らす。
シャキンは鼻を摘まんで涙目になっていた。

(`;ω;´)「どうです、隊長?」

(,,゚Д゚)「良い腕だ。本番でもそれぐらいできるともっといい」

(`うω;´)「へへっ」

その時、シャキンの眼が大きく見開かれた。

(;`・ω・´)「伏せて!!」

その警告は遅かった。
船底に隠れ潜んで閃光音響弾をやり過ごした人物――ジャンヌ――が、クロスボウを手に現れ、太矢を放った。
それは、無防備な状態のヒートに向かって飛んで行き――

ノハ;゚⊿゚)

――声を上げる暇さえ、ヒートには無かった。

(,,゚Д゚)「……どうだ、ヒート?」

ノハ;゚⊿゚)「へ?」

しかし、太矢がヒートの体を貫く事はなかった。
辛うじて、ギコが矢を掴み取る方が勝ったのである。

(,,゚Д゚)「今、お前は生きてるか?」

掴んだ矢を投げ捨て、腰のホルスターからベレッタを抜き、弾倉一つ分の威嚇射撃を浴びせかけた。
敵はクロスボウを捨てて直ぐに船内に逃げ、弾から身を守った。
流石、逃げ足は速い。

(,,゚Д゚)「シャキン、船内に撃ち込め。
    今、催涙弾をありったけ持ってくる。
    ヒート、船内に戻れ」

ノハ;゚⊿゚)「あ、あ、は、はい……」

船内にヒートを戻し、ギコはスカルチノフから受け取った弾を箱ごと持って来た。
閃光弾を撃ち込み終えたシャキンは、弾を催涙弾――トウガラシの成分が入っている危険な物――に切り替え、撃った。
船を高速艇に近付け、外からでも見える船底に続く穴に向け、シャキンは10発近く撃ち続けた。
気を失って倒れていた者は目を覚まし、悲鳴を上げて海に飛び込んだ。

結局、忌々しい敵は船内から出てこなかった。
その後ギコ達は、海の上を漂う敵に対して、使用期限の迫ったペイント弾を浴びせかけ、その場から撤退した。
護衛対象に撃退した旨を報告をすると、何度も礼を言われ、任務が終わったら話をしたいと持ちかけられた。
これも仕事だと割り切り、三人はその誘いを受ける事にした。

対面した時、三人は依頼人がアジア系、更に的を絞るのならジャポーネの人間であると確信した。
会うなり腰を曲げて丁寧にお辞儀をされ、思わずこちらが恐縮してしまう様な、そんな対応をされた。
傭兵に対してここまで礼儀正しく接する人種は、アジアではターランドとティーペイぐらいしかない。
そして、特徴的なその笑みは、紛れもなくジャポーネのそれだ。

(=゚ω゚)ノ「この度は本当に助かりました」

(,,゚Д゚)「いえ、仕事ですから」

(=゚ω゚)ノ「私達の正体については、概ね予想が付いているでしょう」

欧米、取り分けアーリジュを本拠地に活動をするシェパード・マリンは、ああ見えて環境保護団体を自称している。
熱心になっているのが鯨の保護ではあるのだが、その背景には多くの著名人や企業が犇めいている。
鯨の保護と云うよりも、感情――賢い動物を殺すと云う事に対する嫌悪感――で動き、一部の国からはエコテロリストと呼ばれていた。
その彼等が目の敵にしているジャポーネの船と言えば、世界屈指の歴史と技術を持つ調査捕鯨船だ。

増えすぎたクジラと云う物は、驕った人間に酷似している。
他の種族を食い散らかし、絶滅に追いやる点で言えば、全く同じだ。
食物連鎖の頂点に位置する生物が数を増やし、好き放題に動けば、連鎖の歯車は崩壊する。
そう云った諸々の理屈があるのだが、SMは頑なに妨害を続けており、最近ではドキュメンタリーまで流していた。

スポンサーから得る収益だけで、就職せずとも生活が出来る。
温厚で知られるジャポーネ人でも、度重なる妨害に我慢できなかったのだろう。
彼等が手を出せば問題になるが、雇った人間が手を出す分には問題にならない。
ジャポーネ人らしい、奥ゆかしい手だった。

(,,゚Д゚)「まぁ、大凡ですが」

(=゚ω゚)ノ「私達を軽蔑されますか?」

(,,゚Д゚)「まさか。国にはそれぞれの文化があります。
   それに、調節は必要ですから。ただ……」

(=゚ω゚)ノ「ただ?」

(,,゚Д゚)「鯨とは、美味い物なのでしょうか?」

(=゚ω゚)ノ「えぇ、私たちの国は、昔、この鯨一匹を全て余すことなく使い切りました。
    その際に食べた鯨肉の味を忘れられないと云う方は、大勢いらっしゃいます。
    今日は是非、鯨を食べていただきたく思い、こうしてお呼びしたのです」

最初、シャキンは鯨を食うだなんて野蛮だとこぼしていたが、一切れ〝サシミ〟を食べた時に、依頼人に深く謝罪した。
ヒートも初体験だったと云う鯨の肉は柔らかく、だが、噛み応えがある上質な物だった。
これが大量に海に溢れているのであれば、是非とも取るべきだと、三人の意見は一致し、依頼人は気恥しそうに笑っていた。
こうして振る舞われた鯨肉料理であったが、ギコ達はその味の虜となり、それ以来、同じ依頼が舞い込んだ際は率先して参加するようになった。

依頼人との食事が終わった帰り道、ヒートがギコ達を誘い、手近なバーに入った。
三人はそれぞれ酒を頼み、何はともあれ、無事に作戦が終わった事を祝した。

ノパ⊿゚)「……隊長、私、思ったんです」

ギコは無言で続きを促す。

ノパ⊿゚)「この仕事、大変だなって」

(,,゚Д゚)「……」

ノパ⊿゚)「でも……生きているって、感じる事が出来ました。
    これからも、よろしくお願いします」

(,,゚Д゚)「あぁ、よろしく」

そう言って、二人はグラスをぶつけ合った。
すると、シャキンは照れ臭そうに鼻の頭を掻いて、言った。

(`・ω・´)「……自分も大変だと思いましたが、軍よりも面白いです。
      ヒートさん、ギコ隊長、これからもよろしくお願いします」

再び、今度は三人でグラスを軽くぶつけた。
鯨肉愛好会は、この時に結成されたのであった。

←――――――――Chapter 02 - Fin――――

ギコが語った内容は、テレビには触れられもしなかった。
一人勇敢に最後まで抵抗し、考えを改めさせたと云う逸話で、シェパード・マリン時代の話は締めくくられた。
この時に生まれたコネクションを生かし、議員から知事になり、今、こうして壇上で演説するに至っている。

ミセ*゚ー゚)リ「鯨って、そんなに美味しいんですか?」

(,,゚Д゚)「俺は好きだな。特に、サシミは最高に美味かった。
    すりおろした生姜とソイ・ソースで食べたんだが、今でも忘れられん」

意外な事に、ミセリは鯨を食べる事に対して嫌悪感を露わにしなかった。
傭兵仲間でも、鯨を食べた事を聞いた瞬間に泣きそうな顔をする人間さえいたが、ミセリは、楽しそうな表情を浮かべたままだ。

(,,゚Д゚)「ミセリぐらいの歳の女の子にしては珍しい反応だな。
    可哀そうだとか怒ると思ったんだが」

ミセ*゚ー゚)リ「うーん……
      何ででしょう?」

(,,゚Д゚)「まぁ、偏見で物事を見ないのはいいことだ。
    その純粋さを忘れるな、ミセリ」

涙が止まったようで、ギコはほっと胸を撫で下ろした。
ぐし、とミセリの頭を撫でる。
照れ臭そうに笑って、ミセリはそれを受け入れた。

ミセ*'ー`)リ「にゅ……」

撫で心地の良い髪質だった。
ようやく、耳障りなジャンヌの歴史を称えるドキュメンタリーが終わり、コマーシャルの後、いよいよ、アニジャの演説に移る事となった。
丁度、トソンがティーポットを持って戻ってきた。
その眼は少し充血していたが、もう、泣いていなかった。

ミセ*゚ー゚)リ「あ、お母さん。ギコさん凄いんだよ!!」

(;,,゚Д゚)「こら、よせ!」

しかし、ミセリは紅茶をカップに注いでいるトソンに、熱心に先程の話を言い聞かせた。
引退した女優とジャンヌの過去を聞き、トソンは薄らと笑った。
小さな花が精一杯咲き誇るかのような、控えめな笑み。

(゚、゚トソン「鯨の肉については、私も少し興味がありますね」

(,,゚Д゚)「なんでしたら、今度頼んでジャポーネのを用意しますよ。
    他の国のは何がいけないのか分かりませんが、美味くなくて」

ミセ;゚д゚)リ「ちょっ!! ギコさん、さっき私にはそう言ってくれなかったじゃないですかー!!」

(,,゚Д゚)「……そうだったか」

    (⌒⌒)
   (    )
   ノノ~
ミセ#゚д゚)リ=3 「ちっくしょおおおお!!」

ミセリの感情が噴火した。
理性を失った獣と化したミセリが、言葉にならない言葉を矢継ぎ早に浴びせかける。

(;,,゚Д゚)「……む」

o(゚、゚トソン「こら、ミセリ。
     ギコさんを困らせるのは駄目です、許しません」

叱る様な口調ではなかったが、ミセリの頭に乗せたトソンの手が一撫ですると、ミセリは大人しくなった。
猛獣と猛獣使いと云う図式が、自ずとギコの脳内に浮かんだ。
コマーシャルが開け、アニジャの演説が始まる。

( ´_ゝ`)『……皆さんは、正義を愛しますか?
      私は、今、この世界に広がっている正義の定義が分かりません。
      ですが、これだけは断言できます。
      どの様な正義でも、血に濡れて汚れていると。

      正義とは、敵対する者、邪魔立てする者、都合の悪い者を悪と断じ、根絶やしにする行いを装飾する言葉なのです。
      故に、私は正義を忌み嫌い、嫌悪します。
      その様な正義を、私は受け入れたくありません。
      私達の子供に、後世の人間に、その様な血生臭い生き方を誇ってほしくないからです。

      我が子が害鳥を殺したとしましょう。
      貴方はよくぞ殺した、おかげで、世界は便利になったと褒めるとします。
      では、害鳥と呼ばれた鳥の家族はどう思うでしょう?
      生きる為に生きて来たのに、ある日突然殺され、死を喜ばれるのです。

      立場が逆だとしたら、どうでしょう。
      鳥が貴方の子供を殺して、鳥たちが歓喜するのです。
      素晴らしい、よくやったと。
      ……皆さんが愛する正義とは、そう云う物なのです。

      動物たちが正義を謳歌しないのは何故か。
      自らの行いを受け入れ、物事の本質を理解しているからです。
      人間だけがそれを忘れ、誤魔化し、逃げる為に正義を愛するのです。
      そして正義を掲げて人を殺し、負の連鎖を繋いで行くのです。

      時々、兵士を悪と断ずる人がいますが、何とも的外れな事でしょうか。
      戦争に悪が在るのだとしたら、それは戦争を引き起こし、継続させる人間に他なりません。
      ……どうか、これだけは覚えておいてください。権力者が軍隊と云う名の銃を持ち、兵士と云う名の弾を撃つのだと。
      諸悪があるのならば、それは断じて銃でも弾でもなく、銃爪を引く人間なのです』

全てを淀みなく、しかし、感情を込めて聞き手の一人一人に言い聞かせる様な、見事な演説だった。
これがアニジャのスタンスと云う訳だ。
会場からは、拍手とブーイングの混じった感想が飛び、画面が切り替わってアニジャのドキュメンタリーが流れ始めた。

―――Go on to "the children" view...―――――→

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自室にあるテレビの前で父の演説を聞いていたイモジャ・バーティゴは、両者の演説を全て覚えていた。
一言一句、一説も漏れなく覚えてから、改めて、演説の内容から両者の主張を絞り出した。
正義に対する意見が、真っ向からぶつかっているのが分かる。
力づくでも平和を実現する事が正義だと唱えるジャンヌと、正義の実在を否定するアニジャ。

以前までの自分なら、ジャンヌを支持しただろう。
しかし、今のイモジャはそうしなかった。
マーディッシュで経験した非現実的な争いは、彼女の価値観を大きく変える切欠となった。
あの日を境に、イモジャは正義について考える様になった。

正しい事を行う。
それが正義だと思っていた。
その正義を、ギコに否定された。
否定は結果的に思考を促した。

停滞していた正義に対する考えは、まだ、形を成していなかった。
ただ、正義は一言では語り尽くせない物だと、ようやく分かった段階だ。
ある欲求が、イモジャの中に生まれていた。
もっと世界を見て、もっと見識を深めたい。

その為に今、イモジャはカフェインとたっぷりの砂糖の力を借りて、語学と国について学んでいる途中だった。
国内だけでも、イモジャの知らない風習と歴史があった。
理不尽に思う歴史があり、不思議に思う風習と、非常識に感じる州法があった。
それでも、これがアーリジュ合衆国。

まずは国内の事を学んだイモジャは、次に、ラシャ連邦について調べていた。
ラシャ語は日常会話程度の実力を身に付け――読み書きは中学生レベル――、複雑な歴史を読み解くうちに、のめり込んでいた。
歴史の影に見え隠れする、人の意志、考え、思惑。
知れば知る程、イモジャは世界を求めるようになった。

見知らぬ土地の歴史でも、必ず、それはどこかの国の歴史と繋がっている。
世界が歯車で繋がっているかのような錯覚は、知的欲求を満たす快感に変わった。
取り分け、戦争の歴史はイモジャの好奇心をくすぐった。
例を挙げると、アルフェニス紛争とヴェルナム戦争がそうだった。

アルフェニス紛争は元々、旧ソヴェント連邦――現ラシャ連邦――がアルフェニスに進行した時の物で、アーリジュは影でアルフェニスを支援していた。
戦局の天秤を傾けていたソヴェントの戦闘ヘリコプターに対して、アーリジュはアルフェニスの兵士に遠まわしに武器を提供したのだ。
携帯式地対空ミサイルの登場である。
これによってソヴェントは優位な立場を失い、結果的に体制は崩壊、ラシャが誕生したのであった。

一旦は終わったかに思われたアルフェニス紛争は、別の形で再燃する事となった。
九月某日のテロを理由に、アーリジュは国連の反対を無視してアルフェニスに進行、アルフェニス紛争が再度勃発したのである。
口実にしていた大量破壊兵器発見の代わりに、彼等は豊かな天然資源のパイプラインの製造に成功していた。
今はまだアーリジュとラシャの歴史しか深掘りしていないが、出来るだけ早く、イモジャは他の国の歴史も知りたかった。

もう一つ、ヴェルナム戦争はアーリジュが長い歴史の中で初めて喫した敗北で、その原因は指導者の無能にあった。
当時の大統領の指示で送りだされた若者は、戦地に慣れる前に別の新兵と交換され、そうして、アーリジュの兵は皆慣れる間もなく殺された。
更に、アーリジュがヴェルナムの地で行った残虐な行為――現大統領の言を借りるのなら、極めて非人道的な行い――は、許されざる物だった。
半身が焼け、手足が捥がれ、切断された死体の横でピースサインを取る、笑顔のアーリジュ軍人。

凌辱された末に殺された、本当に幼い――中には赤ん坊程の歳の――少女達。
戦況を覆す為に散布した枯葉剤と、その影響で生まれた奇形児。
ヴェルナム兵の足を鈍らせる為に埋設した地雷、投下した不発弾。
これらはほんの一例で、アーリジュは正義の名の下に、多くの間違いを侵していた。

その一方で他国の間違いには口を出し、手を出し、奪い取った歴史。
それらの背景にある多くの利権。
歴史は単純ではない。
ステッチより複雑で、奥深さがあった。

多面的に物事を見据え、紐解き、受け入れるには自分は無知で未熟だ。
インターネットだけではなく、各国の国立図書館が保管している資料を見たかった。
その為にはとにかく、言語と国の風習を学ぶ必要があった。
投票権を得たイモジャは、期日までには、どちらに投票するかを決める事にして、勉強を再開した。

――絵にしか見えないルインド語の難解さに、早くも頭を抱えるイモジャであった。

Go to the next child who understood the justice is power.―――――→

大統領候補者二名の演説を聞いた茂名輝は、アニジャの発言に賛同し兼ねた。
確かにアニジャの言には一理あるが、現実的な問題として、力で抑え込んだ方が早く解決する場合がある。
サマリーで、モナーはそれを目の当たりにした。
そして、自らの非力を嘆いていた。

帰りの飛行機の中、モナーは焦るばかりで、イモジャを助けられなかった。
結局助けたのは、力のある傭兵達だった。
モナーはその力に憧れ、羨望を抱いていた。
帰国してからは、体力を付ける事に専念した。

平均よりも上の体力を身に付け、モナーは世界情勢を自分なりに調べてみた。
世界では未だに戦争が根絶されていない。
虐殺も起こっている。
話し合いでそれが止まれば、とうの昔に止まっている筈だ。

故に、争いを話し合いで解決するのは愚かしい事だと、モナーは考える。
乱をもって乱を制する。
モナーはその為に、大学へは進学せず、陸軍に入隊する事に決めた。
いつか、ギコ達の様に強くなりたい、その一心だった。

その前には、体と心を鋼に変える必要があった。
毎日通う事にしたボクシングジムで不屈の精神を。
長距離走で精神面を。
自らを鋼にする事で、何かを守れるのだと言い聞かせ、モナーは力を欲した。

ジャンヌの意見は全て正論だった。
誰かがやらなければ、世界は変わらない。
大きな一歩は時に草花を踏み散らすかもしれないが、進む、と云う事が重要なのだ。
世界から戦争を無くす為ならば、少しの犠牲が出ても、それは平和の代償だと考えられる。

これまでに出た犠牲者の死を無駄にしない為にも、大きな一歩を。
六つに割れた岩の様な腹筋を触る。
サーロインステーキの様に盛り上がった胸筋を触る。
短期間で体を覆う筋肉に惚れぼれしながら、モナーは空腹を満たす為に、夜食を作る事にした。

今、こうした体力作り以外に興味があるものと言えば、料理ぐらいだ。
シャキン・フェザーライトの言葉に影響され、料理に興味を示したのだ。
アーリジュの料理は基本的に色彩が極端で、茶色か、極彩色の物で、食欲減退の要因を担っていた。
そこでモナーは、肉を体に付ける為にも、自ら包丁を握り、キッチンに立つ事が多かった。

大型スーパーで買うよりも、小さな商店で買った方が、質の良い物が買えると分かり、今日も学校帰りに寄っていた。
料理も、意外と筋肉を使う面が多い。
食材を運ぶ時や、刻む時。 フライパンを振るう時にも、筋肉が役に立つ。
近々、チキンを丸々一羽使った料理に挑戦してみたいと、モナーは密かに思っていた。

――食材を刻んでいる間、モナーは選挙の事を忘れ、料理を楽しんでいた。

Go to the next child who wants to save every children.―――――→

レモナ・インハイトは二人の候補者の演説を、ラジオで聞いていた。
しかし、意識はそちらに注がれていなかった。
こつこつとペンを走らせ、児童養護の免許習得に向けた勉強に耽っていた。
学校では決して学べない体験を経て、レモナは世界中の貧困国の子供を助けたい一心で、ペンを動かす。

来年から通う専門学校を卒業するまでに知識と資格を手に入れ、NPOの一員として、海外に飛び立つと決意していた。
その意志は固く、その心は真っ直ぐだった。
正義の定義について、レモナは考えた事はない。
正しいと感じれば、それが正義であり、その基準が人によって異なる事を知っていた。

その様な事をご高説賜るぐらいなら、一人でも多くの子供を救った方が、よっぽど説得力が増す。
大統領候補の二人は結局、そう云った子供達の事について考えた事が無いのだろう。
使命感に燃えるレモナは、冷えたバン・ホーテンを一口飲んだ。
甘さが体に心地よく染みる。

サマリーの経験は、南米地域の現状の一部をレモナに教えた。
限られた器具だけでギコに治療を施し、命を救ったツィーナ・D・テルソンの手際は、レモナに感銘を与えた。
強く、気高く、凛としたツンに、レモナは憧れを抱いていた。
昔から行動が遅いとからかわれてきた自分の、一種の理想像だった。

その理想に近づく為に、レモナは子供を救いたかった。
資格修得の勉強を一旦止め、レモナは語学の勉強に移り変えた。
南米系の語学を習得しておく事で、いざ派遣されても、意志疎通が図れる。
ハードディスクコンポの中から、リラックスできる曲を選択し、控えめな音量で流し始めた。

卒業までの間に、どうにか言葉を覚えたかった。
焦る気持ちを抑えて、難しい発音を口にする。
あまり流暢には喋れなかった。
それに、自分の話している事を正確に理解できていない。

あくまでも、本に従って口にしているだけで、それは何の意味もなさない。
どの様にすればギコの様に喋る事が出来るのかと、ふと、レモナは思った。
ホテルの受付にいた人間と、素晴らしくスムーズに会話をしていたギコなら、コツを知っているかもしれない。
ギコが知っているのであれば当然、ツンも知っているだろう。

何時しか口は止まり、レモナはツンに会う方法を考えていた。
心の中で勝手に姉と慕うツン。
彼女には、色々と教えて欲しい事があった。
紛争地域の現状や、言葉の問題の解決方法。

本を置いて、本立てから一冊の写真集を手に取る。
ペーパーバックサイズの、白黒の写真集。
それは、戦場で撮影された子供達の姿が載った、マンガーと云う戦場カメラマンの本だった。
余計な注釈はなく、200ページ近くある全てには写真しか載せられていない。

中東よりも注目されていない南米の現状が、そこにはあった。

笑っている顔。
泣いている顔。
傷ついている顔。
喜んでいる顔。

――レモナは写真の持つ偉大さに心惹かれていた事に、この時は未だ、気付いていなかった。
Go to the next child who decided to know the justice of this world.―――――→

複雑な心境で演説を聞いていたシィ・ベンジャミンは、暫くの間、テレビの前から動けなかった。
悲劇の救世主の名をもつジャンヌと、級友の父親アニジャ。
両者は正義について語り、ジャンヌは愛についても語った。
シィは愛も正義も信じているし、尊く思っている。

しかし。
しかし、ジャンヌの口にしている言葉が希薄に思えてしまい、その意見に頷く事は出来なかった。
最終的に、シィはアニジャに一票を投じるだろう。
昨日、教会にいるシスター達に意見を聞くと、満場一致で、ジャンヌを支援する意向を示していた。

きっと、それは最後まで覆らないだろう。
ジャンヌは敬虔な信者として知られていて、それはつまり、仲間と云う事だ。
一方のアニジャは無神論者であり、シスター達からは憐れで仕方がないと同情されていた。
シィは、その言葉を聞いて酷く不快になった。

何故、アニジャが哀れなのだろうかと。
口には出さずに、シィは原因を考えようとしたが、本当は、考える必要などなかった。
サマリーで見た光景は鮮烈で、体験は強烈だった。
中でも印象に残っていたのは、フサ・トロントがシィに浴びせた言葉だった。

信じるのは結構だが、人に押し付けてはいけない。
その言葉の意味は、シィが現地で実際に体験していた。
しかし、ここにいるシスター達は誰一人として、その様な体験をしていない。
教会でミサをして、募金をして、寄付をして。

現地に赴いた事のある人間がいない事に気付き、シィは、信仰と云う物が分からなくなり始めていた。
彼女ないし彼等は、本当に人を助けているのだろうか。
本当に救いたいのであれば、行動を起こすのではないだろうか。
隣人を愛するのであれば、例え神を信じていなくとも、憐れむのはあまりにも失礼ではないだろうか。

それこそ、信仰の押し付けだった。
否定しようのない、完全な独善だった。
それでも尚、彼女達は神の子だった。
それでも尚、シィは神への信仰を捨てなかった。

何度も疑念と疑問を反芻し、シィは自ら率先して動こうと決めた。
ただし、それは、マーディッシュに直接行って人々を救うと云う物ではない。
もっと現実的で、もっと利口な方法だった。
そして、最も危険な道だった。

両親には言い出しにくかった。
彼女の両親は、シィの進路はミッション系の女子大に進む事だと思いきっている。
もう、シィは学校に進むつもりはなかった。
決意は鋼鉄の様に硬かった。

信仰を広めるつもりはない。
信仰とはすなわち、生き方、価値観の領域を出ないのだ。
ならば、その領域内で出来る事をする。
シィが選んだ道は、矛盾だらけの道。

――机の上に置かれた従軍司祭への申込用紙は既に記入が済み、後は投函するだけだった。

Go to the next child who thought about the warfare.―――――→

壁を埋め尽くす蔵書に囲まれた部屋の中、クー・アケーディアはキーボードを叩いていた。
傍らには本が塔の様に積み上がり、手元には電子辞書が開いて置かれていた。
ワードソフトの紙面にはびっしりと文字が並び、画面右端には動画再生ソフトが最前面で動いていた。
再生しているのは、戦争映画だった。

J・グリシャムの作品――偶然古本屋で見つけた――に感化され、物書きの真似事を初めて、早5年。
これまでに執筆し、応募した作品は100近くあったが、一作もこれと云った功績を残していない。
そうした、所謂落選した作品はインターネットに公開して、次回への糧にしていた。
しかし今、クーはこれまでに書いた事のない文章を書いていた。

それは論文だった。
いや、論文もどき、と言った方が適切だと、本人は文章を読み直す度に鼻で笑っていた。
帰国してから、クーは戦争について考える様になった。
学校の図書館にある文献は全て読みつくし、仔細な取材に基づく小説や映画、写真集に至るまで全て目を通した。

もっと、戦争を知りたかった。
予てから戦争に興味はあった。
だが、調べる気にはならなかった。
今や、その考えは変わり、近現代に起こった戦争の殆どを理解するまでになっていた。

論文の書き方を、クーは知らなかった。
学校で書かされるレポートとは、全く異なる形式に戸惑ったが、直ぐに順応した。
しかし、キーボードを鍵盤の様に叩く指が、ふと止まった。
冒頭部の書き出しは出来上がったが、肝心の意見をどう書こうか、考えていなかった。

果たして自分は、戦争を肯定しているのだろうか、それとも、否定しているのだろうか。
実際に経験した事が無い事象に対して、善し悪しを決められるほど、クーは傲慢ではない。
まだ知らない事が多すぎる。
論文の序章の途中で、クーは書く事を潔く諦めた。

経験と資料が絶対的に不足している。
では戦地に赴くのが最善だろうか。
否、それでは違う。
幾つもの戦争を客観的な立場で見て、決してどこかに属す事のない様にしなければならない。

偏った見方は、物事の純度を濁らせる。
そこでクーは、サマリーで友人達を護ってくれた傭兵達を思い出した。
その中の一人、ヒート・O・ワイルドに、是非とも警護を頼んで戦場に行きたかった。
彼女の勇敢さと豪胆さ、そして生き方に、クーは信頼を寄せていた。

――まずは話だけでも出来ないかどうか、レッドリング・マーセル傭兵派遣会社に電話を入れたのであった。

Go to the last child who wants to feel father's kindness.―――――→

ミセリナ・ウォーマックは必死に眠気と戦っていた。
アニジャの演説の後、ミセリは風呂に入り、再びリビングに戻って来ていた。
そのせいで、体の芯から染み出てくる疲労が、彼女の眠気を誘発していた。
寝間着姿をギコに見られるのは恥ずかしかったが、それでも、一緒にいたかった。

ミセリは父親と云う物を知らない。
ギコは、ミセリにとって父親の様な物だった。
故に、一秒でも長くその存在を感じていたかった。
しかしねむい。

瞼が半分落ちているのが自覚できた。
今の時期、窓辺で温かな日差しを浴びながら昼食後の社会科の授業を受ける様な、そんな心地の良い眠気。

(;,,゚Д゚)「なぁ……もう寝たらどうだ?」

ミセ*'ー`)リ「ま……まだ……」
ミセリは頑張って頷いたが、振り被って振り下ろす力が強すぎた為、額を机に激突させてしまった。

(゚、゚トソン「あらあら」

(;,,゚Д゚)「おおおい、だからもう寝ろよ、な?」

ミセ ;д;)リ「うーあー」

(゚、゚トソン「ミセリ、もう寝なさい。
    明日、朝練があるんでしょ?」

ミセ*'-`)リ「むーおー」

(;,,゚Д゚)「……連れて行きましょうか?」

(゚、゚トソン「……すみません、そうしていただけますか?
    私が案内しますので」

ふわりと、ミセリの体が宙に浮いた。
逞しい腕の中、ミセリは夢心地だった。
寝室まで優しく運ばれ、結局、蒲団の中に寝かされた所でミセリは眠りに落ちた。
ギコとトソンが離れて行くのが、何となくだが、ミセリには分かった。

もっと長い時間、ギコと触れ合いたかったのだが、心地の良い眠りに身を委ねた。

* * *

テレビはもう何も映していなかった。
リビングにはギコとトソンの二人だけ。
対面して座り、無言だった。

(゚、゚トソン「…………」

(;,,゚Д゚)「…………」

ギコは机の木目を数えていた。
時計の針が動く音が、大きく感じた。
何分経っただろうか。
迂闊な事にギコは時間を数えていなかった。

沈黙を破ったのはトソンだった。

(゚、゚トソン「ギコさん……」

(;,,゚Д゚)「は、はい」

(゚、゚トソン「傭兵をする前は、兵隊だったのですか?」

(;,,゚Д゚)「え、えぇ……二年そこそこですけれど」

(゚、゚トソン「その時の話も、聞かせてもらえますか?」

流石に、ギコは眉を顰めた。
トソンは戦争と云うよりも、戦場を知りたがっている様だった。
理由が分からない。

(,,゚Д゚)「……何故、そこまで戦場を知りたいのですか?」

(゚、゚トソン「……知りたいからです」

一言で理解した。
トソンは、これ以上どれだけ強気な態度で言及しても、決して情報を口にしないと。
芯が強い。
ヒートか、あるいはツン並みの心の強さを秘めている事が、ギコには分かった。

(゚、゚トソン「……お願いします、ギコさん」

ギコは話をするのが得意ではない。
一日に何回も語るのは、精神的に滅入るものだった。
だが、ここまでトソンが戦場を知りたがっているのなら、一つだけ。
そう、一つだけ、語っておくべき話がある。

(,,゚Д゚)「……分かりました。 でもこれが最後です」

トソンは頷いて、ギコの眼を見据えた。
ギコもまた、姿勢を正して、ゆっくりと口を開く。

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中学を卒業してすぐに、ギコ・カスケードレンジは陸軍に入隊した。
成績も品行も悪かったギコに選べた道は、自動車整備工場か軍隊の二択だった。
アルフェニス戦争が始まって間もなくの事で、国中が戦争を求めていた。
将来有望な多くの若者が、こぞって戦争に参加した。

平和の為だと口ずさみ、仲間の為にと意気込んだ。
第三空中機動師団第二旅団第八騎兵連隊第一大隊は、ヴェルナム戦争を教訓に作られた、真新しい部隊だった。
構成は新兵と古参の割合が半分ずつで、バランスの悪い、歪な部隊だった。
戦争の為に急造された、間に合わせの部隊だと、仲間内で言い合うほどだった。

半年にも満たない訓練を通じて、ギコは三人の友人が出来た。
ビロード・アンドリュー、その双子の兄であるワカッテマス・アンドリュー、そしてハロルド・ダイオード。
皆、ギコと同い年だった事、厳しい訓練を共に過ごしたと云う事と、同じ部隊に配属された事で、連帯感が強かった。
中東の基地に大型の輸送機で運ばれ、熱砂と灼熱の大地に足を着いた時、戦場に来たのだと実感したものだ。

(;,,゚Д゚)「あ、あつぃ……」

熱風が吹きつける度に、汗が噴き出た。

(;><)「い、言うんじゃないですよ……」

ビロードがヘルメットを取り、額の汗を拭う。
四人は皆、クルーカットに髪を刈り揃えていた。
ビロードと同じタイミングで、ワカッテマスも額の汗を拭い、その鳶色の瞳を忌々しげに細めた。

(;<●><●>)「全く、言われなくても……」

履き馴らした8インチのデザートブーツの中は快適だった。
しかし服の下は最悪だった。
口の中も砂にまみれた。

/ ゚、。;/「あっつ……」

普段は陽気なブロンドの髪と碧眼のダイオードも、この暑さには敵わず、色白い肌を赤くしていた。
駐屯基地に荷物を置いてすぐに、訓練が始まった。
環境が変わるだけで、コルト・カービンモデルの命中精度は著しく低下した。
弾が逸れる。

的は人の顔写真が貼られていた。
これは本番でも人を撃てる様配慮されたからであると、ギコの上官ロマネスク・スレッショルド中佐はそう告げた。
コルト・ガバメントはカービンよりも当たったが、100ヤード離れるだけで、命中精度は最悪だった。
そんな中でも、上官たちは狙い通り、的に当てていた。

三日目まで、ひたすらに訓練の毎日だった。
徐々に気温の変動を体で覚えて来たが、依然として、汗は流れ続けた。
ビロードが脱水症状で倒れたことから、三人は水分補給の大切さをよく理解した。
途中に座学――主に言葉と地形について――を挟み、テレビや映画で見る様な戦争から離れた日々を過ごした。

大きな変化は五日目に訪れた。

( ФωФ)「これから、西に進む。
       ボルドパレスナ村に駐在し、時期を待つ。
       それから、喜べ。
       紅一点が、暫くの間お前達と一緒に過ごすぞ」

当時の軍部は、戦争の正当性を示す為にジャーナリストの受け入れを幅広く行っていた。
風評を気にしてのことだった。

J( 'ー`)し「どうぞよろしく」

落胆の声とブーイングの代わりに、30人の兵士達は盛大な拍手でその女性――ニッキ・J・マザー――を迎え入れた。
ニッキはロマネスクと同じ車に乗る事となり、ギコ達はトラックの荷台にすし詰めで乗せられた。
悪路だった。
未舗装な上に、大きめの石をタイヤが踏むと、その度にギコ達は尻を押さえて飛び上がらざるを得なかった。

二時間以上も揺られた挙句、到着したのは、岩を削り出して作った様な、村だった。
建物は全て風化し、角が削れていた。
弾痕の様な物が生々しく、尻を押さえて車から降りたギコ達は、感想を漏らす事もなく、ただただ見上げているだけだった。

( ФωФ)「そこのホテルに、暫くの間お世話になる」

ホテルなどないだろうと、誰もが口にしたかった。
しかし、口に出せばロマネスクの鉄拳制裁が待ち受けている事を、全員が承知していた。
間違いなく皮肉だろう。
周りに建っている岩屋に比べれば、まだ、建造物らしかったのがせめてもの救いだった。

ニッキは早速写真を撮り始めた。
街にいる子供を写真に収め、ホテルを見て絶望的な顔をしているビロードの顔を撮った。
その日は設営に時間を費やし、その間、周辺のパトロールに四人一組で向かう事になった。
ギコ達四人は、午後三時からの担当になった。

村の中には子供が少数いた。
興味深そうにちらちらとこちらを窺い、目線が合うと引っ込み、また覗いて来る。
可愛らしい半面、監視されているのだと、実感せざるを得なかった。
カメラ片手に写真を撮りまくるニッキは、村人の女性と話をしていた。

アンドリュー兄弟が近寄って来た子供達に飴を渡しているのを、ダイオードとギコは離れた場所から見ていた。
無愛想――感情が顔に出ないだけ――は、子供にはやはり不評だった。

/ ゚、。 /「……ねぇ」

(,,゚Д゚)「何だ?」

/ ゚、。 /「ギコってさ、誰かを本気で好きになった事ってある?」

(,,゚Д゚)「うーん……ない、と思う。
    誰か、好きな人でも居るのか?」

/ ゚、。 /「うん……だけど、ウチの両親が怒るんだ」

ダイオードの家は、代々軍人の家系で、父親は陸軍の中将だ。
戦場で誉を立てる事を誇りにする父親の愚痴を、ギコは何度も聞いて来た。
恋愛の相談を受けたのは、これが初めてだった。

/ ゚、。 /「相手、僕よりも少しだけ年上でさ。
      すっごい良い人なんだけど、彼女の家系が……その、さ」

(,,゚Д゚)「ジュード系?」

/ ゚、。 /「……そうなんだ。でも、僕は全然気にしないし、そんなの、関係ないと思う。
      それでも、両親は汚れた血の人間とは直ぐに別れろって」

ギコの世代には信じられない事だが、一昔前には純血と云うものに拘る人間がいた。

(,,゚Д゚)「そりゃひでぇな……」

/ ゚、。 /「だろ? それで、彼女の家に手紙や電話までしているみたいなんだ」

(;,,゚Д゚)「やりすぎだろ」

/ ゚、。 /「勿論、止める様に言ったけど、別れたら止めてやるって、そう言われたんだ……
      でも……さ……」

その眼は、無邪気に笑う子供達に注がれていた。
憧れの様な、羨望の様な色が目に浮かんでいた。

(,,゚Д゚)「…………まさか、お前……」

/ ゚、。 /「……彼女、妊娠してるんだって」

(*,,゚Д゚)「やったじゃないか!! お前、父親なのか!!
    もう結婚しろよ!! 俺が認める!!」

友人の吉報を、ギコは素直に喜んだ。
生まれてくる命は祝福されるべきなのだ。
例えダイオードの両親が祝福しなくとも、ギコは心から祝う。

/ ゚、。*/「へへ……ありがと、ギコ。
      ギコだけだよ、僕の味方をしてくれるの……」

(,,゚Д゚)「当たり前だろ、俺達は親友だからな」

/ ゚、。*/「……親友……うん、そうだね」

照れ臭そうに笑って、ダイオードはようやく安心した風な笑顔を浮かべた。
それからギコ達も、ビロード達に混ざって子供達を見て和んでいた。
パトロールに戻ると、子供達は両親の下に走って戻って行った。
 _、_
( ,_ノ` )「……」

厳めしい顔つきの男が、感情の読みとれない細い眼を、こちらに向けていた。
暫くギコと見つめ合っていたが、何も無かった。
男は子供の背を押して、家の中に戻った。
パトロールを再開したが、特に何も問題は無かった。

その日の夜、ギコ達は自分達がここに来た意味を、ようやく理解した。
アルフェニス戦争を象徴する、ミサイルと曳光弾の雨。
ギコ達はそれを目の当たりにしていた。
ニッキは夢中で写真を撮り、ギコ達は口を開けてその光景を見ていた。

沿岸地にあるアルフェニス民兵の隠れ家や、軍事施設に対して大規模な爆撃が行われ、その光景は目に焼き付いて離れなかった。
興奮冷めきらぬ内に、ロマネスクは現在陸海空軍が合同で行っている作戦名を口にした。

( ФωФ)「これが、〝熱砂の祝福〟作戦だ」

夜が明け、映りの悪いテレビに作戦の傷跡が流れた。
作戦は成功し、標的にしていた軍事施設は軒並み壊滅したとのことだった。
次の作戦は、〝熱砂の剣〟作戦だった。
道が開けた今、アルフェニスの奥深く、首都クレルト攻略の為に陸軍と空軍が同時に進行する物だ。

この村はその中継地となる予定で、作戦が始まれば、直ぐに賑わいを見せるとロマネスクは言った。
結論から言えば、その通りになった。
カーキ色の装甲車と戦車が押し寄せ、陸軍の大隊が幾つもやってきた。
愛着の湧きかけて来たホテルから、村から少し離れた場所に急造された作戦本部にギコ達は移った。

布のテント内部は蒸し暑く、ようやく、ロマネスクがあの建物をホテルと言った理由が分かった。
鉄条網とフェンスを設置しながら、ギコはビロード達と帰国後の事について話していた。

( ><)「帰ったらどうする? やっぱり、大工でも目指しますかね」

(,,゚Д゚)「アウトドア会社に行くのもありだな」

/ ゚、。 /「通気性良し、耐久性良し、寝心地よしのテントを作ろうか」

( <●><●>)「もういっそ、コンテナみたいなテントにしましょう。
        防弾防音仕様にして、かわいい女の子もセットにして」

四人は笑い合いながら、作業を進める。

/ ゚、。 /「今日の昼飯、何だろうね」

( <●><●>)「どーせ、ポークビーンズですよ。
        運が良ければフルーツもありますね、ドライの」

(,,゚Д゚)「たまには豆が無い飯を食いてぇ……」

( ><)「えー、豆美味しいじゃないですか。
     あの豆豆したのが、何とも言えなくて」

/ ゚、。;/「それが嫌なんだよ。何か、ほら、豆食ってるとさ、口の中渇くじゃん」

(;><)「ま、豆を馬鹿にするんっじゃないですよ!!」

( <●><●>)「まさか、まだ身長が伸びると思っているのですか?
        小さい頃はポパイに憧れてホウレンソウばっかり食べていたのに、心変りが早いですね」

(;><)「時代は動いているんですよ!!」

ふと、ギコは視線を感じた。
駐屯基地の中を歩いているニッキが、ギコ達を見ていた。
それまで談笑していた四人は、途端に無言になった。
四人は、ニッキが嫌いだった。

と云うのにも理由がある。
時間と場所を無視して兵士の写真を撮影するあまり、兵士たちの間ではストレスが溜まっていた。
それを聞いたロマネスクがニッキに警告し、基地内で許可なく写真を取る事を一切禁じた。
反抗したニッキのカメラからフィルムを抜き出して、ネガを握りつぶした時、ニッキの被害者達はロマネスクに硬い忠誠を誓った。

そんなわけで、兵士たちの間では、ニッキの事は無視するのが当たり前になっていた。

J( 'ー`)し「あのー!! 写真を!!」

声をかけて来たが、四人は作業に没頭しているふりをした。

(,,゚Д゚)「無視しとけ」

( ><)「さわらぬババアに祟りなしです」

/ ゚、。 /「やだやだ」

( <●><●>)「……ばばぁーん、ギコ、あうとー」

ワカッテマスの言葉に笑いをこらえながら、フェンスを立てる作業は昼食前には終わる事が出来た。
午後からは、賑やかになった基地周辺の偵察を兼ねたパトロールだった。
岩だらけの大地を歩くのは疲れる物で、四人は話しながらパトロールを行った。
しかし空は綺麗だった。

砂漠の剣作戦に於いて、ギコ達の所属する空中機動師団は極めて重要な位置にあった。
小型ヘリコプターを利用した小回りの効く、非常に機動性豊かな彼等は戦地で大きな力になると言われていた。
ヴェルナム戦争では、試験段階の物を導入した為に大きな戦果は上げられなかったが、今はもう改良されている。
彼等を輸送するヘリコプターが揃い次第、ギコ達もいよいよ戦場に降り立つ事となる。

ところが、砂漠の剣作戦の中継地点であるこの場所に大量のヘリコプターを留めるわけにもいかず、出撃の順番を待っていた。
整理券を受け取る日が何時なのか、誰にも分からない。
今でも射撃訓練は行われていて、暇ではないが、何の為に戦場にやって着たのか、曖昧になりつつあった。
新兵仲間の中には、早く戦場に行きたいとロマネスクに懇願する者もいたが、期待を裏切らず、鉄拳による制裁を受けていた。

毎日のように、頭上を戦闘機が飛んで行く。
長く続ける事が砂漠の剣作戦の要だった。
パトロールから帰ってくると、ギコ達が三日後に戦場に送られると決まったロマネスクに知らされた。
その時、四人の体を、得体の知れない感情が支配した。

怖れ、そして期待の入り混じった複雑な感情が、手を振るわせた。
その日の夜、ダイオードはテントの外でギコと二人で話をしていた。

/ ゚、。 /「いよいよだってさ……」

(,,゚Д゚)「実感ねぇよな……」

/ ゚、。 /「弾に当たったら痛いんだろうなぁ」

(,,゚Д゚)「当たりたくねェよ」

/ ゚、。 /「うん……ねぇ、ギコ」

(,,゚Д゚)「おう」

/ ゚、。 /「何で……戦争なんてあるんだろうね……」

その問いに、ギコは答える術を持たなかった。
ただ二人は無言で、空に浮かぶ月を見上げていた。
丸く大きな、白銀の月は悠然とそこにあるだけだった。
改めて、ここが戦場になのだと、二人は思い知った。

翌日にそれは起こった。
パトロールを行っていた――この時は、四人は一緒ではなかった――ビロードが撃たれ、負傷した。
幸い命に別条はなかったが、血を流して泣き叫ぶ姿に、新兵たちは戦慄した。
場所は、村の近くにある岩だらけの場所だと云う。

既に地上の応援部隊が向かっており、激しい銃撃戦が行われていた。
車両よりも疾く現場に向かえる、空中機動師団の出番だった。
ロマネスクの下に20人の兵士が集められた、ニッキも同伴する事となった。
古参10名、新兵10名。

寄せ集めの頼りのない構成だった。
ギコとダイオードもその中に含まれていた。
六機のヘリコプターに分乗した兵士たちが、現場に向けて飛び立った。
地上からの無線で、敵の数は20人程である事が報告された。

現場に近付くにつれ、銃声が大きくなった。
渇き果てた丘陵地帯。
そこが戦場だった。
三機のヘリコプターは高度を下げ、友軍の後ろに滞空する。

残った三機は上空を旋回して、様子を見ていた。
ロープを蹴り落とし、訓練の成果を見せる為に、降下を始めた。
ギコもダイオードも、ワカッテマスが待っている地上に向かって下りる。

( ФωФ)「援護に向かえ!!
       デミタス!! 迫撃砲を用意しておけ!!」

これが実戦。
そう感じるまでもなく、耳元を飛んで行く銃弾の音と、仲間の悲鳴で理解した。
孤立している友軍の所まで、ギコとダイオードは走った。
穴だらけになったハンヴィーには、血が付着していた。

エンジンブロックを楯にして屈んでいるワカッテマスは、ギコ達を見咎めると、砂だらけの顔に安堵の色を浮かべた。
人数の差なら勝っているが、敵の姿が見えない。
ギコは焦りながらも、しっかりと銃を構えていた。

(#ФωФ)「頭を出すな!!」

(;,,゚Д゚)「は、はい!!」

足元の茶色い草にも血が付いている事に気付いたが、今は気にしていられなかった。
弾の飛んでくる方向に向けて、デミタス・エヴァンズマンが軽迫撃砲を撃つ。
しかし弾は依然として飛んで来た。

J(;'ー`)し「……!!」

視界の端に、シャッターを切るニッキが映った。
あれはあれで、彼女の仕事だ。

( ФωФ)「敵の位置はどうだ?!」

無線機に向かって、ロマネスクが怒鳴る。
上空のヘリからの指摘を受けて、デミタスが迫撃砲の調節を行う。
着弾した時、赤黒い固まりが宙を舞った。
人の肉片だった。

( ФωФ)「いいぞ!! 二時と十時の方角から援護させろ!!
       デミタス!! 煙幕を撃ちこめ!!」

煙幕に視界を奪われ、三方から激しい銃弾を浴びては、流石に反撃は減退した。

( ФωФ)「今だ、十一時の方角に回り込め!!」

最後の一機が、敵の斜め後ろに降り立ち、戦場慣れした猛者達が敵の退路を断つ。
この一手が決め手となり、敵を黙らせる事に成功した。
幸いこちらには死者が出ていなかった。
捕虜として、生きていた数人を捕え、トラックの荷台に乗せてキャンプに戻って行った。

結局ギコは、一発も撃てなかった。
負傷したビロードは野戦病院で治療を受け、戦線に戻る事は出来ないとのことだった。
次の日から、パトロールは強化された。
三人一組で同時に5チームがパトロールを行い、常時安全装置は外す様にロマネスクはアドバイスしたが、ギコはそうしなかった。

弟の負傷に、ワカッテマスは動揺していた。
目の前で撃たれた弟の事を想い詰めるあまり、気が滅入ってしまっていたのだ。

/ ゚、。;/「……」

(;,,゚Д゚)「……」

仲が良かっただけに、二人も辛かった。
それと同時に、弾は誰にでも平等に当たる事を思い知った。
いざという時、自分達は何か出来るのだろうか。
いつもより口数は少なかった。

足取りは自然と早まり、物音や気配を感じ取る度に、身を振るわせた。
大丈夫。
昨日で抵抗した連中は、皆死ぬか捕えられるかしたのだ。
だから、怯えなくても大丈夫。

そう言い聞かせて、ギコ達は歩いた。
無味乾燥の土地が、逆に、恐怖を煽り立てた。
死んだとしたら、どうするのだろう。
弾が当たったら、どれだけ痛いのか。

彼等は何も知らない。
まだ、幼かった。

/ ゚、。;/「……ねぇ」

(;,,゚Д゚)「お、おう?」

/ ゚、。;/「僕達……本当に人を殺すのかな……」

兵士として当然の事に対して、ダイオード尋ねた。
兵士になった以上、敵を殺すのは当たり前だ。
避けては通れない。
何時までも、綺麗なままではいられないのだ。

それを考え出せば兵士など務まらない。
訓練中に、共感に徹底的にそう教え込まれた筈なのに、ここにきて、ダイオードはそれを忘れてしまったのか。

(;<●><●>)「あ、当たり前です。撃たれる前に撃たなきゃ、こっちが殺されるかもしれないんですよ!」

(;,,゚Д゚)「…………あぁ」

実を言うと、ギコもダイオードと同じ事を考えていた。
自信が無かった。
人を殺せる自信なんて、ある筈が無かった。

/ ゚、。;/「そっか……」

ダイオードの手は震えていた。
三人とも、怯えていた。

(;<●><●>)「……ん? あれなん――」

言葉の途中で、突如、ワカッテマスが仰向けに転んだ。
しかし、転倒したと云うよりか、殴られた様な倒れ方だった。
遅れて聞こえて来た銃声が、全てを物語っていた。

(;,,゚Д゚)「う、撃たれた?!」

思わずその場に伏せるギコとダイオード。

(;,,゚Д゚)「お、おおおい、だ、大丈夫か?!」

(;<●><●>)「い、いっ……いたっ……」

(;,,゚Д゚)「死ぬなよ!!」

(;<●><●>)「ば、馬鹿言ってんじゃねぇで!! プレートで止まってる、あぁっ……でも痛いっ……」

ギコは無線に手を伸ばして、本部に急いで連絡を入れた。
しかし――

/ ゚、。;/「……っ」

(;,,゚Д゚)「あっ……」
 _、_
( ,_ノ` )

ワカッテマスの視線が向けられた小高い丘の頂に、村にいた男が、ギコ達に銃口を向けていた。
カラシニコフから昇る硝煙。
剣呑なその細い目。
男もまた、ギコ達を敵視する人間だった。

(;<●><●>)「くそっ、この野郎!!」

レッグホルスターからコルトを抜いて、ワカッテマスが撃った。
しかし当たらない。
当たる筈がない。
男との距離は優に200ヤード。

射撃訓練でも当てるのが難しい距離で、倒れた状態から当てるなど、無理だった。
男は距離を保ったまま、ギコ達に銃弾を浴びせて来た。
目の前の土が銃弾で耕され、ワカッテマスの腕がザクロの様に爆ぜたのを見て、ギコは失禁しそうになった。

(;<●><●>)「ひぎっ、たあがあああ!!」

叫ぶワカッテマスの喉を銃弾が食い千切り、声も無く悶え苦しむ。
やがて体は痙攣を初め、動かなくなった。

/ ゚、。;/「……」

(;,,゚Д゚)「う、撃ち返さな……返さなきゃ……!!」

しかし、カービンはギコの手の中で粉々になっていた。
強化ポリマーは、あまりにも脆かった。
まだ、ガバメントがある。
それを見て、男が眉を少しだけ吊り上げ、駆け寄ってきた。
 _、_
( ,_ノ` )

(;,,゚Д゚)「ひっ……!!」

その時の恐怖を、ギコは忘れた事はない。
鬼の形相で。
殺気立ったその眼は、ギコとダイオードを見据え。
明白な敵意と、これから殺すと云う事を語っていた。

(;,,゚Д゚)「う、うわあああ!!」

姿勢を変えて後ずさり、夢中でガバメントを抜く。
男がカラシニコフをギコに定める。
男が銃爪を引くよりも、ギコが構える方が早かった。
だが、だがしかし。

安全装置が、ギコを嘲笑った。
 _、_
( ,_ノ` )「……死ネ!!」

至近距離で、カラシニコフが火を噴いた。
響いた銃声は五回だったと、ギコは回想する。
そして、ギコに当たった弾はなかった。

/ ゚、。;/「け……ぁ……」

安全装置を親指が解除。
銃爪を人差し指が引いた。
.45口径の鉛弾は、男の左目を撃ち抜いた。

 _、。゚ ・ ゚
(;,_ノ` )

男は仰け反って倒れ、二度と立ち上がる事はなかった。

(;,,゚Д゚)「ダイオード!!」

身を挺してギコを守ったダイオードの口からは、血が溢れていた。
力なく倒れたダイオードの空と同じ色の瞳はぼんやりと、ギコを見ていた。
痛みか、それとも、悔しさからか。
ダイオードの眼には、涙が浮かんでいた。

/ ゚、。;/「……だい……じょうぶ……?」

(;,,゚Д゚)「あああ、ああ!! お、俺はいい、お、お前!!」

ダイオードが微笑を浮かべた。
口から滴り落ちた血が、ギコの頬に落ちた。

/ ゚、。;/「……良かっ……た」

(;,,゚Д゚)「ど、どうして……どうして……!!」

/ ゚、。;/「……だって……親友……だから」

(;,,゚Д゚)「あ、あああああ……ああぁぁぁぁ!!」

/ ゚、。;/「ねぇ……ギコ?」

切なげな声で、ギコの名が呼ばれる。

(;,,゚Д゚)「な、何だ、何でも言って見ろ!!」

/ ゚、。;/「……生きて……帰って……」

苦しそうに咳き込み、血が、再びギコの顔を汚した。
両手で支えていたダイオードの体が、ギコの上に覆い被さる。
思わず、ギコはダイオードの体を抱きしめていた。

/ ゚、。;/「僕…の……両親に……伝え……て……?」

耳元で、力なく囁かれる言葉に、ギコは全神経を集中した。

/ ゚、。;/「……僕は……へへっ…………
       誰も……誰も殺さずに……親友を守った……って……」

涙で濡れたダイオードの頬が、ギコの頬と合わさる。
そしてダイオードは最期に、親友の腕の中でこう言い残した。

/ ゚、。;/「……君と逢えて……本当に…………よかっ……たぁ……」

ギコの腕の中で、ダイオードは息を引き取った。
その日、ギコは二人の親友を目の前で失った。
仰向けに倒れたギコの眼に映る空には雲一つなく、眩しいぐらいに晴れていた。
――救護班が来てからも、ギコはその亡骸を抱きしめ続けた。

一年後、アルフェニス紛争から帰国したギコは、ダイオードのドックタグを手に、彼の両親の下を訪れた。
ドックタグを手渡してから、ギコは、ダイオードからの言葉を伝えた。
彼の両親――取り分け父親――は激昂し、ギコを押し倒し、馬乗りになって殴りつけた。
息子を侮辱するなと罵倒されたが、ギコはそれでも、何度でも同じ言葉を告げた。

誰一人として殺さなかった兵士がいた事を。
その兵士が今の自分を生かしてくれている事を。
ダイオードの持っていた銃に、〝一発も〟銃弾が込められていなかった事を。
傷付ける事のない兵士が、確かに存在した事を。

翌年、再びアルフェニスの地に舞い戻ったギコは、デミタスとビロードを殺した少年兵を射殺した。
その時に意図的に構図を変えて撮った写真を元に、軍人が無垢な子供を誤射して殺したと報道したのが、偶然居合わせたニッキ・J・マザーだった。
その写真は世界中に広まり、ニッキは一躍時の人となった。
世界中が紛争で戦う兵士達を非難した。

ピューリッツァー賞も夢ではないと噂されるようになったニッキは、その才能を発揮し、扇情的な構図のショッキングな写真を撮影し続けた。
時には、作戦に口出しをして、作戦中、兵士にポーズを要求したりもした。
行動は日に日にエスカレートしていったが、その有名さ故に、軍部も彼女を戦場から追い払う事が出来なかった。
世界中が、写真は銃よりも強い事を信じて疑わなかった。

後日、正義の報道の為にと口にして作戦について来たニッキを、ギコは敵の持っていたカラシニコフで撃ち殺した。
不運な事故としてそれは処理され、写真は結局、銃よりも弱い事が証明された。
その年、ギコはダイオードを侮辱した上官の頬骨と前歯をへし折り、除隊する事となった。
しかし結局、ギコは傭兵として戦場に舞い戻る道を選んだ。

それしか、道を知らなかったのだ。

―――Final chapter fin―――

ダイオードの話を終えた時。
トソンは、大粒の涙を流していた。
そして、子供の様に泣きじゃくり始めた。
嗚咽するように、溜めていた涙を全て押し出すように、トソンは泣き続けた。

違う、違うと、口にして。

(;、;トソン「ちっ……ちがっ……違うん……っです……」

(;,,゚Д゚)「……」

(;、;トソン「そう……そう……だった……そうだったん……ですね……」

(;,,゚Д゚)「え?」

(;、;トソン「えぐっ……ひっく……うぇぇ……」

ぼろぼろと涙が落ちる。
堪えようとしてもあふれ出る涙は、机を濡らし、服を濡らした。
ギコは何もせずに、ただ待った。

(う、;トソン

ようやく落ち着いたのは、日付が変わってから一時間ほど経ってからだった。

(う、;トソン「と、取り乱して……す、す……すみま……せん」

(;,,゚Д゚)「あ、いえ、気にしないでください」

(う、;トソン「……ダイオードは…………ミセリの父親……なんです」

(;,,゚Д゚)「なっ?!」

仰天するギコ。
青天の霹靂とは正にこの事である。
トソンは死んだ親友の妻で、ミセリはその娘。
確かに、シングルマザーであるとは聞いていた。

しかし、この様な巡り合わせが果たして有り得るだろうか。
奇跡を信じないギコは、この偶然をどう受け止めていいのか、分からずにいた。

(う、;トソン「ダイオードの……両親は、戦場で……立派に戦って、それで……死んだって……
     それ以外……教えてくれなくて……」

事実と反していない。
戦場で立派に戦ったと言われれば、誰だって、大勢の敵を殺した末に死んだと考える筈だ。
ようやく、ギコはトソンが戦場を知りたがった理由を理解した。
断片的にでも、ダイオードの生きざまを推測しようとしたのだ。

誰かを助けて死んだのかもしれない。
誰かを殺して死んだのかもしれない。
無関係な人間を巻き込んで殺したのかもしれない。
行方不明になっただけかもしれない。

あらゆる可能性が浮かぶ中、それらを振るいに掛ける為に戦場の情報が必要だった。
そうすれば、少しでも心の慰めになるかもしれないと信じていたのだ。
万が一にでも生存の可能性があるかもしれないと無意識の内に信じて。
想い続け、待ち続ける事、実に16年。

(;,,゚Д゚)「…………」

何と言ったものか、ギコは分からない。
親友の妻に、親友の死の瞬間を語ってしまったのだ。
それはある意味でトソンの希望を撃ち砕く行為だった。
だが――

(;、;トソン「ありがとう……ございました……」

感謝の言葉に、ギコは戸惑う。
傷だらけのギコの手を、トソンの柔らかくて小さな、涙に濡れた手が包み込んだ。
そして、トソンは雪解けが春を告げる様に、もう一度、口にした。

(;、;トソン「……ギコさん…ありがとう……ございます。
    それが分かっただけで……やっと、あぁ……やっと、気が楽になります……」

戦争に行った最愛の人を待つ人間。
その心中は穏やかな筈がない。
戦場で何をして、どうなっているのか、知りたがっているのだ。
たった一つの情報があるだけでも、その人間を救う事がある。

今回、トソンにとって、それはダイオードの生死と最期の瞬間だった。
ダイオードの言葉を思い出す。
彼の家族は、ジュード人を毛嫌いしていた。
だから、トソンに息子の最期を教えたがらなかったのだ。

それでも彼の両親がダイオードの死を教えたのは、きっと、ほんの少しの情が働いたためだと、ギコは推察する。
以降、ただ一人でトソンは探し続けていたのだ。
ダイオードに関する何か、ほんの僅かでも、彼の生死に関する情報を。
今日に至るまでの日々を想像するだけで、その愛の強さに絶句してしまう。

長かっただろう。
辛かっただろう。
何かに縋ろうとしただろう。
何度も諦めようとしただろう。

それでも。
それでも尚、トソンは諦めなかった。
誰も助けてくれない中、トソンは一途にダイオードを想い続けたのだ。
その情報に依存し、待ち続け、究極的な強さと愛情でミセリをたった一人で育てたのだ。

ある意味で、彼女を今日まで支えて来たのは生死に関する情報だった。
そして真実が分かった瞬間、トソンを形作っていた殻はひび割れた。
今まで彼女を支え、守ってきた殻。
頼ってきた殻に別れを告げ、ようやく、トソンは解放される。

図らずもギコはその手助けをしたのである。
あたかも、孵化を助ける親鳥の様に。

(;、;トソン「うっううっ……」

涙を流すトソンは、まるで生まれたばかりの赤ん坊の様に小さく、危なげだった。
その涙に濡れ潤んだ眼は、汚れを知らず、宝石の様に透き通っていた。
出来る事を考えるよりも、ギコの口と手は先に動いていた。

(,,゚Д゚)「…………よく、頑張りましたね」

そう言って、トソンの頭を撫でた。
トソンは拒絶することなく、その手を受け入れた。
ようやく、雛鳥は殻を破って世界を見る事が出来たのであった。

――Last chapter fin

op09.jpg

三年の月日が経っても、世界は相変わらずだった。
だが、ギコ・カスケードレンジを取り巻く環境は大きく変わった。
アーリジュ合衆国の大統領の椅子を得たのは、終盤で驚異的な追い上げを見せたアニジャ・バーティゴだった。
アニジャは対抗馬であったジャンヌ・アヴェ・マリアを国防大臣の椅子に座らせ、世間を驚かせた。

持ち前の指導力と行動力を発揮して、ジャンヌはアニジャに指示された国に向けて、軍を派遣した。
まだ、何もかもが始まったばかりだった。
しかし、アーリジュはこれまでとは違った歩みを始めていた。
きっといつの日か、その成果が表れることだろう。

サマリーに向かった五人の子供達は、それぞれの道を歩んでいた。
茂名輝はアーリジュの海兵隊に入隊し、サマリーの海賊対策部隊に加えられ、今頃は大海原の治安を護っているだろう。
レモナ・インハイトは専門学校に進学後、国境なき医師団の一人として南米に飛んでいる。
イモジャ・バーティゴは国内最難関の大学に成績最優秀で進み、勉学に打ち込んでいる。

シィ・ベンジャミンは何と軍属の従軍司祭になった。
彼女の両親は心配のあまり、傭兵であるフサ・トロントに警備を依頼し、二人は世界各地を転々としている。
クー・アケーディアは論文の取材の為、ヒート・O・ワイルドを引き連れて――詳細は不明だが――世界中を飛び回っている。
人生何が起こるか分からない。

最大の変化は、ギコ自身の身に起きていた。

ミセ*゚ー゚)リ「早くいこーよ!!」

元気よく玄関を飛び出す、ミセリナ・ウォーマック。
大学生となったミセリの顔は大人びていて、その表情は幸福感に満ちていた。
将来は、母親に似た美人になる事だろう。

(,,゚Д゚)「あぁ、先に車に乗ってろ」

キーを投げて渡す。

ミセ*゚ー゚)リ「うん!!」

それを受け取って、ミセリは玄関を出て行った。
ブーツの靴紐を結び、ギコは立ち上がる。

(゚、゚トソン「ギコさん、今日もミセリをお願いしますね」

ミセリの母親、トソン・ウォーマックが靴を履きながらそう言った。
表情から憂いは消え、今や、清々しさが浮かんでいた。
初めて会った時に比べてよく笑う様になったのが、ギコは嬉しかった。

(,,゚Д゚)「勿論です」

女の二人暮しは不安だし、手が足りない時が多いからと頼まれて、ギコはダイオードの代わりと云う事で今、ウォーマック家に住んでいる。
昔に比べたら、信じられない変化だった。
自分が誰かと一緒に住む事になるとは、夢にも思っていなかった。
徐々に暮らしに慣れて来たギコは、新たな職ともう一つの変化を得た。

職――と言っても、月に100ドルだが――とは、トソンとミセリの身辺の世話とサポート。
それは願ってもない頼みだった。
贖罪と感謝を果たせるのなら無休で死ぬまで働きたいと願い出たが、トソンにやんわりと断られた。
ギコの使い切れないほど貯め込んだ金の全てをトソンとミセリに託し、ローンなどの返済に充ててもらう事で、どうにか今の条件に落ち着いた。

朝の任務は、二人を職場――ミセリは大学――に送る事。
その後、庭の草刈りや家の掃除、買い物をして、時間になったらトソンとミセリを迎えに行く。
平穏な日々。
ギコとは無縁に思えた、安寧の日々。

トソンと共に玄関を出る。
パステルブルーの空は遥か遠く、優しげな色をしていた。
家の前に停められたセダンの助手席から、ミセリは手を振って二人を呼ぶ。

ミセ*゚д゚)リ「はりーあっぷ!!
      遅刻しちゃうよおおお!!」

急かされて、ギコは苦笑しながら駆け足で車に向かう。
厳寒の施錠を確認したトソンも小走りで後について、車に乗り込んだ。
シートベルトを締めてから、ギコはセダンを走らせた。
冬の気配が近付いて来た街並みは、繊細な絵画とは違うが、それなりの風情がある。

オフィス街に着くと、そこは既に軽く渋滞していた。
イエロー・タクシーの群れを滞りなくやり過ごし、通い慣れた目的地に到着した。
家から6マイル程離れたトソンの職場前で停め、トソンが一足先に下車する。

ヽ(゚、゚トソン「では、また後で」

小さく手を振って、トソンは職場に向かった。
次に、ギコは大学に向けて更に10マイル走らせる。
車内では、ミセリが話題を振ってくれるので、ギコは気が楽だった。
いつになく、ミセリは上機嫌だった。

フォートワース大学の象徴とも言える煉瓦色の講堂が見えてくると、ミセリがそわそわとし始めた。

(,,゚Д゚)「トイレか?」

飛んで来た拳を、ギコは難なく避ける。

ミセ;゚д゚)リ「どーしてそう云うことを女の子に向かって顔色一つ変えずに言うんですか!!
     違いますってば!!」

(,,゚Д゚)「生理現象なんだ、気にする事は」

回避不可能な上腕部を狙って出された拳を、掴みとる。

(,,゚Д゚)「……違うのか」

ミセ;゚д゚)リo 「そう言ってるじゃないですか!!
      もーやだー!!」

(,,゚Д゚)「まぁ、それはとりあえず」

正面玄関前に出来た送迎の車の列に、ギコも並んで停める。

(,,゚Д゚)「ほら、行って来い」

ミセ*゚д゚)リ「……うー」

(,,゚Д゚)「予鈴が鳴ってから、ここから教室までの時間は?」

ミセ*゚д゚)リ「……徒歩5分、全力疾走3分」

ギコは首を横に振った。

(,,゚Д゚)「今日は混雑が予想される。
    進む人間の歩行速度も遅いし、二人一組で手を繋いで進路を妨害する例も多くある。
    見ろ、あのカップルは厄介だぞ。後ろにいた自転車の男が諦めて降りただろ。
    あんなのがわんさといると考えれば、徒歩7分だ」
   _,
ミセ*゚益゚)リ「ぐぬぬ……!!」

(;,,゚Д゚)「おっかない顔で睨むな!!」
   _,
ミセ*゚-゚)リ「…………」

(,,゚Д゚)「……ちゃんと、終わったら電話をするんだぞ。
   もしも時間があれば……クレープぐらいは買ってやる」

ミセ*゚д゚)リo 「いえっす!!」

(,,゚Д゚)「さぁ、ほら」

ミセ*゚ー゚)リ「ギコさん、その前に」

(,,゚Д゚)「あん?」

ギコの頬に、ミセリがそっと口付けた。
予鈴が、大きく鳴り響いた。

ミセ*゚ー゚)リ「……行ってきます、ギコさん」

悪びれもせず、頬を桜色に染めて、ミセリは車を降りて駆け出した。
流石は陸上部らしく、人の間を巧みに潜って走る後ろ姿は、颯爽としていた。

(,,゚Д゚)「……行ってらっしゃい、ミセリ」

我知らず嬉しそうな声が、ギコの口からもれた。
まだ今日は始まったばかり。

――見上げた青空は眩しくて、美しい空に心を洗われる気がしたのであった。
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